第25話 草野球って楽しいね
カープの活躍が嬉しくてソワソワしたり、負けた翌日は元気が無かったり。
もちろん神社仏閣の関係者にもカープファンは多い。そして当然のように草野球チームを結成し、楽しんで活動している。
「野球って何?」
フランスの修道院出身のミカエル君も、生まれたての鳥居ちゃんも野球を知らなかった。
ゼロ知識だが、大人たちが楽しそうに話しているのを聞いて興味津々だ。
「野球はね、1チーム9人ずつで構成された2チームが守備側と攻撃側に分かれて競い合う球技だよ」
「このボールを投げて、このバットで打つんだ」
「両チームは攻撃と守備を交互に9回ずつ行って、得点の多さを競うんだよ」
「沢山、得点したチームが勝ちだよ」
「……。」
「……。」
ぼんやりと、分かったようで分からない2人。
「野球を見てみたい!」
「僕も!」
「……。」
「……。」
お寺チーム(チーム名はテンプルズ)も神社チーム(チーム名はシュラインズ)も、ぶっちゃけ強くない。強くないというか弱い。
弱いけど地道な練習はせずに、いきなり練習試合を楽しみたいし、試合後の打ち上げで乾杯したいのだ。
なのでネットで近隣の弱そうなチームを探しては試合を申し込んでいた。
「鳥居ちゃんとミカエル君の存在は内緒だから…」
「一般のチームとの試合には呼べないから…」
チラリ。
「……。」
チラリ。
シュラインズとテンプルズのメンバーがお互いをチラチラ見る。
「……。」
「……。」
ワクワク顔の鳥居ちゃんとミカエル君と目があった。
―― 目が合ってしまった。
「試合…」
「……しちゃう?」
テンプルズとシュラインズで練習試合をすることになった。
試合当日、シュラインズとテンプルズのメンバー全員、赤かった。
「お前たちもか……」
「まあお互いに知ってたけどな……」
シュラインズもテンプルズもカープのユニフォームに激似なユニフォームだった。まるで味方同士のようだ。
「鳥居ちゃん、ミカエル君、これをどうぞ」
「手で持ってカチカチ鳴らす“応援しゃもじ”だよ」
「応援してね」
「うん!」
鳥居ちゃんとミカエル君が、めっちゃカチカチした。
特に鳥居ちゃんは最初から最後まで両チームを全力で応援した。神様の御使いには疲労というものがないようだ。
ミカエル君は休み休みバランス良く応援した。体力ではなく性格によるのかもしれない。
しかし応援の甲斐なく、試合は0対0のまま8回の裏を終えた。
ぶっちゃけテンプルズもシュラインズも超弱かった。もみじ饅頭屋のご隠居たちで結成したオールド・メイプルズにも勝てなかった地域で評判の弱小チームだった。
しゃもじをカチカチさせて楽しそうな2人を見て胸が痛い。
「タイム!」
シュラインズとテンプルズが一緒に相談を始めた。しかし初めて野球を見た鳥居ちゃんもミカエル君も、初心者過ぎて違和感を感じていなかった。
「鳥居ちゃん、ミカエル君、ここまで見ててだいたい分かった?」
「うん」
「投げて、打つんでしょう?」
投げて打つ……打つ……。今日、2人は空振りしか見ていないのに……。目から汗が流れそうだ。
―― 何人かのメンバーが、そっと目の汗をぬぐった。
「それでね、2人も打ってみない?」
「いいの?」
「嬉しい!」
鳥居ちゃんとミカエル君の顔が輝いた。
「鳥居ちゃんはシュラインズね」
「ミカエル君はテンプルズだよ」
「いっくよー!!」
鳥居ちゃんがブンブンとバットを回す。
「鳥居ちゃん!打ったら走るんだよ!」
「右から順番にベースを踏んでね!」
「分かったー!」
テンプルズのピッチャーが投げたボールを…鳥居ちゃんが打った!シュラインズの歓声を受けて鳥居ちゃんが走り出す。
―― 鳥居ちゃんは早かった。
狐のように四つ足で走る鳥居ちゃんが誰にも止められることなくホームに帰還した。
「すごいや!鳥居ちゃん!」
相手チームのミカエル君がしゃもじをカチカチさせて鳥居ちゃんに声援をおくる。
鳥居ちゃんの後に続くメンバーは、あっさりと空振り三振に終わった。
「ミカエル君!頑張ってー!!」
鳥居ちゃんに敵チームという認識はなかった。
シュラインズのピッチャーが投げたボールが大きくコースを外れたが…ミカエル君が打った!
翼を広げ、羽ばたきながらボールを打ったミカエル君は神々しかった。そしてテンプルズの歓声を受け、飛ぶミカエル君は早かった。
テンプルズは同点に追いつき、試合は引き分けに終わった。
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