第79話 プラチナブロンドお姉さんからのお願い

 偶然とは世の中あるもので、他の都市国家の2倍の広さを誇る中央都市国家でたまたま遭遇するというのは非常に難しい。冒険者地区に宿を取ってあるものの、今情報収集に来てるこの酒場は一般の商業区に位置している。


 貴族特区に暮らすナーシャ(アナスタシア = グレシャム)氏と会うことはないはずだった。久々に見た彼女は前より少し大人に見える、ますますお姉さんキャラに近づいている……年齢は18だけどな。


 そんなプラチナブロンドお姉さんは俺達の姿を見つけると一目散に駆け寄ってきた。


「タクマさんにセツナさん、助けてください!」


 それを聞いた騎士風な男は、ドシドシガシャガシャ音を立てながら俺の前に立った。


「兄さん、行きましょう。これは貴族の問題に口を出すなって意味です」


「わかってる、完全にテンプレ台詞言ってたもんな」


「えぇっ!?私を見捨てるのですか?」


 俺の胸元に飛び込み、上目目線でそう訴えかけてくる。うん、これは──強敵だ。


「私は反対です!ナーシャさん、私達にそんな時間ありません。すみませんが、他を当たってください!」


 その言葉にナーシャは蠱惑的な表情を浮かべてセツナへ向き直った。


「セツナさん、随分変わりましたねぇ~?セツナさんがタクマさんと合流できたのは良いことですが、お忘れですか?私があなたに情報を伝えなければ、あなたがタクマさんに合流することは出来なかったかもしれませんよ?」


 その言葉にセツナが「うっ!」と小さく声をあげて黙り込んだ。そして置いてきぼりをくらっている騎士が、剣を鞘ごと地面に打ち付けて注目を集めた。


「平民、アナスタシア嬢の今後の人生に関わる案件だ。お前にその責任が取れるのか?」


 正直説明が無いのでわかりにくいが……お父様の命で騎士参上→ナーシャ救援要請→今後の人生。


 この解は多分──「ええと、結婚か何かのお話しでいいのか?説明がないから責任とか言われてもピンと来ないんだが……」


 騎士の男は溜め息をついて語り始めた。


「そも、貴族間の話しに平民が口を出すな。それがどんな内容であれ、お前たちはそこらの草のようにひっそりとしていればいいのだ。ああ、そうか……お前たちは雑草だから、何度踏みつけても逞しく生きてるのだったな。お前にもわかりやすく教えてやろう──」


 長い話しだったので要約するが、俺の予想通りそろそろ結婚しろって内容だった。ナーシャのグレシャム家は下級貴族であり、次のオルディニス攻撃戦に父親が参加するため、もしものことを考えて地位的にも優位に立てる家柄を条件に婿を募集したのだという。


 だが、その容姿に上級下級問わず殺到してしまい、武家上がりの貴族らしく強い者を相手とすることになった。グレシャム家は王が特別に推薦した貴族なため、上級からごり押しされることが無かったのは幸いだった。


「と言うことで日夜決闘を申し込んでいる」


「タクマさぁん!お願いします!」


 ここで俺は決定権を妹に委譲することにした。


「……雪奈」


「形だけなら良いんじゃないですか?どっちにしろ、私達はあっちこっち行くことになりますし、でも兄さんの目的の邪魔だけはしないでくださいね?」


 ナーシャはこれに同意し、そそくさと酒場を出ようとしたとき騎士の男が声をかけてきた。うん、このまま帰してくれればって思ってたけどね。


「アナスタシア嬢、つまりそこの男が代理ということでいいのですかな?」


「ええっと、その……」


 まぁ、そういうことになるわな。ってことは次の展開といえば決闘だろうな。


「わかった、俺が代理だ。で、決闘すればアンタは諦めてくれるのか?」


「ああ、だが私が勝てばそちらの……黒髪の女性も私のモノだ」


「ええ!私も!?」


 騎士の男が顔を赤らめ、雪奈の方をチラ見しながらそう抜かしてきた。なんだろう、誰も彼もが雪奈を狙ってる気がする。しかも割りと変なのに……。


 今回に限っては雪奈の格好も悪い、さっきキスしそうになったときに無意識なのかボタンを上2つ外しており、大きなそれが溢れそうになっているからだ。

 すでに騎士の視線に気付いた雪奈は胸元を隠し、ジト目を向けている。


 雪奈を視姦するとは、ちょっと俺もイラついた。なので俺tueeeeをしてみることにした。


「それでいい、通りに出ろ!」


「な、なんだお前急に態度が……」


 こうして俺と騎士は通りに出てある程度距離を取り、そして俺はある条件を出す。


「ハンデとして俺は一歩もここから動かない」


「バカにしてるのか貴様っ!」


「俺は絶対にアンタには負けない。いや、違うな……アンタは絶対に俺には勝てない」


「私をコケにするとは、いい度胸だ!貴様、冒険者ランクはどのくらいだ?」


「印術師でBだ!!!」


「──ッ!?!?!?!?!!??!?」


 あの反応からして騎士様はA辺りってところか、B風情がって声にならない声を上げてるな。パルデンスについてからいざこざが多すぎてまともに冒険もしてないし、手に入れた魔石もマルグレットさんに買い取ってもらったから当然功績にもならない。


 なので嘘はついてない!


 騎士の男は遂にキレたのか、審判たるナーシャが始めを言い渡す前に突進してきた。だが遅い、俺に勝つには会話なんかしてないでさっさと攻めるべきだったんだ。


 だって闘気による”領域”はすでに完成しており、辺り一面は俺の属性付与の対象となっているのだから。


「うおおおおおおおおッ!」


「そんなに冷静さを欠いていると──けるぞ?」


「は?────ぐはぁっ!」


 ばか正直に走ってくるので、俺は騎士の足元に石で出来た小さな突起を作り出した。


 全く警戒してなかったため、ズサァーーっと顔面から転倒した騎士、憐れに思えたので顔の部分に風属性を付与して起き上がらせてあげた。


「い、息が……ぁ」


 おおっと、風が強すぎて呼吸が困難になったんだな。車で窓を開けると息がしにくくなる原理だな。

 ちなみに生物の表面に闘気を付着させるのはかなり時間がかかる。ヘイムダル戦が長引いたのはそのせいだ。滅茶苦茶時間かければ口の中に闘気を侵入させて属性の宝石箱やぁ~って出来るけど、倫理に反するし戦闘で使えるほど棒立ちにさせてもくれないだろう。


 ──そろそろ決着つけるか。


 俺は人差し指を騎士に向けて警告した。


「右に気を付けろ」


「は?──ふがっ!?」


 右を向いた騎士の頬に、民家の鉢植えを左からぶち当て、騎士は昏倒した。闇属性による重力制御、便利だな。


「勝者、タクマさん!」


 今まで格上ばかり相手にしていたからか、こうまで虚しいとは思わなかった。でもまあ欠点は結構ある、紋章術中は”領域”は使えないし、もし両方使うなら紋章術の威力を落とすしかない。


 ただ、俺はこれから弱者と名乗るつもりはない、アルから授かった”闘気”ロルフから授かった”魔功”……彼らから受け継いだ力に誇りを持たないといけないからだ。


 ☆☆☆



 周囲から歓声が上がっている。民衆はやっぱり貴族騎士が気にくわなかったようだ。雑草扱いだもんな、そりゃあ鬱憤もたまるだろ。

 そして雪奈が隣に立って裾をツンツンと引っ張る。


「兄さん”俺から見て右だった”が抜けてますよ?」


 雪奈さん、それは言わない約束です。

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