第33話【修学旅行。動物園②】


 「ふふ、ねぇ間宮くん。このペンギン可愛くない?」


 可愛いかもしれないが、ほんとに何なのだろうかこの状況は......。

 学校の人気者の女子と二人っきり......。

 こんなところ、他の奴らに見られたら大問題だ。


 いや、既にクラスメイトではないが同じ学校の奴ら何人かとはもうすれ違ってしまっている......。

 すれ違った奴らからは痛い程の視線を感じた。

 これはやばいだろ.....。


 それに.....山本というよりは皆、山本と一緒にいる俺の方を好奇な目で凝視してくる。

 正直、耐えられない......。

 特にクラスの奴ら、榊などにこの光景が見つかれば俺はもう色々と終わりだ。

 どれだけの陰口を叩かれるかわからない。

 

 この姿だと自分だと気づかれない可能性もあるが、クラスメイトにはやっぱりその保証はそれほど大きくない。やはりないものと考えていた方がいいだろう。


 「山本......やっぱり班に戻った方がいいんじゃないか? 俺といても何も楽しくないぞ......」

 山本は俺と違ってぼっちになる必要なんてないんだし。

 俺は何度もさっきから、そのようなことを口にするが彼女は全然聞いてくれない。


 「い、いいの。私、今とても楽しいの......」

 絶対嘘だろうが、彼女についてきてしまった以上、そう言われると何も言い返せない。


 今も彼女は俺に優しい微笑みを向けてくる。

 なんでぼっちの俺にそんな顔を向けることができるんだ......。


 これでは無理矢理引き離せない。

 

 「ね、ねぇ......。間宮くんは楽しい?」

 今度はそう言いながら真剣な表情をしている彼女。


 なんて答えればいいんだ。

 正直、今.....自分自身の感情がわからない。


 「わからない。」

 「そ、そっか。」

 「あぁ.......。」


 「そ、それは嫌ではないと受け取ってもいいのかな。」


 どうなんだろうか。

 この状況は正直自分の望むものではない。

  でも嫌という言葉は不思議と浮かんで来ない。


「あぁ.......。多分.......。」

 「そ、そっか。」

 そう言って目の前の彼女はまたも俺に優し気な微笑みを向けてくる。

 

 でも、やっぱりこの状況を他の奴らに見られるのはやばいと思う。


 「ねぇ、間宮くん。つ、次はどこ行く?」

 「......。」


 「わ、私、行きたいところがあるんだけど......。いいかな?」


 正直、彼女と一緒にいると俺としては悪い意味でやっぱり目立ってしまうから、これ以上歩きたくはない。

 でも俺は、その考えを口にできない。

 彼女の顔を見ているとその言葉が口からでてこないのだ。


 「あぁ.......。」

 そして気がつけば俺は了承の言葉を彼女へと返していた。


 「あ、ありがとう。」

 「.........」


  別に感謝されるようなことではない.....。


 俺は彼女に合わせて静かに歩みを進める。

 目的地へと向かって......。

 

 _____って、え?


 「え?....ちょ」

 

 な、なんで......。

 彼女に俺は今、唐突に手を掴まれている。


 いや、掴まれているというよりは.....繋がれた。

 ほんとに唐突すぎて俺は頭が混乱する。


 すると彼女は優しく掴み取った俺の手に.....ゆっくりと指も絡ませてくる。

 ま、まじでどういうことだ。

 

 「ま、間宮くん.....。」

 「.......」


 急いで俺は周囲を見渡すが、幸い見知った顔は俺の視界には映っていない。

 ほ、ほんとにどういうことだ。

 俺は彼女のそれらの行動に頭が混乱の上に真っ白になりそう。

 現状が理解できずに、とりあえず彼女の方へと顔を向ける俺。


 すると、そこには爆発しそうなぐらい真っ赤な顔の山本サヤ

そして、その彼女の顔を見た俺は何故か心臓が苦しくなる。

 

 「ど、どういうことだ?」

 「......」


 今度は彼女が下を向いて俺の質問に答えてくれない.....。

ま、まじでどういうことだ。


 俺はこの現状に対してどうすれば良いのか全くわからなくなる。

 しばらく、無言のその状態で歩き続ける俺と山本。

 今も彼女の温もりが俺の手には直接伝わってきている....

