第40話 破棄って流行ってるから破棄しちゃいました
俺たちはゼアルに別れを告げて守護の塔を出ると、そのままの足で王宮も後にした。
とはいえこのまま帰るわけではない。明日またゼアルと会うために、プレゼントを用意しなければならないのだ。
俺は木造の家屋が並ぶ城下町を歩きながらリュックを探り、奥底から虎の子のモバイルバッテリーを取り出してスマホに繋ぐ。
「ナオヤ、それ」
アウロラにはスマホの力を回復させる方法だと伝えてある。
もちろん、一度か二度しか使えない事も。
「必要なんだ」
スマホの画面に電池のマークが浮かび、充電が開始された事を知らせて来る。
このまま充電を待っていたら時間が足りなくなるだろうから、バッテリーをくっつけたまま使うしかないだろう。
「ねえナオヤ。私は何をすればいい?」
アウロラはいつも俺を支えてくれる。
今回も、何をするつもりなのかも知らずに報酬を投げ出してくれたのだ。
本当はまず礼を言うべきなのだろうが、俺は一旦ありがとうを飲みこむと何をすべきかを伝えた。
「……分かった。じゃあ手分けして探しましょ。集合場所も決めなきゃね」
「ああ。俺は来たことないから任せる」
「私も無いわよ。でも何となくは分かるかな」
さすが狩人並みの感性と方向感覚を誇るアウロラだ。こういうのは本当に頼りになる。
任せておけば、程なくして見つけてくれるだろう。
もちろん俺も探して回るが。
「じゃあ行ってくるね。ナオヤは慣れてないならこの辺りから離れないでね」
そう言ってだいぶ小さくなった王宮を指す。
「分かった」
見つけてあげるわ、とお姉ちゃん風を吹かせるアウロラに、
「ありがとう、アウロラ。俺の我が儘に付き合ってくれて。しかも報酬まで全部手放すなんて……」
ようやく遅すぎる感謝を口にした。
「いいのよ。だって私はお姉ちゃんだもの」
いつもはちょっと不満に思う言葉も、今はとても頼もしく感じる。
不思議と素直な心でそれを受け入れる事が出来たのだった。
それから俺らは走り回って目的の物を手に入れてから王宮へと帰ったら……。
「なにしてくれてるんですか、ナオヤさん。アウロラちゃん」
通用門をくぐったところで、鬼と見紛うほどの雰囲気を纏ったセレナが俺たちを待ち構えていた。
思わず回れ右して走り出しそうになったのだが、それをすれば後程更にでかい雷が落ちると分かり切っていたので、必死に我慢をする。
「あ、あの~えっと~……」
「な、何が悪かったのでしょうか……」
震えながらおたついているアウロラの言葉を継いで、セレナに理由を問う。
正直言って、俺もアウロラも、彼女をここまで怒らせる理由にまったく心当たりが無かった。
「へぇ」
鬼が笑みを浮かべる。
俺たちは瞬時に背筋が凍り付いてしまい……。
「す、すみませんでしたー!」
「ごめんなさいぃぃ!」
迷わず、軍隊もかくやというほど直立不動の体勢で頭を下げた。
そのままかなり長く感じる――本当に感じただけだろう――静寂の時を過ごし、ようやく、ふぅっとため息が聞こえて来る。
それが許してくれた合図かなぁと思った俺とアウロラは、体は90度曲げたまま、首だけ上げて――、
「許してないから」
また下げざるを得なかった。
「……なんて。いいわよ、もう」
頭の上から苦笑が降ってきて、ようやく許してくれた事が分かると、思いきり俺はため息をついて――。
「はふぅ……」
同じタイミングでため息をついていたアウロラと顔を見合わせ、二人で苦笑いを浮かべる。
「あのね。きちんと段取りとか組むから、勝手するのは止めてね?」
「……えっと? 何を、でしょうか」
よく分かっていなかったので正直にそう告白したら、セレナは再びため息をつきながら人差し指でこめかみをぐりぐりと揉み解す。
大方激しい頭痛にでも見舞われているのかもしれなかった。
「あなた達二人共! 報酬を要らないとか言って自分から破棄したでしょ!?」
ああ、それで勝手に、か。何か悪かったのかな?
「破棄というか、一日時間を貰うっていう感じでして……」
「それよそれ。というかほぼ破棄と変わんないわよ、もう」
「すみません」
セレナが言うに、どうやら俺たちの報酬を最大限確保しようと、相手の役人たちと、
それでかなりの利益を確保してくれていた矢先、俺たちが報酬を破棄してしまったのだから……その虚無感と徒労感はすさまじいものだった。
しかもそこから陛下のお時間はとんでもない報酬だからむしろセイラムの予算を減らさねばなどという難癖どころか言いがかりをつけて来たりともうとんでもない事態にまで発展し、かなり大変だったのだそうだ。
事務は大変。よし、覚えた。
「ご迷惑かけてしまってすみませんでした」
「ナオヤさん……この場合はアウロラちゃんもか。二人の破天荒っぷりはよく理解してるから別にいいわよ。というか報酬破棄なんてよく言えるわね……」
「あはははは……」
ちなみに報酬は、宝くじの一等に2、3回は当選するぐらいの額が貰えるようだったが……全部ゼロになってしまっていた。
まあ、いっか。まったく実感わかないし。
「また稼げるから平気って事なのかしら?」
「いやぁ、あんな死ぬ思いは出来れば勘弁したいところですが」
命の遣り取りどころかほぼ一方的に
なんかあの時はやらなきゃ死ぬっていうのと、逃げても先は無いっていうのや、俺なら倒せるかもしれない、なんて様々な要素が合わさって感覚が麻痺してたからやっちゃったって感じなんだよな。
「私はお金なくても森に行けば何か食べられるし?」
それはなんか悲しいから言わなくていいよ、アウロラ。
甘いものが食べたいからって定期的にハチと格闘してた話とかもう聞きたくないからね。
「二人共なんかぶっ飛んでるというか、感覚がズレてるっていうか……」
きちんと定期的にお給料をもらっている職員からすれば、こういう報酬をドカンと貰ったり、それを破棄したりするのが信じられないのかもしれなかった。
「あははは……」
俺も自分がこんな事するなんて思いもしなかったけど。小遣いとかちょっとしたバイト代に一喜一憂してたもんなぁ。
それが億に匹敵する金を平気で破棄するとか。
実際に手に入ってないから出来たのかもしれないけど。
「ねえ、それってそこまで価値がある事なの?」
「もちろんよっ!」
俺より先にアウロラが答えてくれる。
確かに俺も自信をもってそう言い切れる事だと思っていたが、アウロラもこうして後押ししてくれるのは嬉しかった。
「そうだ、セレナさんも手伝ってもらえませんか?」
「手伝う?」
「はい。簡単なんで、お願いします」
そういいながら俺はポケットから布で包んで何か分からなくしたスマホを取り出し、スイッチを入れて――。
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