第45話 カフェ・オ・レ パスタ
子供の落書きのようなアイディア料理を作って食べることになった不動明王。
ちょっと顔色が悪くて元気がない。
付き合わされるオタク神主は、もっと元気がない。ミカエル君はとても心配そうだ。
「楽しみだね!」
期待にはち切れそうな鳥居ちゃんだけが元気だ。
「…。」
「はい、まずは材料を揃えます。食材はパスタ、にんにく、ベーコン、たまねぎ、エリンギ、とうもろこしです。
調味料は生クリーム、ピザ用チーズ、黒こしょう、パセリのみじん切り、パセリ(おっ立て用)、ココナッツオイル。そして水 500mlとインスタントコーヒー 大さじ1と1/2、塩少々です」
無言の不動明王をフォローしてオタク神主が用意したものを読み上げる。
「わあ!お料理番組みたい!」
鳥居ちゃんが嬉しそうだ。
「…。」
「じゃあ、さっそく準備してみようね」
空気な不動明王の横で無表情のオタク神主が、にんにくを潰し、ベーコンとたまねぎ、エリンギをカットし、とうもろこしの実をこそげ取る。
「調理を始めまーす」
淡々と進めるオタクの隣で不動明王が相変わらず無言のお荷物だ。エプロンが無駄である。
フライパンでココナツオイルとにんにくを入れて、香りが立ってきたら、たまねぎ、ベーコン、エリンギを加える。
「美味しそうな匂いだね!」
「そうだね。(ここまではいいんだ、ここで止めたい)」
心の声に逆らって水、コーヒー、塩を加えた。
沸騰してきたのでパスタと、とうもろこしを加え、煮る。
「わあ!パスタがコーヒー色になったね!」
「そうだね、ハハハ。コーヒー色だね」
汁気ががなくなってきたので、生クリーム、ピザ用チーズを加えて手早く混ぜる。
「わあ!出来上がりは近いね!」
「そうだね、ハハハ。出来上がりは近いね、ハハハ」
―― 出来上がって欲しくは無いが、出来上がってしまう……。
不動明王の顔色がさらに悪くなる。
器に盛りつけて黒こしょう、パセリを散らす。
「鳥居ちゃん、パセリを刺す?」
「いいの!?やりたい!」
ぶすっ!
「上にパセリを1本立てて完成でーす」
不動明王の顔が絶望に染まる。
―― ワシはこれを食さねばならぬのか…。
かちゃ。
オタク神主が小皿とフォークを用意した。
盛り付けは大皿に、小皿とフォークは人数分。
―― 大丈夫、食べるの手伝いますよ。
オタク神主の目がそう語っていた。
―― オタクよ……!
不動明王の目に涙。
鳥居ちゃんは不動明王が食べるのを楽しみにしているので、まずは不動明王が食べる。
「あーん、もぐもぐもぐ……」
ミカエル君とオタク神主が心配そうだ。
「もぐもぐもぐ…美味いな」
嫌そうな顔色から普通の顔に戻った不動明王が、もう
―― いや美味い訳ではない。美味いは嘘だ、言い過ぎた。しかし普通に食す事ができるレベルだ。
「では僕も。あーん、もぐもぐもぐ。普通ですね。話題性から一度は作ってみるものの僕だったらリピートしようとは思わないですね」
―― 美味いは失言ですよ!
オタク神主が不動明王を睨む。
―― すまぬ。
重要文化財が新米神主に平謝りだ。
「ミカエル君と鳥居ちゃんもどうぞ。苦くはないですよ」
―― 我ら一人当たりの量を減らす作戦か!オタクよ、お主はなかなかの戦略家だのう!
―― 僕はグルメなんですよ。
「わあ!いただきまーす!」
「僕も少しだけ…」
あーん、もぐもぐもぐ…。
「面白い料理だね!」
「うん、僕もオタク君と同じ感想かな。普通に食べられるけどリピートはしないかなあ」
「ねえ鳥居ちゃん、美味しい料理は他にもたくさんあるんだよ。このパスタは今回限りにして、鳥居ちゃんには僕のおススメする料理を食べてもらいたいな」
「ありがとう!私もオタク君の料理が大好きだよ!」
オタク神主のファインプレーが光る一日だった。
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