第17話 ハイテンション新聞部長

-side 田島亮-


 容疑者田島亮。現在、検察官の仁科唯から廊下で取り調べを受けております。


「で? 市村さんとはどういう関係なの?」


「ただの幼馴染です」


「ふーん.......でもさ、2人きりで初詣なんて仲良すぎない?」


 た、確かに言われてみればその通りかもしれないな.......まあ、その辺は適当に言い訳するしかないか。


「えっと、ほら、アレだ。きっと咲は家に引きこもってばなりの俺を見かねて外に連れ出しただけなんだよ」


「.......ふーん」


「あれ? もしかして納得いってないみたい感じ?」


「いや、別にぃ?」


 チクショウ。なんかムカつく表情だな。でも小悪魔感が出てて、ちょっとかわいいから憎めない。なんか悔しい。


「つーか.......お前はなんでそんなに俺を追求してくるんだよ。俺が咲と深い関係にあったら何か困ることでもあるのか?」


「っ! そ、それは........!」


 と、仁科の威勢が少し弱まった時だった。






「おい、お前たち。そんなところで何をしているんだ? そろそろ始業式始まるから体育館に向かってほしいんだが」


 そう言いつつ、突然俺の背後から現れたのは柏木先生だった。おそらく1年6組の生徒に始業式へ向かうように伝えに来たのだろう。


 そして、先生は俺たちを一瞥すると教室の中に入っていった。


「.......た、田島!」


「ん? どした?」


「べ、別に市村さんとの関係を聞いたことに深い意味は無いんだからね! 勘違いしないでよね!」


「.......え、なにそれ。もしかしてツンデレ?」


「ち、違うし! え、えっと、じゃあ、はい! この話終わり! 始業式始まるし一緒に体育館行こっ!」


「え、ああ、うん.......そうだな。そろそろ行くか」


 なぜか今度はやたらと元気になった仁科さん。慌てたり元気になったりと相変わらず忙しいヤツである。まあそれが仁科の面白いところであり、魅力でもあると思うんだが。


「ほら、行くわよ田島! 早く早く!」


「へいへい、分かった分かった」


 こうして、どうにかこうにか仁科への弁明を済ませることに成功した俺は、彼女と共に体育館へと向かった。




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 始業式は想像していたよりも意外と早めに終了。年末に行われた全国大会で優勝した駅伝部の表彰と、校長の特にありがたくもない話があっただけで、その他は特に何も無かったのだ。


 そして始業式の日は授業もないし補習も無い。つーわけで、今日はめっちゃ早く帰れるってことだ。やったぜ。さっさと帰ってコタツに入ろう。


 そう思い、俺は意気揚々と校門から出ようとしたのだが.......


「ねぇ。君、田島亮くんだよね?」


 背後から突然聞こえてきた、あまり馴染みの無い女子の声。どうやら俺の名前を呼んでいるようだが、一体誰なのだろうか。


「はい、俺が田島亮ですが.......」


 と、返事をしつつ背後を振り向いてみる。するとそこには綺麗な金髪を背中まで伸ばしている女子高生が立っていた。


 サファイヤのような青の瞳に、透き通った白い肌。そして俺より少し高い身長。随分整った顔立ちをしているように見えるが、そこには日本人以外の血が入っているような印象を受ける。いわゆるハーフ美女というやつだろうか。


「ん? 私の顔に何かついてるのかな?」


「いや、そういうわけでは.......」


 しまった。ハーフの女の子を見たのなんて初めてだったもんだから、ついついジロジロ見てしまったな。


「で、君が田島亮くんってことでいいんだよね?」


「はい、そうですが.......えっと、どちら様ですか?」


「あ、ごめん、ごめん。私が先に名乗るべきだったよね。私の名前は渋沢アリス。天明高校の2年生だよ。新聞部の部長をやってます」


「な、なるほど.......で、その新聞部の部長さんが俺に何か用ですか?」


「そう! 私は君に用があるのよ!!」


 うお、ビックリした! なんか急にハイテンションになったな.......

