それは至る物語 ~過保護妹との異世界奮闘記~

サクヤ

第1話 妹が帰省する!

 俺は園田そのだ 拓真たくま 26歳、昔から勉強も運動も出来なかった俺は高校卒業後、家計を助けるために自動車部品を製造してる会社に就職した。最初は高校との違いに戸惑ったが、上司や先輩の強力なパワハラをなんとか耐え抜いて今は中堅くらいにはなっている。

 ちなみに彼女もできたことはなく、彼女いない歴=年齢の魔法使い候補生だ。


 季節は夏、そしてお盆休み、ブラック企業から解放される長期休暇!序盤はひたすらぐうたらするぞって考えていたら、県外に就職した妹から久しぶりに連絡がきた。1ヶ月くらい前に職場の先輩から告白されたらしい。どう対処すれば良いかわからないから相談に乗って欲しいとのこと。


 俺の妹に告白なんて、やってくれるじゃないか。俺が断り方を教えてやる。そう思ってはいても内心『やっぱりお受けします』とか言われないかヒヤヒヤしてるところだ。


 ピンポーン


 インターホンのカメラには妹が映っていたのでドアを開けて迎え入れる。


「お久しぶりです兄さん、ただいま帰りました」


 この黒髪ロングの和風美人な女性は園田 雪奈せつな、血の繋がった実の妹だ。


「久し振り、雪奈。ほら、居間が冷えてるから涼んできな」


 雪奈はソファにドサッと座ると、少し伏し目がちにについて聞いてきた。


は実家……ですか?」


 雪奈の言うとは両親の事だ。長年金稼ぎの道具のように扱われていた俺たち兄妹の中では、すでに『あの人たち』と言う認識になっている。給料すら兄妹で半分ずつ寄越せと言ってきたので俺が9割渡すことで許してもらい、雪奈を県外に逃がした。


「お金さえ渡しとけばあとはネグレクトだからな。楽なもんだ」


 雪奈が気にしないように少しふざけ気味に言う。


「私、会社辞めようかな……」


「なんで?」


「兄さんにばかり守ってもらって心苦しいじゃないですか。こっちで就職した方が……」


 雪奈……そんなことを考えていたのか。俺は──雪奈が幸せだったらいいんだけどな。


「安心しろ、いつまでも言うこと聞くつもりもないからな。法的拘束力もないし、俺が今もいるのはせめて産んでもらった分の恩だけでも返すつもりだからさ」


「え、じゃあ……」


「あと1年くらいで出ていくよ。だから戻ってこなくてもいいんだよ」


 隣に座ってる雪奈が俺の手を握って距離を詰めた。


「ねえ、兄さん。もしよかったら一緒に暮らしませんか?」


 雪奈の提案に俺は声を失った。告白はどうするんだ?もし彼氏になってから雪奈の家に住むのは……ちょっとな。


「もしかして、告白の事を心配してるんですか?大丈夫です。だって」


 ───「兄さんといる方が落ち着きますから」


「えぇ~~!?せっかくのチャンスだろ?俺より彼氏取った方がいいって……」


 雪奈は納得いかないのか、むぅ~とむくれている。


「どのみち心が動かなかったから良いんです!ほ~らっ、今日は映画でも借りて観ましょうよ!」


「……はぁ。わかったよ。そろそろ夕御飯の時間だし、映画の時のお菓子と晩飯でも買いに行くか」


 出前を取るだの、スーパーに行くだのと雪奈が抗議したが、金は俺が出すので最終的にはコンビニに行くことで決着がついた。



  ☆      ☆      ☆



 コンビニに向けて車を走らせていると、助手席に座っている妹が妙なことを言い始めた。


「そういえば、兄さんは聞いたことがありますか?」


「ん?唐突に何の話しだ?」


「私達が向かうコンビニですが、昔小さな病院が建ってたそうですよ。そしてお盆の時期になると近くにいる人を黄泉の国に引きずり込むっていう怪談が割結構有名なんですよ?」


「おいおいそんなのただの怪談に決まってる……だろ…?」


 心なしか冷房が寒く感じたので風の強さを一段階下げてなるべく平静を装った。実際、俺は怪談が大の苦手だ。知ってて言ってるとしか思えなかった。


「私達が通ってた高校の先輩が一人行方不明になったのを覚えてますか?その先輩が最後にコンビニに寄った辺りで消息が途絶えてるらしいです」


「俺が2年の時のあれだろ?街中にある防犯カメラにも死角は絶対あるだろうし、家出のためにコンビニで食糧でも買ったんじゃね?その先輩、学校でもかなり虐められてたらしいからな」


「真実は噂よりも些細な事が多いですからね。実際はただ転校したのを誰かが面白半分に脚色して広めたってところでしょうか?あ、ちなみに兄さん、一本は私のチョイスでホラーを借りますよ?」


 ホラ来た!雪奈は大のホラー好きだからな。わざと念入りにスパイスをふんだんに振り掛けて、俺が怖がる様を最高のメインディッシュにするつもりなのだろう……。


「……その話しの後にそれ言うか?もうホラーはお腹一杯だ」


 そんなこんなで談笑してると、目的地のコンビニにたどり着いた。駐車して車を降りると、雪奈が自動ドアの前で立ち止まっていた。なんで入らないんだ?入り口に強面こわもての大男でもいたのか?


 ───疑問を抱えつつも雪奈の隣に立った。


「に、兄さん。自動ドアの様子がおかしいのですが……」


「さっきの話しはもうやめろ。割勘にすんぞ。大体どこが変っていう……ん…だ…?」


 まだスパイスが足りないか?そう思いつつも、さすがに気づいてしまった。静かすぎるのだ。普通なら車の通る音が聞こえてくる時間帯、そして自動ドアの『ピンポンピンポン』という音も聞こえない。


 そう……いつの間にか俺達以外誰もいなくなっていたのだ。それどころか自動ドアは開いたままで、自動ドアの間は先が見えないほど真っ黒になっていた。

 異常事態を感じたので雪奈の手を引っ張って車に向かうことにした。

 

「雪奈!すぐに車に乗れ!」


「は、はい!」


 自動ドアの謎の空間から空気の抜けるような音が聞こえ始め、立ってるのもやっとな勢いで引き寄せ始めた。まずい!思いの外、吸引力が強い!吸引力のあの掃除機じゃあるまいし!男の俺でなんとか進めるが、雪奈は足取りと吸い込みの力が拮抗しているのか、あまり進んでいない。


 少しずつだが吸引力が強くなっている。最悪の事態を避けるために雪奈の所に向かった。


「雪奈!俺に掴まれ!」


 雪奈を抱き寄せて、近くの縁石に片手をかける。しかし、吸い込む力はすでに諦めがつくほどに強くなっている。体は宙に浮き、俺と雪奈の体が地面とちょうど平行の状態になってしまった。


 ───3分ほど抗っていたが無情にも手が離れてしまった。


「絶対離れるなよ!」


「に、兄さん……!」


 体が吸い込まれていく。俺達は抱き合ったまま漆黒へと吸い込まれていった。



後書き



読んで頂き、感謝感激でございます!これからよろしくお願いいたします!この作品が面白いと感じた方、☆を下さると作品のモチベーションに繋がり、涙腺崩壊で喜びます。


なお、当方仕事が多忙なため週2更新となっております。何卒、ご容赦下さい。

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