第54話 日常崩壊
拓真とティアは買い物を楽しんだ。大通りに建ち並ぶ屋台の数々、バナナに似て非なる果物にチョコをかけたものや、原初の森で遭遇した『ドゥードゥー』の丸焼き、それらを2人で食べた。
ティアは月の神子として常識をインプットされているが、実際に目で見て、肌で感じることが知識として知っている以上に得るものがあると言っていた。
「ほら、ティア。頬にチョコが付いてるぞ」
「え!どこどこ?取ってよお兄ちゃん」
拓真は敢えてロングコートの裾で拭き取る。そして拓真は天を見上げて思う。
"俺、今きちんとお兄ちゃん出来てる"
拓真が余韻に浸っていると、どこからか聞き慣れた声が聞こえてきた。
「タ~ク~マ~!ルナの身体で拭くニャーー!」
ドロンッと言う擬音が聞こえそうな煙が舞い上がったあと、黒猫状態のルナが現れた。
まぁ、当然と言えば当然なのだが。
「お、お兄ちゃん!ルナちゃんが喋ってるよ!?」
「ああ、お前は見るの初めてか。コレな───」
拓真はルナに見せられた夢から新しい
「ふ~ん、つまり管理者権限が完全に移行する瞬間を悪神モルドらしき存在が狙ってくると……。それまでにこの世界に生きる人類は準備をしないといけないんだね?わかったよ、お兄ちゃん!」
あっさり納得するティアに拓真少し驚いた。何せ、マルグレットやロルフに説明しても最初は信じて貰えず、このまま北へ向かってしまうはずだったからだ。
「ティアは、疑わないのか?」
ん?と頬に人差し指を当てて小首を傾げるティア、少し熟考の後に答えた。
「えーっと、私、『魔力探知』があるから何となくだけど、ルナちゃんから神聖な魔力を感じてた、だから信憑性はあるって思ったんだ~」
ティアは本職には劣るが魔力による嗅覚が備わっている。ロルフ覗き事件のあと、ティアは魔力で拓真の位置を特定し、不審がる雪奈を連れ出してくれた。故にティアの言葉も現実味を帯びている。
その後、2人と1匹で屋台を回り、お腹が満腹になった一行は、服屋等のテナントを回ってウィンドウショッピングを楽しんでいた。
そして、楽しい時間を切り裂くかのようにサイレンが鳴り響いた。
周囲の店が続々と閉まり、魔力で構成されたシャッターで防御態勢に入り始めた。
ピュ~~~
西部劇で
現地人は荒事が日常的なためすぐに退避行動に移れるが、異世界人の拓真は呆気に取られて出遅れてしまう。
シャッター通りと化した大通りで拓真達以外の足音が聞こえ始める。それはどうやら領主の館がある貴族街の方から聞こえる。
ザッザッザッ!
「ルナ、武装形態だ!ティア、屋根に跳ぶから少しジッとしてろ」
「う、うん───キャッ!」
ルナは拓真のロングコートと化し、拓真はティアをお姫様抱っこして近くの屋根に跳び移り、煙突の影に潜んだ。
「お兄ちゃん?あの人達、ただの魔術師さんだよ?」
「いや、よく見てみろ。あの目は歪んだプライドを内に秘めた奴の目だ」
ティアは言われた通り、煙突の影から正門へ向かう魔術師連中を注視してみる。
「う~ん、私にはわからないよ。ルナちゃんはどう?」
「ティアちゃん、今のルナは隣の部屋を透視するぐらいしか権能を持ってないニャ。てかタクマはなんでそんな事がわかるニャ?元の世界でも何かスキル持ってたのかニャ?」
「ああ、持ってるとも……俺はな。上司が俺を呼びつける数秒前を察知できるスキルを身に付けたんだ。無実の罪で怒鳴られるブラック企業で生き残るには、そう言うスキルを覚えないとやっていけなかったんだよ」
「タクマ……何か聞いてはいけないことを聞いた気がするニャ、ごめん」
「お兄ちゃん……」
2人から憐れみか同情かはわからないが視線を送られる。……ま、直感だから対処できない場合の方が多いけどな。
「ん?ポケットが震えてる?」
拓真はコートに手を突っ込んでその正体を取り出す。それは、屋敷を出る前に渡された『魔道型通信機』だった。耳に装着してスイッチのようなものを押してみた。
ザッ、ザァーーー
『おお!繋がったわい。タクマか?ワシじゃ、ロルフじゃ!』
「何かあったのか?」
『未踏領域から大量の尖兵が溢れてしまってな。これから向かおうとしたんじゃが……ブラッド種が屋敷を襲って来たんじゃ。それも貴族街の方向からじゃ……それでタクマ、今どこにおるんじゃ?』
「その貴族街に通じる大通りだ。俺の位置からじゃ特に被害が出てないように見えるが……」
『そうか……ならばタクマ、お主はブラッド種が何故街中に現れたか突き止めてくれ』
「ああ、わかった。それと、雪奈とオズマは屋敷の防衛にあたるように伝えといてくれ!」
『うむ、了解した!』
大通りからは普通に魔術師供が走ってきた。つまり、ブラッド種は裏通りを抜けてエードルンドの屋敷に到達したことになる。裏通りをしらみ潰しにあたるしかないか……。
拓真は通信を切ってティアに経緯を説明し、ブラッド種の
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