ダーティーホワイトエルブズ ~現代に転移して魔物退治人となった魔力ゼロのエルフは誓う。クズ野郎で転生チートスキル【主人公属性】を持つ弟に死を、と~
第120話 「最後に笑うのは」…えんじょい☆ざ『異世界日本』編
第120話 「最後に笑うのは」…えんじょい☆ざ『異世界日本』編
私とビッグママがその倉庫に到着した時には、もう
私達よりも先に到着していたバローロさんとブランちゃん、そして車椅子に乗ったマロニーさん。
本当の名前はショウって言うんだっけ。
そのショウさんが、ミトラに向かって何か言っていた。
「まぁそういう事で、お前が何を言おうと俺は何も良心の
「なん……だと……テメエ」
「ムカつくなら、勝ってここまで辿り着け。お前の好きな物語の主人公的シチュエーションだ。フェットやタリスを倒して悪のボスの俺を殺すんだ。燃えるだろ?」
「ふざ……けるな……! そんな勝手な理屈……ッ!」
ショウさんがミトラにそう言ったとき、何処からともなく不気味な声が聞こえた。
なんだか、ミトラの持っていた黒い剣の唸りに似ているような気がする。
「ふふふ……ハハハハハハ! もはやこれまでのようだな! 結局、この程度の逆境も乗り越えられぬ男だったとは、とんだ見込み違いであったわ!」
その声と共に、ミトラの手足に取り付けられていた防具が勝手に外れて空中に浮かぶ。
その四つの防具が合わさると、例の黒い剣に変わった。
切っ先を下に向けて空中に静止する。
「
そう続ける剣の
私達は皆、剣の威圧感に飲まれて、何も言えずにいる。
タリスさんやフェットチーネさんまでもが
ミトラが
「偽の……主従関係だと?」
「ハハハ! 分からぬか? なぜ分からぬ!? 我を呼び出したのは貴様の兄ではないか!!」
「……!!」
「呼び出された者が、呼び出した者を
「て……めえ、は……!!」
その時、ショウさんも圧倒された様子ながら、やっとのことで絞り出すように声を出した。
「お前は……その主である俺に敵対する者に、力を貸していたことになるんだが」
「ハハハ! 原初の混沌たる我を従わせようなどと、使いこなそうなどと笑止!」
ショウさんは悔しそうに押し黙る。
だけど剣はショウさんに意外な言葉をかけた。
「だが我をあっさりと放棄したこともさることながら、その我を
「俺は道化扱いか」
「ふふふ。だが主であるべき貴様との契約を、我が一方的に
「
「ハハハ! それでこそ我を見捨て、我が見捨てた男よ!」
そこにミトラが割り込んだ。
「テメエっ! それじゃまるで俺が、この雑魚よりも劣っているみたいじゃねえか!」
剣から出てる気配に変化があった。
ショウさんがフェットチーネさんに叫ぶ。
「
反射的に慌てて飛びのいたフェットチーネさんの目の前を、黒い剣が通り過ぎる。
上から落ちてきた剣は、ミトラの胸に深々と突き立った。
周囲に響き渡るミトラの絶叫。
「“主人公属性”を中心とした恵まれたチートを持ち、我を扱える身でありながら、結局はこの男に何度も追い詰められた貴様が、どうこの男に勝るというのだ!?」
「ぐああ吸い取られる! 何をするイミテーションブリンガー!!」
「そうだ。我は“
ミトラはみっともなく取り乱していた。
剣に地面とに縫い付けられて、無様にもがいていた
そもそも胸に剣が刺さった時点で即死してもおかしくは無いのに。
「やめろ! 死にたくない! 俺の魂が奪われる! 嫌だ、こんな救いのない殺され方は嫌だ!!」
「貴様に、とっておきの言葉をくれてやる。貴様よりも貴様の兄に力を貸していた方が面白かっただろうな!!」
だけど、ミトラはそんな黒剣の言葉が聞こえた様子も無く叫んでいた。
自分一人で何でもできるような態度ばかりだった男が、他人に助けを求めていた。
「嫌だ。助けてくれ誰か。苦しい……。この苦しみが永遠に続くなんて嫌だ……。この俺が……なぜなんだ……。俺を助けろ……父さん……母さん……。兄……貴……」
「最後に白面の皇子の
そして耳を塞ぎたくなるような大音響の哄笑が倉庫の中に響き渡る。
私達全員が耳を押さえて
それが収まって、恐る恐るミトラが倒れていた場所を見る。
そこには、凄まじい恐怖の表情を貼り付けたままのエルフの死体。
そして四つの破片に折れた剣の残骸。
その剣の破片からは、さっきまでの得体の知れない力は一切感じられない。
「終わった……?」
誰かが言った。
すると私達やショウさんの後ろから、見知らぬ男が二人飛び出し死体に取り付く。
あれ? あの二人って日本の人じゃないよね?
