第2話
結局、昨日は布団に入るときまで彼女のことが頭から離れなかった。部室で出会った彼女のことを思い出す度に心臓が大きく跳ねる。
「早く彼女に会いたい。会って話をしてみたい。彼女のことをたくさん知りたい」
頭の中でぐるぐるぐるぐる思いが駆け巡る。頭で考えているだけでは前に進めない。「頭で考えるだけではなくとりあえず実行する」というのも俺のポリシーの一つだ。
「今日は先輩に会いに行こう」
家から学校まで歩きながらそう心に決めた。まだ朝の7時30分なのに全身から汗が吹き出るほど暑い。いや、暑いんじゃなくて俺が汗っかきなだけなのか?先輩はこんなに暑くても汗なんてかかなくて涼しい顔して歩いてそうだな、なんて考える。先輩なら、もしも汗を流していたとしてもとんでもなく爽やかな汗に見えるだろう。
***
1時限目の世界史の授業中、先生の話を右の耳から左の耳へ流し、先輩と何を話そうかと考える。まずは自分の名前を伝えて、先輩の名前を聞こう。先輩はどんな名前だろう?きっと、とても美しくて優しい響きの名前だろう。次は何を話そうか、初対面での告白はさすがに変な奴だと思われそうだからまずは友達になってください、と伝えてみようか。先輩と話すことを考えると表情筋が緩んでくる。授業中に一人で笑っていると先生や周りのクラスメイトに不審がられるだろうから気をつけないと。
「じゃあ、
え、もしかして今、俺が当てられたのか?忘れてた、この先生は急に生徒を指名して質問に答えさせる先生だったんだ。やばい、全く聞いてなかった…
「お、オスマン帝国…ですか?」
「真島くん、さっきまでの話、きちんと聞いてましたか?ちゃんと授業に集中しなさい!正解はイスラム帝国です。しっかり覚えておくように」
「はい、すみませんでした…」
「はっはっは!ましまぁ〜真面目に授業受けなきゃだめだろ〜!」
隣の席の沖田だ。いつも俺が注意される度にからかってくる。こういうところは正直、性格の悪さを疑ってしまうが、高校に入学して初めてできた友達なので大切にしようと思う。入学後はじめての昼ごはんを一緒に食べようって誘ってくれたし、根はいい奴なんじゃないかと心の隅っこでは信じている。
先生に注意された後で再び集中しないで授業を受ける勇気がないため、全く興味のない世界史の授業に集中しておくことにした。
午前中の4時限、すべての授業に集中できなかった。先輩と話すのが楽しみで、でも、緊張して。午前中、おれの頭の中はずっと先輩でいっぱいだった。
待ちに待った昼休み。
「ましまぁ〜お昼食べようぜ〜!」
高校入学後、はじめての昼ごはんから今まで毎日沖田と一緒に昼食を取っている。
「悪い、今日は昼休みに用事があるんだ。急がないといけないから一人で食べるわ」
「おっけーい。なんの用事があるんだ?」
「いや、ちょっと用事が…」
先輩に会いに行くことを言ったら絶対にさっきの世界史の授業中みたいに冷やかされるから絶対に言わないでおこう。
「隠すってことは好きな人に会いに行くとか〜?」
図星だ。。。沖田はニヤニヤしながらこっちを見る。こんな時は、ポーカーフェイスだ。「そんなことはない」というふうに振る舞うんだ、俺!
「いや、違うか。おまえこの前好きな人いないって言ってたしな〜」
ちょっと前の俺、ありがとう。いいこと言ってる…
「そうだよ!じゃあ、昼ご飯食べて行ってくるわ〜」
「おう!いってら〜」
さあ、先輩に会いに行くためにお昼ご飯を早く食べよう。今日のお弁当には、、、あ!レンコンの肉挟みが入っている。好きなお弁当のおかずランキング第1位に君臨するレンコンの肉挟み。今日は先輩と話すの頑張れそうだ。
***
昼休みの終わりまではあと20分もある。さあ、先輩の教室へ行こう。俺の教室から先輩がいる教室までは結構遠い。部室よりも遠い校舎にあるから大体4分くらいかかる。移動時間が長いことはマンモス校であるがゆえの欠点だ。いつもなら長く感じる廊下で歩く時間も、先輩に会えるんだと思えばとても短く感じられた。
「もうすぐ先輩と会えるんだ」そう思うとだんだんと心臓が大きく音を立て始めた。先輩の教室に近づくにつれてその音はどんどん大きくなってゆく。今まであの教室の前なんて何度も通っていたはずなのに、先輩がそこで学校生活を送っていると知った途端、そこは俺にとって特別な場所となった。先輩の教室まであと10メートルの今、すれ違う人にまで聞こえているんじゃないかと思うほど心臓は大きな音を立てている。
先輩の教室まであと少し、あと3歩も歩けば先輩の教室の中が見えてくる。
教室の中が見えた。廊下側の窓から教室を覗いてみると多くの人が談笑しながら昼食をとったり、トランプをしたりしている。
「先輩はどこにいるんだろう?あ、いた」
すぐに見つけることができた。相変わらず横顔がとても綺麗だ。
彼女は昼休みなんて関係ないというな様子で机に向かって熱心に勉強していた。昼休みまで勉強をしているのか、さすがだなあ。俺だったら勉強なんてしないで友達と喋っているだろう。そんな真面目なところもとても素敵だと思った。彼女は勉強をしている姿でさえも美しかった。熱心に机に向かいながらも、彼女から溢れる美しさが俺を魅了した。
彼女の勉強の邪魔をしてしまっては申し訳ないので、昼休みはおとなしく教室に帰ることにした。その代わりに、放課後に会いに行こうと決めた。今日の放課後、俺は先輩とはじめての言葉を交わす、予定だ。
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