魔法学校卒冒険者の学び直し~ホワイト企業に就職したいけど魔法力が貧弱で無理ゲーなのでロリに魔法教えてもらってます~

梅星さん太郎

第1話:面接

「では、タクヤ・シムラさん、早速ですが自己PRをお願いいたします」




(ぐっ、まただ……! この吸い込まれそうな感覚……)




 タクヤ・シムラと呼ばれた青年は、有名魔導企業の採用面接の真っ最中だ。




 相対する面接官はいい年した中年の男が3人。


 真ん中の3人の中では比較的若めな面接官がメインで応対し、左のオールバックのヘアスタイルの面接官はそっぽを向き退屈そうにペンをくるくる回しており、右の俗に言う“バーコードスタイル”な面接官は若干白目を剥き眠気ををこらえている。




(おい右のおっさん! お前の鼻の穴に細長く伸ばしたティッシュ突っ込むぞ!?)




 タクヤは内心少し苛立っているようで、それを紛らわせるかのようにふざけた想像をふくらませていた。




 着慣れないスーツをビシッと着こなすタクマは、今にもここから逃げ出したいという、チキンな気持ちをぐっと押さえ込み、正面の面接官に意を決し返答する。




「私は、現在タンク職のバイトをしているのですが、鎧を着ることができないのでバリア魔法で補いながらパーティの仲間を支援しています。バリア魔法に関しては他の誰にも譲れない精度と機能を持っていますので、それを活かし、御社の魔導セキュリティシステム構築・運用に大きな貢献ができると考えております。正社員としてどうか私を使ってはいただけないでしょうか? 正社員としてです!」


「ほう…………、なるほど。あなたは弊社の魔導師職を希望ということでよろしいですかね?」


「ええっ、はい!」


…………


(はっ――――!? 今俺、2回言っちまったか?念を押して“正社員”と二回言っちまったのか!?)




 現在魔法関係の正社員は危険な戦闘現場に駆り出される出されることもない業務が大半であり、安全でしかも高給取りな美味しい仕事なのだが、タクマは彼らへの羨ましさのあまりついボロが出てしまったのである。




(そう―――― 現状、俺は楽をして大金を稼ぎたいという大いなる夢を引っさげてこの面接に挑んでいるのだっ!)




「でも君タンクの経験しかないようだね?魔法学校を卒業しているようだから、一応魔法は使えるようだけど、実は今うちの会社は魔法を使える人はいっぱいいるんだよね〜」


「いやでも、先日の御社の求人情報では魔導師(正社員)急募と書かれていたはずですが…」


「あ、言い忘れてた、ごめんね〜。うち第2新卒の魔導師はとってないだよねぇ〜。でも現場部門タンク職の枠はまだあるから、君、タンクの経験あるしタンク職でなら正社員で雇ってもいいんだけどどうかな~?」




(……えっ……?)




 タクヤの表情から営業スマイルならぬ面接スマイルはとうに消え失せ、額に脂汗が浮かび、眉は引きつり出し、無意識にひくひくと小刻みに動作させていた。




 希望職種の話から強引に彼が全く希望していない職種への勧誘に強引に切り替えをされ、動揺を隠しきれなくなっていた




 タクヤがここまでして現場系タンク職を拒む理由はある。




 そもそもタンク職とは戦闘任務におけるいわば“動く人間盾”の役割を指す。




 役割の特性上当然タンク職は命がけであり、更に加えてな割に労働単価が安い、しかも地味なので世間からの評価も過小評価である。


故にタンク職は人気がなく、人手不足なのである。


「う〜ん、では今回はご縁がなかったことで…」


「…………」




 タクヤは糞、またか、という自身の心の叫びを隠しきれない表情を浮かべていた。




「そんなに露骨な表情浮かべないでくださいよ。そんな態度だから今まで魔法学校卒業してるのに魔導師として採ってもらわなかったんじゃないですか? シムラさん、だいたいあなたは正魔導師の職歴がないじゃないですか? 舐めてるの? あまり我々の業界を甘くみないでもらえないかなぁ〜?えっ?」




「……すいません……」


 正面真ん中のやや若めな中年面接官はタクヤの弱気な態度に追い打ちをかけるかのように恫喝、いや逆ギレとも言える言動をタクヤに叩きつけた。


一方、両サイド、左のオールバックの中年面接官は“あ~あ、またやっちまったよ、あいつ(笑)”と他人事のようなリアクションを取りまるで他人事、右のバーコード中年面接官は上を向き大口を開けて、鼻からは鼻提灯を出して爆睡していた。




(おいっ! ハゲ! てめぇっ!その口にフリ○ク投下するぞ、コラッ!?)




 タクヤは面接官揃いも揃って三人三様で態度が悪かったので、彼の苛立ちはピークに達していた。


そのため彼の視界は中央にいる面接官を中心に時計回り、反時計回りを不規則に繰り返す、いわば“めまい”の感覚に襲われていた。




 さらに中央の面接官は、立て続けに、


「あ~い、すいまて~んっ! て、最近の若者は謝りゃ何でも許してもらえると思いやがって。んんっ! コホン! 失礼! 他に言いたいことはありますかね?」


「いいえ、ございません。すみません、私これからアルバイトのシフトの時間が迫っておりますので失礼します、本日は面接の機会を下さりありがとうございました」




 タクヤもここにいると怒りが暴発しそうであったので、なにか事件を起こすまいと面接会場を早々後にすることにしたのだった。

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