第65話【夏休み ADバイト⑨】
「.......ちょっと、マスク外しなさいよ。」
「.......。」
嫌です......
「ちょっと.......聞こえてるでしょ。」
「.......。」
聞こえません......。
「え?な、なに?」
そして目の前には、そんな光景に大きく首を傾けている柊沙織。
「ちょっと何で無視すんのよ。あなた........絶対に健人でしょ!」
「......違います。」
そしてそんな大きな声を出さないで欲しい......。
周りの人達がこっちを見てる.......。
「いや、絶対に健人じゃん。じゃあマスク外しなさいよ。そのフレームのやたらと太い眼鏡もさ!」
「.........。」
「ねぇ、早く外しなさいよ!」
はぁ........もう無理か。
これ以上粘っても無駄だな......。
こうなったミキはもう止められない......。
「あぁ.......俺だよ。」
そう言って身につけていたマスクと眼鏡を静かに耳元から外す俺。
「や、やっぱり!って何であんたがここでADみたいなことしてんのよ!おかしいでしょ。」
はぁ.......。ほんとそんなに怒らないで。
気持ちはわからなくはないけれど。
「いや......クラスメイトのお兄さんに手伝いを頼まれてちょっとな。な、田中君。」
「........。」
って.........おいあのボケ、何でいない。
どこいった........。
そして目の前にいる彼女は今も尚.......そんな俺のことを鋭い視線で睨んでいる。
「まぁ......とりあえず、すまなかった。ほんとに只のバイトだし、そんなに長くはいないから。」
だからまじでそんな怖い顔をしないでくれ........。
ミキのことを邪魔するつもりは全くない。
「そんなことより........なんでそんなに柊さんと仲が良いのかしら? おかしすぎるでしょ。」
「......。」
そんなことより?
というかどう見ても別に仲は良くないだろ。
まず、住む世界が違いすぎる。
って言うか今そこ関係あんのか.......?
それに......まじでほんと何でそんなに険しい表情してんだよ。
怖いよ.......。
一応.......謝ったしまじで迷惑はかけないから。
そっちから話しかけて来ない限りはこっちからも絶対話しかけないし。
「え? か、彼女と知り合いなんですか?」
すると今度はまた柊さんの声。
「まあ......。一応。」
「ちょっと一応って何よ。一応って。幼馴染でしょ!」
「お、幼馴染........?」
まぁ実家が隣同士だしそうなのかな......。
「っていうか健人、何でほんと柊さんとそんなに距離が近くなってるのよ?も、もしかしてあの時から柊さんとずっと連絡とりあってたり......してないわよね? ほんとしてないわよね?」
「い、いやしてないって。」
ミキの言う通りに連絡先はすぐに捨てたから。
だからそんなに俺に顔を近づけてくるな。
ほんと捨てたから。
って......なんで柊さんも急にそんな不機嫌な顔に。
「ねぇ。ケントくん。さっき約束した通り、絶対この後連絡くださいね。絶対ですよ。」
え?
ケントくん?
何でいきなり名前呼び?
し、しかもまた手.......。
「け、健人......。約束って何よ。」
いや........まぁ、え。
ってか何だこの空気........。
「ねぇ! 健人?」
ほんと何でお前はそんなに怒ってる。
「おい間宮ー!何してんだ。はやくこっち手伝え!」
「あ、はい!」
とりあえず呼ばれたからすぐに行かないと。
ほんとにすぐに........。
すぐに行きます。
でもほんとに何だこの空気........。
彼女たちはお互いライバル同士だし.....やっぱり仲が悪いのか?
まぁ........とりあえず、手を離してくれ。
柊さん......。
そしてほんとそんなに怖い顔をしないでくれ。
ミキ......。
「まだか間宮ー!」
「あ、すぐ行きます!」
あと最後に.......何を遠くから笑って
いる。
田中くん.......。
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