第71話 ダークエルフと魔族

 束の間の休息を満喫していた俺たちは不意に鳴り出した警報を聞いて再び村長の家へと向かった。

 村長の家に着くと村長であるオラフがせわしなく他のエルフたちに指示を出しており、事態が逼迫していることが伝わってきた。


「オラフさん!」


「おお、タクマ君じゃないか。……あの警報を聞いて来たのか?」


 指示が一段落ついたのか、オラフさんはこちらに歩きつつそう切り出し、会議室へ入室を促した。

 朝に400年前に起きたことをエルフ視点で言われたこの場所で、再び話し合いをすることとなった。


「この警報が鳴るのはこの里を創って以来のことだ。ビフレストの門まであと僅か、鳴ることはないと考えていたんだがね」


「もしかして、俺たちが招き入れた感じに?」


「いいや、この里に入れるのは大人の──ああ、君たちでいうところの18歳を越えたエルフだけなんだ。ラティスが出たっきり入れなかったのはまだ子供だからなんだよ」


 「君と言う例外はあるがね」そう言ってオラフは控えのエルフからコップを受け取り、そのまま順番に俺たちにもそれは配られた。


「いわゆるお茶と言うやつだよ。精神安定の効果がある。──さて、君たちはこれからどうするのかね?」


「俺たちも迎撃にあたりたいと考えてる。1部隊として編成してほしい」


 全員が即決に驚いた顔をする。


「それはなぜかね?」


「ここから逃げるにしても、来た道を通らないといけないだろ?交渉が決裂した今、帰る道の確保もしときたいし、なによりここではいそうですかって尻尾巻いて逃げるのもいい気がしないんだ」


 彼らは保身に走ってはいるが人間に危害を加えるつもりもない。それどころかこの里への滞在を許可してくれた善良な種族だ。それだけでも充分に返す意義があるというもの。


「ふむ、感謝する。──では敵の詳細を説明しよう。敵はダークエルフと魔族による混成部隊と考えられる。理由としては魔族の魔力反応を見張りのエルフが検知し、そしてその魔族を結界の中に引き入れることのできる存在は、ダークエルフしか考えられないからだ」


「魔族は何度か交戦したことがあるが、ダークエルフはわからない。一体どういう種族だ?」


 それについてラティスが挙手をして自信満々に説明したがっている。オラフはラティスにどうぞ、というジェスチャーを送って全員の視線がラティスへ集中する。


「いつ滅んだかわからないけど、ハイエルフがラティスたちの祖先になる。そこから派生したのが天の加護を受けたエルフと地の加護を受けたダークエルフ。精霊術に特化したのがエルフ、武勇に特化したのがダークエルフ……仲違いして別々に住んでたけど、何故か今になって攻めてきた」


「ありがとう、ラティス。基本的な詳細は今の通りだが補足する点があって、敵は恐らくビフレストの門の奪取か破壊が目的の可能性が高い。ユグドラシルは移住を拒否しており、ユグドラシルがダークエルフに阻止するように伝えたものと推測される」


 そして続く説明によれば、ダークエルフも精霊樹であるユグドラシルの加護を受けているとのこと。


「さて、では作戦だが。精霊の森にて現在迎撃部隊が防衛に当たっている。第2陣まですでに突破されており、続く精霊の里へ到達される可能性も考慮して君たちには里の入り口に設置された”矢避けの門”を防衛してもらいたい」


「わかった。撃ち漏らしは俺らが担当しよう」


 精霊の森は広大で俺たちはラティスの案内で最短距離を踏破したが、その道のりには莫大なトラップが仕掛けられており、ダークエルフたちはそれを解除しながら進んでるため進軍に時間がかかっているらしい。


 今は精霊術による超長距離精密攻撃によって応戦してはいるが、撃ち漏らしを考慮して里の最後の砦たる”矢避けの門”を任された。


 そして臨時ではあるがラティスがパーティとして加入したため、俺と雪奈とオズマが前衛でライラは突貫力の高さから中衛、ラティスとティアは火力による支援のため後衛という配置となった。


 今もなお、精霊の森方面からは断続的に黒煙が上がっており、それが戦場であることを認識させられる。


「兄さん、ちょっといいですか?」


 周辺を警戒していると雪奈が声をかけてきた。


「精霊術は早さ、燃費、威力が高水準な術です。そしてオラフさんの話しでは敵の指揮官はエルフ並みの精霊術とダークエルフ並みの武勇を誇るそうじゃないですか。私、心配で……なんでしたら、私が指揮官と───」


 俺は雪奈の頭を抱えるようにして抱き締めて言った。


「どこの世界に妹にボス戦やらせる兄がいるんだよ。俺たちはパーティだからさ、みんなで戦おうぜ。そしてそのパーティで俺は前衛なんだ、少しは信じてくれよ」


「ですが……」


 抱き締められた状態の雪奈は潤んだ瞳で不安げに見上げてくる。


「精霊術に関して俺に秘策があるんだ。それはな───というわけなんだ。安心できたか?」


「むう~まだちょっぴり安心できませんね。兄さん、耳を貸してください」


「何か内緒事か?終わったら持ち場に───ングッ!」


 顔を傾けた瞬間、グイっと方向を変えられてキスされてしまった。突然の事で頭が追い付かない。ソフトタッチのようなキスなのに息苦しさと共に頭の芯が反応を鈍くさせた。


「……んん……ちゅ……ふぅ~、これで安心できます。頑張ってくださいね♪」


 人指し指を唇に添えて微笑み、雪奈はスキップしながら持ち場に戻っていった。ピューっと風が吹いたあと、タンブルウィードが転がり、魔法使い候補生童貞予備軍の男は戦場に似つかわしくない表情で立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る