第五章 BLOOD・K

第1話 潜入任務

『夏美ちゃん。そっちの様子は大丈夫かい?』

「今の所怪しい様子はありません。翔さん達の方は?」


 冬美と共に人目につかない場所に身を隠してその場にしゃがんでいた夏美は無線越しで翔に尋ねた。七月も上旬に入り、新戦組本部情報管理室の調査の過程で、横浜市のビル街地下にMASTERの支部があることが判明し、新戦組副長の上原薫は九番隊組長の花咲夏美と十番隊組長の花咲冬美。そして特殊部隊・陽炎の面々に支部制圧任務を下した。


 情報管理室の調査から、この支部はこれまで制圧した支部の中でも青梅支部に匹敵する規模があると考えられ、現在本部に駐留しているメンバーの中から拠点の制圧力に長けたメンバーで任務を遂行すべきと判断して彼女達が選抜された。しかし内部への潜入に成功したものの、規模が大きい為に正攻法では迅速な制圧が極めて困難と翔は判断し、チームを夏美と冬美の二名、翔と清輝の二名。そして哀那と麗美の二名に分かれ、三方向からの同時攻撃を仕掛けることを提案した。


『俺達の方も、今の所はトラップの気配も無い……が、引き続き警戒を解かないように注意しろよ。もうじき麗美と哀那から合図がある』

「了解」


 そう言って夏美は無線を切った。


「冬美。闘気感知の方はどう?」

「この辺りに闘気を持った人はいないみたい……今の所はだけど……」


 夏美は自分と同じようにその場にしゃがんで両手に水の闘気を集約させて闘気感知を行っていた冬美にこう話しかけた。


「そう。でも翔さんの言う通り油断はできないわね……確か麗美達が入ったのは南東の方角からだったから……北西から侵入した私達と、南西から侵攻した翔さん達が一気に雪崩れ込む手筈だから……」

「奇襲開始時刻は午前十一時……あと十秒ね……」


 冬美は腕時計を見ながら夏美に話しかけた。


「……陽炎でずっと奇襲や暗殺任務を多く手掛けた麗美達なら、あっという間にやってくれるわよ」

「そうね……」


 そう語らいながら、そろそろ頃合いと見た二人は腰に下げていた得物を手にしだした。その直後。遠くから「ドガァァァン‼」という激しい爆発音と共に無数の男達による悲鳴が聞こえ始めた。


「今の爆発……麗美の光の闘気ね!」

「行きましょう。お姉ちゃん」

「分かってるわ。冬美!」


 冬美のその言葉に応え、夏美は両手に持ったトンファーに炎の闘気を纏わせてその場から駆け出した。


「なっ……ここにも連中が⁉」

「怯むな‼ 迎え撃て‼」


 騒ぎになっている現状に混乱している状態の構成員達は腰に下げた鉈を手にして夏美に襲い掛かった。


「気付くのが遅いのよ!」(女豹乱舞‼)


 夏美はそう言いながら向かってきた構成員達に炎を纏ったトンファーによる猛烈な連撃を繰り出した。


「ぐあぁぁ‼」

「痛い‼ 熱いぃぃ‼」


 構成員達は悲鳴を上げながらその場に次々と倒れこんだ。


「冬美‼」

「行くわよ!」(氷雨‼)


 既にパラソルにおびただしい量の水の闘気を氷に変化させていた冬美は夏美の眼下で悶えている構成員達の奥で怯えている構成員達目掛けて無数の氷柱を放った。


「ぐはっ‼」

「く、くそっ……」


 構成員達は次々と氷柱に身体を貫かれてを受けて倒れていった。


「改めて思うけど、大師討ちとウチの情報管理室の連携は凄いわね」


 夏美は冬美と共に拠点の中枢部を目指して走りながらこうつぶやいた。


「副長も言ってたけど、地理や環境的に襲撃を受ける可能性が少ないと思われる場所に拠点を置いているMASTERの傾向を考えれば、こういう拠点があっても不思議じゃないらしいわね」