 

「えっと.......その用ってなんなんです?」


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた。その用とはズバリ! 君に取材を申し込むことなの!」


「.......はい? 俺を取材?」


「聞くところによると、君って記憶喪失になったそうじゃない」


「まあ、そうですが.......」


「そんな珍しいことは滅多に無い! これは取材せねば! と思ったのよ。私のジャーナリスト魂にビビッと来たわ!」


「そ、そうですか.......」


 あれ? これはもしや、変な人に絡まれたパターンなのでは?

 

「はい! というわけで明日の昼休みに君の記憶喪失について色々聞かせてくれないかな?」


「いや、まあそれは構いませんけど.......期待に応えられるような面白い話はできないと思いますよ?」


 事故に遭って記憶を失った。ただそれだけのことだ。特に話すことなんてなさそうなものだが.......


「面白い話を引き出すのは私の役目よ! 心配しなくていいわ!」


「は、はあそうですか.......」


「というわけで明日の昼休みに新聞部の部室に来てほしいのです」


「あの、すいません.......俺、新聞部の部室の場所分からないんですけど.......」


「あー、やっぱそうだよね。よし、じゃあ明日昼休みになったら君の教室に迎えに行くよ。確か1年6組だったよね?」


「はい、そうです」


「了解。では明日の昼休みに教室に伺わせていただきます」


「は、はい。では明日お待ちしております」


「よし、じゃあ私は別件の取材が入ってるからこの辺で失礼するわね! また明日ー!」


 渋沢先輩はそう言い残すと全力疾走でその場を去ってしまった。



 .......なんか嵐みたいな人だったな。




ー------------------------



 


 翌日の朝。登校して席に着いた俺は、翔に渋沢先輩のことについて聞いてみることにした。


「なあ翔。お前、2年生の渋沢アリスって人知ってるか?」


「あ? 知らないわけないだろ。逆にお前は知らなかったのか? あの人って結構有名人だぞ?」


「え、そうなの?」

 

「ああ、そうだ。渋沢アリス。父親が日本人で母親がイギリス人のハーフ。容姿端麗、スタイル抜群の長身美女。おまけに父親は新聞社の社長で家は超金持ち。まあ、これだけ属性があれば有名にもなるだろ」


「た、確かにそうだな.......つーか、お前、なんでそんなに詳しいんだよ」


「はっはっは、俺は天明高校の美女については知り尽くしているのさ」


「恐ろしいリサーチ力だな.......もういっそのこと新聞部にでも入ったらどうだ?」


「はっはっは、いやいや、冗談にしてもそれは絶対にお断りだぜ」


「ん? なんでだ? 美人の渋沢先輩が部長やってるんだぞ? お前なら喜んで入部しそうなものだが」


「いや、なんていうかその.......あの人は性格がちょっとな.......多分悪い人ではないんだが......」


「あぁー、確かにあのハイテンションについていくのはきついかもな.......」


「.......え、お前、もしかして渋沢先輩に会ったのか?」


「あぁ、昨日の帰りに会ったぞ。それとなんか取材を申し込まれたんだが.......それがどうかしたのか?」


「マジか。それはちょっとまずいかもな...」


「いや、なんでよ」


「いやー、実はあの人には『面白い話が聞けるまで取材のターゲットになった人達を監禁してひたすら質問責めにする』っていう噂があってな。まあ、あくまで噂ではあるんだが」


「え、噂だよな? 実際にやるわけないよな.......?」


「ま、まあ一応気をつけておけ」


「お、おう.......」


 取材のために監禁? 渋沢先輩がいくら変人だからってそんなことするわけ.......


