第88話 黒い魔道鎧と逃げるドワーフ

 ハルディオスの北門、深夜0時にドワーフ達は現れると言う情報を信じて待っていた。現在は夜の11時、早めに来たは良いが待つというのはどうにも苦手だ。正直1時間あれば雪奈と1戦できるので、こうして門から眺める時間が無駄に思えてしまう。


 門付近には俺達以外にも、いつも通り採掘をする人達も集まっている。俺たちがここにいられるのはあくまで街を救ったからであり、その礼として本来なら立ち会うことすら許されない場に居させてもらっているのだ。


 そして45分になる頃、超絶壁な崖しか見えなかった景色に、僅かな変化が起きた。


 突如火花が発生し、それが夜の影響で殊更ことさら目立っていた。


「今までドワーフ達がこんな演出したか?」


「いや、いつもは旅人みたいにランタン持ってゆっくり歩いてくるな」


「じゃあ、あの火花はなんだ?」


「さあ? ドワーフはなに考えてるかわからんからな。新しい演出じゃないか?」


「ちげえねえやっ!」


 採掘をする村人同士でそんな会話をしているのが聞こえてきた。ここ最近激戦に身を置いてきた俺達にはあれは演出というより、金属の様なものがぶつかり合ってるように感じた。


「兄さん、あれって……剣激の火花では?」


「……ってことは襲われてるってことか!?」


 全員は頷き、すぐさま火花の発生地点へ向けて加速する。俺はティアを抱え、雪奈とライラは自前で高速移動スキルを持っているので、それぞれの最速で事態を収拾するべく移動する。


「なんで俺を置いていくんだよぉぉぉぉぉ! ライラちゃん、いや雪奈の嬢ちゃんでいいから俺も連れてって~~!」


 オズマはそう叫びながら”パワースマッシュ・極”でついてきている。雪奈もライラも筋肉ダルマの手を引くのは好きじゃなかったようだ。でもまぁ、仮に遅れても未踏領域以外の魔物に俺達がやられるとは思えない。


 ──なのであまり気にする必要もなかった。


 ☆☆☆


 ”自作スキル・エリアルステップ”で高速移動、ルナもコートの裾を硬化させてグライダーのようにして補助してくれている。


 景色が次々と流れる中、目的地が近づくにつれて徐々に何が起きてるか理解し始めた。身長は低く全体的にズングリムックリしている髭面の生物、恐らくこれがドワーフだろう。それに敵対するかのように黒塗りの魔道鎧が攻撃を仕掛けていた。


 とりあえず魔道鎧へ攻撃を仕掛けて両者の間に割って入ることにする。


「そこのドワーフ! 右へ避けろ!」


「な、なんじゃ!?」


 方向から考えて前方には未踏領域の超絶壁しかない、ともすれば俺が抱き抱えてる主砲が使えるってことだ。勿論、フルパワーで撃てば隠れ住んでるドワーフの集落に直撃しかねないので、崖の表面を撫でるようにお願いする。


「お兄ちゃん……私、今の状況を”王子さまに抱き抱えられたお姫様”って気分だったんだけど、そのお願いのせいで台無しだよ」


「頼むから、言った通りにしてくれよ。順番的に次は雪奈メインだったろ? それをティアにするからさ~」


「うぅ~わかった。じゃあ3本指で撃つね──”月下流麗・光条ムーンライト・グリューエン  軽量収束放射ライトシュート”!」


 闘気を使ってレーザーポインタみたいになるようにティアの月光魔術を支援する。ティア1人だと威力を押さえても扇形に撃ってしまうためだ。


 細い光が一直線に突き進んで黒い魔道鎧へ直撃する。当然敵は障壁を展開するわけだが、激しく火花を散らして約2秒拮抗したのちに障壁が割れ、敵のボディを貫いてそのまま未踏領域へぶち当たった。


「雪奈!」


「はい! ”園田流抜刀術・雪月花”!」


 完璧なタイミングでの3連続スキル、魔道鎧の鈍重さでは防げないはずだった。


 カンカンカンッ!


「え?」


「セツナさん危ない!」


 ぶんっ!


 間一髪のところでライラがヴァルキリーの”エーテルストライク”の加速を使って雪奈を敵の凶刃から守った。


「ドワーフとアレが近接戦をしてる、この時点で気付くべきだったか……」


 俺たちが今まで相手にしていた魔道鎧は遠隔武器しか所持しておらず、その両手には基本装備として魔術銃を持っていた。だが、俺たちが相対しているこの魔道鎧は全体的に超スリムで、しかも両手には光剣を装備している。


 バリエーションでいうところの近接型メレータイプってことか。その上、二刀流を用いて雪奈の3連続スキル全てを防いだのだから、かなり厄介だ。


 距離を取っていたドワーフが言った。


「お前ら、中々やるな」


「アンタもアレを相手によく粘ったな」


 お世辞でもなんでもなく、素直にそう思った。何故なら、ドワーフの持っている武器は大槌で、どう見ても雪奈ほど速くは動けないからだ。


「ワシらは力と細工が得意じゃからな、街のもんが気付くまでは粘れるわい」


 言えない、その期待してた街の奴等は”演出”と勘違いしてたなんて……。


「打ち合って気付いたが、アレはただ速いだけじゃ。技巧も無ければ武器に宿した信念もない。中の人間はきっと、目で見て反射的に斬っとるだけじゃろ。お前達、もうちとうまく斬ってみい……そうすれば楽に勝てるはずじゃよ」


 敵はゆらりとこちらを向いている。背中のスラスターが1基しかないからか、慎重にこちらの出方を窺ってるようだった。


 きっと元の世界だったらそんな達人芸は無理だと言っていただろう。だけど、北西の未踏領域で研鑽けんさんを積んだ俺たちにはなんとなく言ってることが理解できた。


「お兄ちゃん、多分、細剣レイピアでもできると思う」


「タクマさん、私もいけます」


「兄さん、一番は私にお譲りください。さっきの雪辱を晴らしたいのです」


「わかったじゃあ──」


 ──2合目の開始だ!


 ボディの一部を欠損した黒い魔道鎧、それを相手に俺たちは第二回戦を始めるのだった。

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