バブみがあればオギャることなど容易い!
小説本文
突然だが『バブみ』という言葉をご存じだろうか?
端的に言うと、母親が持つ包容力や庇護欲といった母性が特に突出した女の子に対して、『母親になってもらいたい』『育てて欲しい』『甘やかして欲しい』と強く感じた時の心象を指す言葉だ。
誤解しないで頂きたいのは、これがロリコンとイコールではない点である。
あくまで年下の女の子に母性を感じているのであって、付き合いたいだとかそういう類の感情とは異なるのだ。
どっかの赤い彗星みたいに『好きになった相手がたまたま少女で、好意を持つ経緯としてバブみを感じた』というのが例として挙げられる。
そのバブみをさらに強く感じると『バブみが高い』となり、悪化すると幼児退行までして甘えようと『オギャりたい』となるわけだ。
長くなったが、俺が何を言いたいかと言うと…………。
「──よしよーし、ミルクいっぱいのんでね~♪」
「ヾ(゜д゜)ノアブー」
大の大人が床に寝転がって、幼女にごっこ遊びとはいえ哺乳瓶の代わりに、空の醤油差しを咥えさせられてるのはセーフだと主張したいだけだ。
どこからどう見ても事案?
確かにあまりにも見苦しい光景だが、よく考えてほしい。
あまなちゃんは6歳とは思えない程に他人を癒す才能の持ち主だ。
そんな彼女にバブみを感じないわけがない。
ましてや、これはあまなちゃんが希望した遊びと配役だ。
俺は恥を捨ててそれに付き合ってるだけ……ほら、疚しいことなんてなぁ~んにもないだろ?
なのでこれは事案ではない。
はい、QED証明完了。
とか色々思考を張り巡らせるが、捨てても捨てても恥が上塗りされてキリがねぇ!!
赤ちゃん役を引き受けたまではいいが、我ながらとんでもない黒歴史を生み出してないかこれ!?
そんな後悔と恐怖からどうにも集中し切れない。
くそ、こんな有り様じゃあまなちゃんを楽しませるなんて夢のまた夢だ。
どうしたものかと頭を悩ませている内に、ミルクの時間が終わったのかあまなちゃんは醬油差しをテーブルに置いた。
もう飽きたのかと思って目を向けて動向を見守っていると、正座の姿勢を取る。
そして笑みを浮かべながら自身の太ももを両手でポンポンと叩き……。
「やまとくん、つぎはおねんねのじかんだよ~」
「──っ!!?」
その言葉を聞いて俺は察すると同時に衝撃を受けた。
──あまなちゃんは自分の膝を枕をして俺に寝ろと言っているのだ。
社畜からすればなんと魔性──いや魅力的過ぎるお誘いだろうか?
その小さな両膝を枕にして眠れる?
なにそれ超バブみ高いし、絶対安眠が保障されてるじゃねぇか。
というか20歳も年下の女の子に君付けで呼ばれるのがむず痒いよ。
それが全く不快に感じないあたり、あまなちゃんの母性は凄まじいぜ……。
だがしかし、その誘惑は大変危険なものだ。
正直今すぐ飛び付きたい気持ちが昂っているがその欲求に従ったが最後、俺は豚箱の中に入る羽目になる。
そうなっては愛娘を預けるに足ると認めてくれた天梨の信頼を裏切ることになってしまう。
大変勿体ない気持ちはあるが、ここは鋼鉄の意志で以って断念せざるを得ない。
「あまなちゃん。悪いけど流石にそれは──」
「あ、だいじなこといいわすれてた!」
「大事なこと?」
断ろうとした矢先に何やら思い出した様子のあまなちゃんに遮られる。
一体何を思い出したのか訝しんでいると、彼女は幼さを感じさせる短い両腕を目一杯伸ばし、さながら相手の全てを受け入れるかのような慈母の笑みを浮かべて──。
「──おいでおいで~♪ ママのひざでぐっすりねようね~」
「──(*゜Д゜*)マッマ!!!!!!」
俺の抵抗はあっさりと瓦解した。
無理無理無理無理、こんな据え膳を前にして抵抗とか馬鹿馬鹿しいわ。
オギャるしかないじゃない。
圧倒的なバブみを前に幼児退行をも辞さない勢いで、俺はあまなちゃんの小さな膝に頭を乗せた。
瞬間、何とも形容し難い柔らかな感触を後頭部から感じて、俺は驚愕を隠せなくなる。
なんだこれ……あまなちゃんの膝枕柔らかすぎじゃない?
ぶっちゃけ今まで使って来たどの枕よりも遥かに寝心地が良い。
幼女といってもそこは女の子……発展途上ながらも着実に成長している良い肉付きがあった。
というか幼女だからこそ、この独特の柔らかさがあるといっても過言ではない。
「やまとくん、へんなかんじとかしない? だいじょーぶ?」
「( ゜д゜)アイー」
「そっか、よかったぁ~」
そんな俺の感動を知ってか知らずか、あまなちゃんは一切悪意の無いどころか僅か6歳にして母親がするような柔らかな笑みを浮かべている。
あまりにもママみのある表情を前にして、劣情など抱こうものなら自決もやむなしと悟った。
なんだろう……あまなちゃんの膝枕には、心に巣食う悪い物を洗い流して綺麗にする効果があるのかな?
社会の荒波と日々の激務で磨り減った心がみるみる内に回復していくのが分かる。
いや、ただ回復していると例えるのは語弊があるな。
正確な例を挙げるなら、削れて傷付いた箇所に赤子の頭を撫でるような優しい手つきで、傷薬を塗っていくような……そんな感じだろう。
てか実際、今もあまなちゃんに頭を撫でられてるんだが。
いつもの労いが籠った撫で方じゃない慈愛に満ちた温かな撫で方で、だ。
それが抜群に効いており、膝枕もあって冗談抜きで眠気が俺を襲ってくる。
このまま寝てあまなちゃんを退屈にさせるわけにいかないと耐えたい気持ちと、いっそバブみに身を任せたい気持ちがせめぎ合って──るんだけど、1秒毎に耐えたい気持ちが押し負けていく。
「そうだ! こもりうたもうたうね~」
「っ!」
そしてこっちの葛藤を知らないあまなちゃんが子守唄を歌い出した。
拙い音程ながらも、可愛らしい歌声が何とも心地良い……。
ギリ耐えていた根性にトドメを刺すには十分過ぎる一撃だ。
そうして俺は幼女の膝を枕にして眠るのだった……。
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