【エタナ供養企画用】君とわたしの星間飛行

小紫-こむらさきー

第1話 行くぜ!全力OM

「それでも…それでも私はキミのこと諦めきれないよ。種族が違ってもスタイルが違ってもそんなの些細なことじゃない?」


「この世界で生まれ育った夢海ゆめみはそれでいいかもしれないけど…そんな簡単なことじゃないんだよ。オレの一族にはオレの一族の決まりと試練があって…」


「わかった。じゃあその試練を乗り越えればいいんだね?やるよ」


「…本当にいいの?」


「だって私…ケクロくんのこと…」


 青みがかった白い鱗に覆われているケクロくんの体の表面は、公園の街灯を反射してキラキラと輝いている。

 まばたきをするように瞬膜を一瞬閉じた彼の瞳は、中にある環状の毛様体が広がって眼球が少し外側に広がって丸くなる。

 そんな彼の金色の瞳をじっとみて、私は深呼吸をしてさっきからドキドキと騒がしい胸の辺りに手を当てた。 


※※※


 80年前…この世界には異世界と繋がる巨大な銀色の門が現れた。

 異世界からこちらへ侵攻してきた魔王軍や、空から突然やってきた異星人、急に魂を持ち出したかのように動き出した人形たちなんて災厄に見舞われて世界は混乱を極めていた。

 人間は絶滅するか、侵略者たちに一方的に支配されてしまうんじゃないかって心配してるときに、銀色の門から出てきた妖精たちが私たち人間に与えた不思議なカードを与えたらしい。私たちのご先祖様はそれを使って魔王軍や異星人たちと戦って、なんとか勝利を勝ち取り、銀色の門は壊せなかったけど今は割り切って異世界や異星から来る人たちと一緒に暮らしている。


 …ってのは教科書に書かれてることで実際のところそんな戦争とか戦いの歴史はよくわからない。勇者の末裔って言われるけど、そんなの友達の亜希子も崇くんもそうだし、お母さんも今では普通の専業主婦だしあんまり世界を救うとか銀の門を壊して元の世界に戻すなんて使命を意識したことはない。そんなことよりも、私はバイト仲間のケクロくんのことが気になって仕方いのだ。


「ちょっと!赤髪のおねーさん!鱗用クリーナー使ったらかぶれちゃったんですけどどうなってるの?聞いてる?」


 品出しをしているケクロくんの滑らかな流線形の顔に見とれていると、レジの前に立っているセンザンコウによく似た姿のお客さんが少し怒ったような声で話しかけてくる。

 彼女(たぶん)は手にしている【半人半蛇ラミア印の安全安心鱗用シート】を私の目の前に少し乱暴に置くと鋭く尖った爪でトントンと商品を叩いてみせる。

 正直コンビニエンスストアでそんな商品についての詳細な仕様を聞かれてもわかんないよー。


「あ…え?そうですねー。ちょっとメーカーさんのほうに」


「オレが変わるよ。山本さんは代わりに品出ししておいて」


 困り果てた私は、仕方なく電話を片手に、もう片方の手でセンザンコウさんの置いた商品の裏面を見てメーカーに問い合わせをしようとしていると、いつの間にか後ろに立っていたらしいケクロくんが声をかけてきた。

 ケクロくんの言葉に甘えて私はセンザンコウさんに頭を下げてそそくさと品出しを始めながら聞き耳を立てる。


「あー。お客様の鱗…もしかして金属が含まれてません?オレの肌もそうなんですけどたまに金属系の鱗はかぶれちゃうことあるんですよー。困りますよね」


「あら…そうなの?鱗用の基礎化粧品とかもかぶれると思ってたけどもしかしてそのせいなのかしら…」


「お客様の場合、ラミア印よりはメタリカ社とかの金属肌用の商品のほうがいいと思いますよ。オレもメタリカ社のSmart&METALMATシリーズ使ってますもん」


 同じ鱗を持つ同士だからセンザンコウさんも心を許したのか、さっき私の前にいたときのようなツンケンした雰囲気じゃなくて鱗あるあるトークで盛り上がり始めた。

 クレームを入れられちゃうかなって思ってたけど、センザンコウさんはケクロくんがオススメしていたケア用品を買って鼻歌交じりに店を出ていき、店内にいつもどおりの静けさが戻ってくる。


「さっすがケクロくん。ありがとね」


「適材適所ってやつだよ。夢海だってこの前はお前と同種の女の人がしてきた化粧品返品対応してくれたじゃん」


 ケクロくんは先が二股に割れている青っぽい舌をチロチロと出して笑った。最初は爬虫類型の人と一緒に働くのに慣れてなかったけど、ここ一年でかなり慣れてきた。

 ケクロくんは爬虫類型の男の子の中でも多分カッコいい方だと思う。他の爬虫類型の人は鼻先が少し丸っこかったり、尖って曲がっていたりするんだけど、ケクロくんの流線形の顔の鼻先はスッと尖っていてツヤツヤした鱗が規則正しく並んでいる。

 半袖から除く腕は、鱗があって私たちとは多少見た目が違っても筋肉がしっかりついていて、ついつい目が向いてしまってはケクロくんに気付かれそうになって目をそらしてしまうということが何回もあっった。