 冬美も感心した態度で答えた。


「拠点の規模が大きくても構成員の錬度が低ければ、相対的に制圧難易度も低くなるはずよ」

「それがあたし達を一番助けてくれてるって考えると、本当に心強い存在ね」

「そうね……⁉」


 急に冬美は身体をビクッっと震わせた。


「どうしたの? 冬美……」

「……闘気を感じるの……それも結構大きい……」

「感知できる範囲にそいつがいるのね……なら尚更、油断大敵‼」


 二人はそう話し合いながら走り続けた。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


「にしても、規模の割には随分とチョロイわね。さっきのあたしの攻撃もあいさつ程度だったのに腰が抜けちゃってる奴がいたんだから……」



 夏美達と同じく拠点の中枢部を目指して哀那と共に走っていた麗美は、突入直後のMASTER構成員達の醜態を嘲笑っていた。というのも、先程突入の合図の為の先制攻撃を麗美は仕掛けたのだが、光の闘気を纏わせたボウガンの矢の一撃におののいて身動きが取れなくなったMASTER側の構成員達のリアクションがあまりにも滑稽だったからだ。

 ある構成員はその恐怖で足がすくんで動けなくなり、別の構成員は麗美の放った一閃に驚いて腰を抜かして泣き出したりなど、とてもテロリストのリアクションとは言い難いものだったのだ。


「でも油断は禁物よ、麗美」


 しかし一連の麗美の嘲笑を聞いていた哀那は冷静に麗美を諭しだした。


「ここの拠点は襲撃の危険性が今まで低かった地域だったのもあって、構成員の錬度もそう高くないし、施設の警備も多少は強化されたとしてもまだ全ての施設にそれが行き届いているとは限らない……当然、警備が不十分な拠点もあるって副長も言ってたでしょ?」

「そりゃそうだけど……にしてもあれは情けなさ過ぎじゃない?」

「麗美ったら……まあその楽観的な態度こそ、いつもの海堂麗美だからね」

「さすが哀那‼ 分かってるじゃん!」


 哀那の諦め顔を見た麗美は胸を張りながら言った。その顔を見た哀那は更に呆れ返った様子でため息を一つ吐くのだった。

 すると哀那と麗美の無線に突然声が入って来た。


『哀那ちゃん。麗美ちゃん。さっきから近くに強力な闘気を持った人の気配を感じたわ』

「何ですって? ということはこの施設の中枢部にそいつが……」

『可能性は高いわ。気を付けて』


 無線越しに聞こえる冬美の声はやや切迫したものがあった。よほど危険な敵なのではという感情がひしひしと二人に伝わって来た。


「ありがとう冬美‼ とにかく気を付ければいいんだね!」

『そうよ。翔さんと清輝さんにもこのことは伝えたから、もうすぐ合流すると思うわ』

「サンキュー! その時はあたし達の連携を見せてやろうじゃないの‼」


 冬美の警戒心を強める言葉に触発された麗美は俄然やる気になって力強く応えた。


「いたぞ‼ かかれぇ‼」

「このまま好きにさせるかぁ‼」


 すると麗美達が向かっている方向から大きな声が反響してきた。哀那は手にしていた大太刀に闇の闘気を纏わせ始めてた。


「麗美! 構えろ!」

「分かってる‼」


 麗美は元気いっぱいに叫びながらボウガンの矢に光の闘気を纏わせて構えた。


「いたぞ‼ 迎えう……」

「遅いわよ‼」


 麗美は向かってきた構成員の声を遮りながら矢を放った。放たれた矢は構成員の一人の左胸に命中した直後に纏っていた光の闘気の爆発で辺りの構成員をも一瞬にして肉の塊に変えてしまった。


「ちくしょう‼」

「怯むな‼ 怯むんじゃ……」

「隙あり過ぎよ……」


 そこに哀那が奥から向かってきた四人の構成員の胴体目掛けて闇の闘気を纏う大太刀の鋭い斬撃で両断し、その屍は闇の闘気によって一瞬にしてミイラのように腐った。


「施設自体の複雑な地形に頼り過ぎて、ここの構成員の錬度はさほど高くないようね。やはり最も警戒すべきは闘気を持った人物……」

『そうみたいだぜ』

「リーダー‼」


 突然無線越しに翔の声が聞こえてきた。麗美は突然のことで少し驚いた声を出してしまった。


『俺達も既に中枢部付近まで来ている』

『この辺り一帯の構成員も、俺達が既に仕留めましたよ! あと警戒す出来は闘気の奴、ただ一人!』


 翔に続いて清輝もハツラツとした声で報告した。


「みたいね……じゃあ合流してそいつとかち合ったら、あたし達と夏美達の連携で仕留めよ‼」

『そうだな……どちらにしろ全力で当たる必要がある。気を引き締めろよ!』

「「了解!」」


 二人が応えて直ぐに翔と清輝からの無線は切られた。


「急ご‼ 哀那!」


 麗美のその言葉に、哀那は微笑みながらアイコンタクトで答えた。

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