死体に取り付いた二人は顔を合わせて首を縦に振ると、こちらを向いて今度は首を左右に振った。
突然、私達の後ろから聞き覚えの無い女の人の声がする。ビックリした。
「
その声を発した小太りの中年の女の人に、ビッグママが答えた。
「ああ、もちろん。ちゃんと金を払ってくれるなら、何も問題無いさ。もうその剣、持って帰っても意味無さそうだけどね」
「構いません。その判断は『上』がすることです。我々末端には関係の無い事ですから」
そこまで言ってから、その女の人はショウさんにも向かって言う。
「それから、我々の組織にかつて所属していたエージェント・ショウも、一年前に死亡を確認しています。残念です」
それを聞いて、ショウさんが訝し気に女の人に疑問を返した。
話し方からして、どうやらショウさんの顔見知りだったらしい。
「……それで良いのか? ミズ・クレイグ」
「さあ何の事かしら、見知らぬ異邦人さん?」
「……すまない、ありがとう」
さっきの死体に取り付いていた二人が、いつの間にか死体袋にミトラの死体と破片を入れて持ち上げていた。
ショウさんにミズ・クレイグと呼ばれた女の人は、その二人に付いて倉庫から出ていく。
そのまま振り向かずに、最後に片手を上げて去って行った。
*****
車椅子に乗った男と、青いパーティードレスのような服を着た女の人が、無言で対峙している。
やがて青いパーティードレスの女の人──フェットチーネさんが声をあげた。
「ショウ……」
それに応じてショウさんもフェットチーネさんに答える。
「フェット……」
ショウさんは左腕をフェットチーネさんに向かって伸ばした。
だけど、その包帯が巻かれた切り株のような自分の手首が目に入ったのか、ハッとなる。
左腕を戻すと右手で左手首を掴む。とても苦しそうな顔をしてる。
やがて首を巡らせて、ブランちゃんに
ブランちゃんはショウさんに確認する。
「ええの?」
「この身体だしな。それにそもそも、俺は手を血で汚し過ぎた」
ブランちゃんはフェットチーネさんを見た。
少し
それを見てフェットチーネさんが慌てた。
こんなに慌てたフェットチーネさんは初めて見た気がする。
「ま……待って!」
車椅子は止まらない。
倉庫の外に止まっている車に突き進む。
フェットチーネさんは車椅子を追い掛ける。
追い掛けながら叫ぶ。
「待って、待ってよショウ!!」
その言葉に反応することも無く、ブランちゃんはショウさんを運んで行く。
バローロさんもフェットチーネさんを
「ショウ!! 待って、私を置いて行かないで!!」
ショウさんの車椅子、ブランちゃん、バローロさんの足は止まらない。
やがて車のドアが開いた。車椅子はそこへ向かって進んでいき──。
フェットチーネさんが、急にドスの効いた声で叫ぶ。
「待てって言うてるやろうが!! ショウユラーメンオオモリ・カエダマ・ニクマシマシ!!」
「ぐあーっちゃあっ!?
ショウさんの頭が、突然青い炎で燃え上がった。
頭を
ブランちゃんが、「え!?」という顔でショウさんを見る。次に私の顔を。
私が黙って
あの正式な名前が予想外だったみたい。
ショウさんがのたうち回っているうちに追い付いたフェットチーネさん。
頭の炎を消すと、ショウさんの頭をガッシリと胸に抱きかかえた。
「ショウ! ショウ! やっと会えた。お願い
だけどその光景を見ていたビッグママが、冷ややかにフェットチーネさんに助言。
「いや、今は離したほうが良いね。そいつアンタの胸で
ハッとなってフェットチーネさんがショウさんの頭を離す。
ショウさんは白目を
ちょっぴり幸せそうな顔だったのは、見ない振りをしておこう。
あーあ、最後の最後で締まらな~い。
いややわあ。
ブランちゃんが
「マロニー、カッコ悪い」
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