 やべぇ、なんか急に不安になってきたんたけど。



------------------------ー



「たっじーまくーん! 迎えに来たよー!」


 4限目の終了及び昼休みの開始を告げるチャイムが鳴った直後。教室の扉が開き、約束通りの時間に渋沢先輩は現れた。


「え? あれって渋沢先輩だよね?」


「え、もしかして田島くんを呼んでる? でも、なんで?」


 やべぇ。あの人があまりにも大声で俺を呼ぶものだから教室がざわついてるんだけど。教室中の注目が俺に集まっちゃってるんだけど。


 あと.......なぜか仁科と咲と岬さんから冷たい視線を感じる気がするんだけど。


「田島くん早く行こーよー! はーやーくー!」


「わ、分かりました! 分かりましたから、大声を出すのやめてください! 今行きますから!」


 そして教室中の注目に耐えきれなくなった俺は、そそくさと教室を出て渋沢先輩と合流することにした。



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「よし、じゃあ行くとするか! 私についてきたまえ!」


「は、はい.......」


 渋沢先輩と合流。先輩の後ろに付いて部室棟へと歩き始める。


「あ、あのー、渋沢先輩? あんなに大声で俺のこと呼ぶ必要ありましたか.......?」


「あ、ごめんねー。パッと見じゃ田島くんがどこにいるのか分からなかったからさ、大声で呼べば気づいてもらえるかなーって思って」


「だったら教室の入口付近にいる生徒に俺を呼んでもらうとかでも良かったじゃないですか.......」


「おー、その発想は無かった。君はもしかして天才か!?」


 いいえ、学年でドンケツを争うバカでございます。


「あー、あと取材を受ける前に1つ聞きたいことがあるんですけど.......聞いてもいいですか?」


「よろしい。何でも聞いてきたまえ」


「えっと、なんで今になって俺を取材しようと思ったんです? 俺が登校を再開したのは2ヶ月前ですよ? その時に取材しようとは思わなかったんですか?」


 実は昨日からこの事がずっと気になっていたんだよ。明らかに取材の時期がおかしいんだよな。


「あ、えっと、それは......2ヶ月前は期末テストが近かったから勉強してて.......」


「な、なるほど」


 ほーん。意外とこの人って真面目なんだな。昨日は"ジャーナリスト魂"とか言ってたけど、テスト期間は普通に勉強するのか。なんつーか、それはちょっと意外だった。


「ほ、ほら着いたよ! ここが新聞部室!」


 そして、そうこうしているうちに俺たちは新聞部室の前に到着。


「じゃあ中に入ろうか」


「了解です」


 渋沢先輩に促されて新聞部室に入る。室内を覗いてみると、中は想像していたよりも殺風景だった。室内の真ん中に長机が1つあり、壁際にパイプイスがいくつか置かれているだけで、他には何も無いのである。


「なんつーか.......全然物とか置いてないんですね」


「まあパソコンで記事作ってるだけだからねー。イスと机さえあれば十分だよ」


 淡々と俺に新聞部室の事情を説明する渋沢先輩。


 そして先輩のセリフが終わるのと同時に、新聞部室の扉の鍵が『カシャン』と閉まる音がした。


 .......ん? ちょっと待って? 今、カシャンって言った? って、ことは鍵を閉めたってことだよな? なぜ渋沢先輩はそんなことを.......


 あ、そういえば今日の朝--


【いやー、実はあの人には『面白い話が聞けるまで取材のターゲットになった人達を監禁してひたすら質問責めにする』っていう噂があってな。まあ、あくまで噂ではあるんだが】


 って翔が言ってたけど.......これってまさかそういうことなのか.......? いや、でもさすがに.......


「あ、あのー、渋沢先輩? なんで鍵を閉めるんです.......?」


 疑惑を深めた俺はおそるおそる渋沢先輩に尋ねてみる。


「え? なんで鍵を閉めたかって? あはは! そんなの決まってるじゃん! 取材が終わるまで君が部屋から出ていけないようにするためだよ♪」








 ..............あ、詰んだわ、コレ。

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