 やばい。


 「い、今だけだから.....。お願い。」

 ようやく彼女が口を開いてくれるも.....よくわからない。

 わからないはずだ.....。

 そして、俺の心臓は彼女の言葉に何故かさらに苦しくなる。

 耳も熱い......。


 脳はこの状況がよくないことだとは認識しているが、俺の口は何故か開かない。


 心臓もさらに熱くなる......。


「まぁ、初々しいカップルねぇ、羨ましいわ」


 今度は目の前から歩いてきた白髪の杖をついたおばあさんからふいに、すれ違い様にそのように言葉をかけられる俺達。


 俺はその言葉にどんな顔をすればわからない.....。

確実に違うし、彼女も俺何かとカップルなんて勘違いされるのは嫌だろう。

 なのに.....何故か彼女は否定の意を表さない。


 また、頬を染めた赤い顔で下を向いている。

 なんで......。


 そんな彼女を見ていると........今度は息が何故かうまくできなくなる。

 一体今、俺の方はどんな顔をしてしまっているんだろうか.......。


 とりあえずやばい。

 やばいとしか言えない。

 今日はほんとに感情がうまくコントロールできいない。

 一歩間違えれば壊れてしまいそう。

 自分の感情が怖い。


 こんな感覚はじめてだ.......。ほんとに身体が熱い。


 「や、山本、て、手を離そう。俺はまだしも、俺とカップルなんて勘違いされたら、山本が嫌だろ? な?」

さすがにこの状況を何とかしなければと思って俺は足を止めて必死に声を絞りだす。


 「わ、私は何も嫌じゃない。むしろ嬉しい.....。」

 「.......」


 すると予想外の言葉が俺の耳へと聞こえてくる......。

 ほんとに意味が分からない。

 ただ......隣にいる彼女の顔は真剣そのもの。


 自分のことを見つめてきた彼女に、また俺は目をそらしてしまった。

 さらに頭が真っ白で、何も口からは言葉がでてこない.......。


 また、今、この空間には沈黙が生まれている


 もしかして、彼女はまた悪い癖がでているのだろうか。

 「や、山本。やっぱり俺とこんなことするのは......間違っていると思う。」

 前も何かあったしな。

 癖はやっぱりそう簡単には抜けきらないのだろう.....。


 すると真っ赤な顔でまた俺のことを真剣な表情で見つめてくる彼女


 「前にも言ったけど.......私、その気のない人には、もうこんなこと一切してないからね。ま、間宮くんだけ。だから間違いじゃないもん......」


 「.......」


 頭が熱い.....。

どういうことだ......。俺は彼女の言葉に頭がさらに混乱する。

 ほんとに熱い......。 


どこに向かっているのかはわからないが.....幸い、まだ俺達は人気のないところにいる。


 視界にはちらほらと人は入ってくるが.......同じ学校の生徒と思わしき奴らはまだ誰もいない。


 苦しい......。

 俺はちゃんと息をしているのだろうか、もうそれすらもわからない。

 やばい。


 「健人くん、こっちむいて.....」


 すると隣からは、またそんな俺に向かって山本の声が聞こえてくる

 俺はその彼女からの言葉に固まってしまう......


なぜなら俺は今、隣の彼女の吐息を直接自らの肌に感じてしまっているから.....。

 それぐらい彼女の顔が俺の近くにあるのだろう。


 心臓が燃えるように熱い。


もう俺はどうしたら良いかわからない。

な、何故.....彼女の方へと顔を向けなければならないのだろうか。


そして今........俺が彼女もとい、この悪魔の方を向いてしまえばどうなってしまうのだろうか


もう脳が爆発しそうだ。

俺は理性を保てるのだろうか。

俺はもう.......何も考えられない。

 ま、まじで俺はどうしてらいいんだ。

 し、心臓もほんとに爆発しそう.......。


 吐息が.....ほんとに危険すぎる。

 もう頭は完全に正常には昨日していない。

 

 俺はもう次の言葉に素直に反応してしまうかもしれない。

 ほんとにやばい。


 「ねぇ.....間宮く」

 『バタバタバタバタバタ、ドッッシャン」


  え?

 唐突に、彼女の声と重なってかなり大きな音が俺の耳には届いてきた。

 反射的にその方向に顔を向ける俺と彼女。


 するとそこには、階段の下で尻餅をつき、焦った顔でこちらを見ている田中くんがいた.......。

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