 そんなことを私が考えている間に、ケクロくんはさっきのセンザンコウさんの払った小銭を小さくて丸い爪の付いた四本の指で丁寧に集めてレジに入れた後、私の肩を叩いて品出しの作業へと戻っていった。そんなケクロくんの背中を私は胸を抑えながら見送ってから作業に戻る。


「ねーねー!ゆめみん。そんなにケクロくんのこと気になるの?」


「爬虫類型の人って確かに気になるのわかるけど、なんか意外だニャ―」


 バイトが終わって休憩室で一息ついていると、これからシフトに入る私と同じ何の変哲もない人間の亜希子と、長毛猫型人類のカリーノちゃんが小声で楽しそうに笑いながら隣りに座ってくる。

 ケクロくんはもう上がってるとはいえ、こういう話をするのは恥ずかしくて二人の間に挟まれながら顔を抑えて頷くと「キャー」って黄色い声がサラウンドで聞こえてくる。


「だって…気になっちゃったんだもん」


「わかるわかる。あたしも初めての時はゆめみんみたいにその人のことで頭がいっぱいになっちゃったもん」


「わたしのところはそういう文化がないからわからニャいけど…夢とか目標があるのはいいことだニャ」


 女子トークが弾んで色々話してるとあっという間に二人の勤務時間が来てしまって、「ケクロくんも絶対ゆめみんのこと気になってるって」って亜希子が言い残した言葉だけが頭の中に残る。

 ケクロくんは、30年前に異世界から移住してきた一族の中の一人で、実はすごい由緒あるお家の出身なんだって聞いたことがある。家柄がすごいから気になってるのかな?って自分の気持ちを疑ってみたけど、正直コンビニでバイトしてるケクロくんがそういうすごいお家の人って言われてもピンとこない。

 私の知ってるケクロくんは優しくて、大変なときに私をさりげなく助けてくれる頼もしいお兄さん…そんな感じの人だから。

 家に付いてもモヤモヤが消えなくて、リビングでぼーっとしていると、お母さんが夕飯を持ってきてくれた。

 どうしよう…ってなんとなく気になってハンバーグをテーブルに置いてくれたお母さんを思わず呼び止める。


「おかーさんはさー。最初お父さんと出会った時どうだったの?」


「急にどうしたの?」


「んー。やっぱりなんでもない」


 お母さんに目を丸くして驚かれて、急に恥ずかしくなった私は目を伏せて一口大に切ったハンバーグを口に放り込んでごまかす。


「お母さんはパパと出会った時、まだそういうことに偏見も多かったから周りの人たちに反対されたんだけど…それでも後悔はしてないし、今は幸せよ」


 何かを察したお母さんは、何かを懐かしむような顔をしたあと、少しはにかみながらそういった。

 お母さんにはなんでもお見通しかー。

 ハンバーグをもう一切れ口に放り込んで考える。やっぱり勇気を出して行動したほうがいいのかな…。


「お母さん。私、夜ちょっと出掛けてくるね」


「あら」


「銀門広場の前」


「そう。じゃあ…ちょっと待っててね」


「これ…持っていきなさい。お守りがわりにね」



***


「シールドトリガー発動!”限りなく広がる平野”

 自分のクリーチャーすべてに「微乳:スピードアタッカー」を与える。

(他のP2フィールドがバトルゾーンに出た時、このP2フィールドを自分の墓地に置く)」


 さすがケクロくん…。OMおっぱいマスターの戦士だって気がついて、デュエルを申し込んだはいいけど、隙のないデッキ構成で試合は圧倒的に不利な形で進んでいた。

 でも、なんとか首の皮一枚繋がった…。私は自分の草原のやうな穏やかなカーブを描いている胸を服の上から撫で下ろし、目の前でディスクデッキから現れる巨乳デッキを従えているケクロくんを見つめる。


「少し遅かったね山本さん…いや、ちっぱい遣いの夢海。今君のシールドは0枚。それに比べてオレのシールドは3枚!

 次のターンで君の負けは決まりだ。

 ターンエンドを告げさせてもらうよ」


「ふふ…ケクロくん、まだ私は負けないよ。

 私のターン!ここで押すよOPおっぱいスイッチ!

 自分のターンのはじめに、このP2パイツーフィールドをゲーム中で一度上下逆さまにしてもよい。そうしたら、各プレイヤーは自身のクリーチャーをすべて山札の一番下に置き、その後、進化ではないクリーチャーをすべて自身の墓地からバトルゾーンに出す!

 さぁ黄泉の国から帰ってきて!葬り去られた小さき胸の民たち」


「なに…」


「コスト7を使って呪文発動!巨乳を屠る者ロストカップ

 相手は自分自身の手札をすべて捨てる」


「ク…でも手札を捨てさせたくらいではオレの戦士たちは止まらないぜ!」


「まだまだ私は止まらないよケクロくん!

 更にコスト3で平原を愛する者パイリトルラバーを召喚。

 効果発動!微乳のクリ―チャーの攻撃力を+3000する」


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