rest phase 1-3

 こういった日が続いた、ある日だった。

「佐久弥さん! カラオケ行きましょう、カラオケ!」

 授業が終わってすぐのことだった。

 テキストやノートをカバンに片付け、いざ帰ろうと身支度を整えた瞬間だった。

「……いろいろ言いたいことはありますが、何でですか?」

「だって、日本の学生って学業が終わったら遊びに行くんですよね!? そういうの憧れだったんです!」

 ……本当に、一体何を参考にしたんだろうか。

 いや、まあ、この間本人が暴露していたのだが。

「……いや、明日の試験勉強がしたいので帰ります」

「えー、そんな、もったいないですよ! こういった若い時期はこの一度切り! 今楽しまなくて、いつ楽しむんですか! 勉学は年取ってからでもできますが、楽しめるものは今この時だけなんですよ!」

「……」

 なるほど、確かに言われてみれば……。

「……いやいや!」

 一瞬、流されそうになったが、そうはいかない。

「……コンバルトさん、狙われてる自覚あるんですか?」

「それは大丈夫です! だって、優秀な護衛がついてますから!」

 そう言って、私の手を取る。

 ……確かに、彼を守るために私がついているのだが、何故コンバルトさんが自信満々なんだ。

 傍から見ると、今私はどういう風な状態なんだろうか。

「……ちょっと、他の人も呼びますので、ちょっと待っててください」

「わかりました!」

 やったー、とはしゃぐコンバルトさん。

 そんなに出かけるのが楽しみだったのだろうか。

 思い返せば、彼は異国の皇太子だ。

 民衆の娯楽に触れる機会なんてあるものではないだろう。

 そうして、二人で校門前で待つ。

 コンバルトさんからの雑談を適当に流しながら、待つこと数十分。

 やってきたのは、

「やっほー! おつー!」

「……」

 テンションの高い瀬見さんと無口な風間さんだった。

「……」

 なんだろう。瀬見さんはいいとしても、風間さんは人選ミス感が否めない。

「カラオケ誘ってくれてありがとね! んじゃ、行こかー!」

 いつものヘッドフォンを耳にした彼女は、いつも以上にテンションが高い。

 あまりはしゃぐな。そしてその胸部装備を揺らすな。

「はい! よろしくお願いします!」

「オッケー! かしこまりー!」

 テンション高い組は先導して、私と風間さんはゆっくりとその後ろを追うように歩き出す。

 カラオケに到着し、大人数用の部屋を瀬見さんが頼む。

 何気に、カラオケに来たのは久しぶりなので、多少わくわくしてはいるのだ。

 あの時の所長の音痴っぷりは、いまだに忘れない。

 最早、機械のハウリングに近しいものがあったあの出来事は、今でも忘れられない。

「はいはーい、全員、飲み物持った? んじゃ、今日は楽しも―! かんぱーい!」

 瀬見さんの音頭で、カラオケ大会が始まった。

 瀬見さんが人気のJ-pop、コンバルトさんが海外で人気の洋楽(たまにラブソングを入れて私に視線を送ってきていたので無視した)、私は好きなアニソンを歌っていた。

 ちなみに、案の定無口な風間さんは流れる曲に合わせて、ひたすらタンバリンを叩いていた。心なしか、少し楽しそうに見えたのは、私の気のせいだろうか。

 そうこうして盛り上がっていると、時が経つのは早いものだ。

 あっという間に時間が来てしまった。

「そんじゃ、今日はおつでしたー!」

 その掛け声とともに、その日のカラオケ大会は終了した。

 無難に終わって、本当に良かった。

 あんなところにいないと思うが、カラオケボックスで暗殺者相手にドンパチなどしたくない。

 最近では慣れた、コンバルトさんをホテルまで送る。

「今日は楽しかったです! ありがとうございました!」

「……どういたしまして」

 笑顔の彼に素っ気なく返す。

 彼が提案してきたこととはいえ、私も楽しかったのは事実だが、素直にそれを返すのは癪だった。

 そうしていると、彼は突然耳打ちして、

「今度は、二人きりで行きましょうね」

 と囁いた。

「……はっ!?」

「それじゃ、おやすみなさい!」

 そう言ってホテルのフロントに歩を進める彼を、茫然と見送る。

 そうして、私はなぜか思う。

 あいつに、なぜか申し訳ないという思いが込みあがってきた。

 本当に、この気持ちは何なんだろうか。

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