ダーティーホワイトエルブズ ~現代に転移して魔物退治人となった魔力ゼロのエルフは誓う。クズ野郎で転生チートスキル【主人公属性】を持つ弟に死を、と~
第118話 “汚くも真っ当な異世界人ども(ダーティーホワイトエルブズ)”その1…偽りのダークヒーロー編
第118話 “汚くも真っ当な異世界人ども(ダーティーホワイトエルブズ)”その1…偽りのダークヒーロー編
震える足でようやく立ち上がったミトラは、店に侵入した人間──エルフ達を押し
ゴルフバッグも肩に担いだが、それを誰も
だが今のミトラには、それを
裏口のそばには、青い顔をした店主が立っていた。ミトラは震える手でバッグから魔剣イミテーションブリンガーを取り出す。
店主は
ミトラは裏口を抜けると、フラフラと裏通りを
──糞が!
ミトラが表通りに出ようとした時、先ほど店に入ってきた連中と似た服装の人間──エルフか? どちらなのか今のミトラには
ミトラは舌打ちをひとつすると、来た道を引き返して、別の裏通りに入り込んだ。
とある小さな本屋が見えたので、
驚いた本屋の主人は、迷う事なくスマホをすぐに
よく見ると、その主人もエルフだった。
主人のその動作のあと、すぐに遠くから「こっちだ!」等の声が聞こえてくる。
ミトラはまた舌打ちをして、その場を離れた。
「糞が!
ミトラは自分もまた、いまや異世界人であることを忘れてそう毒づいた。
前世の、日本人としての記憶が残っていたからだろうか。
転生前の前世も含めて、こんなに追い詰められたのは初めてだった。
とある洋風居酒屋に飛び込む。
その場の責任者らしき人間の男が、ミトラの元へ飛んできた。
「お客様、体調が良くないようですが大丈夫ですか?」
「うるせえ、ちょっと黙って奥に隠れさせろ馬鹿」
「……でしたら二階の方へどうぞ」
男はその言葉の後に、ミトラの耳元でこう
「二階のトイレから、逃走経路に使える隠し通路がある。来い」
クラムに裏切られて、薬を盛られて追い回されているミトラは、その男の言葉を疑う余裕も無く従った。
二階のトイレに男が先に入ると、天井の板を外す。
人間一人が何とか通れそうな穴が、ぽっかり天井に空いた。
「上にあがって右にまっすぐ進め。隣の空きビルに
そう言って男は、ミトラを天井に押し込んだ。
狭い天井裏の通路を、ミトラは身体を引き
突き当たりに、外に出られそうな穴が下に空いていた。
ミトラは苦労して穴から身体を出して、外に降り立った。
明かりのない建物の部屋。
外の街灯やネオンの光が差し込んでいるお陰で、何とか行動には支障が無い。
元は広い広間を、安っぽいパーテーションで区切って複数の部屋に分けていたらしいその部屋。
そこには、その区切りの板が散乱していた。
ミトラはそっと部屋のドアから外に出る。
すると下から複数の人間の気配。
「連絡があったんはここやな?」
「バローロの
「あのいけ好かないミトラって野郎がボロ出したの、ザマアミロって感じやな」
「この
そして誰かが複数人にシバかれる音。
ミトラは、さっきの男に
そして貧困なボキャブラリーで、ワンパターンな毒づきをする。
「糞が!
今度は、エルフとしての自分で不平を垂れる。
ミトラは今や、自分が日本人なのかエルフなのかすら分かっていなかった。
そして今や、彼は現地人にも異世界人にも属していなかった。
ミトラはあの時に頭の中に響いた「声」を思い出す。
あの時、「声」は言っていた。
【“主人公”システムの終了を確認しました】
【ご利用ありがとうございました】
そしてあれ以来、ミトラがいくら試してもチートが使えることは、決して無かった。
かつては、世界の全てはミトラの味方だった。
だが世界は今や、全てがミトラの敵だった。
*****
「よくやってくれたね、クラムチャウダー。私もまさか、アンタがここまで演技が出来るとは思って無かったよ。アンタも立派に女だったんだねえ」
「あー
ビッグママとクラムの二人が、ミトラが出て行った店で話している。
クラムは、机の上に置いてある料理を
「あ〜あ、こんなに綺麗に作ってあるのに勿体無いな〜」
「ミトラみたいに痺れたいなら、食べたら良いけどね」
「わお、やっぱりこれにも薬入ってたんや」
そこへビッグママのスマートフォンに連絡が入った。
手持ち
そして店主に声をかけた。
「注ぎ口に半分だけ薬が塗られてた……。言われんかったら、全然分からへんですわ」
「ありがとうございます。ボトルを回した時に気付かれないか、ヒヤヒヤしました」
ビッグママのスマホのやり取りは、すぐに終わったようだ。
ママはスマホをしまうとクラムに告げる。
「どうするクラム? 元々この件には、アンタは巻き込まれただけの部外者に近い。もう外れても良いんだよ?」
「いやあ、それでも関わった以上は最後まで見届けたいですよう。大丈夫、向こうの世界でも命のやり取りは多少経験ありますし」
「そういや、向こうの世界で冒険者やってたんだったね、アンタ。分かった、今バルバから連絡が来た。ミトラがとあるルートで追い込まれてるらしい」
「ええー? バルバレスコさんもコレに関わっているんや!?」
「ステイツからも二、三人呼んでるよ。まったく、今までの
「ミトラのお兄さんの、マロニーさんの事ですか?」
「本当の名前は違うけどね。……さて、表通りに迎えの車が来たようだ。ヤツの追い込み先に行くとするかね」
「お
*****
「……おい、そこのアンタ! こっちだ。そこに居たら捕まるだろ!」
そうミトラに小さく鋭い声がかけられる。
見ると別の部屋のドアから、
ミトラは身体を引き摺ってそちらに移動。
男はミトラを、
「海外へ高飛びだな。こっちだ」
「誰だテメエ」
「こっちだってアンタが誰だか知らないし、興味
そうして男は部屋の隅に向かって数歩進んだ。じっと立ってるミトラへ振り向く。
暗がりに目が慣れて見ると、この男はドワーフらしかった。
部屋の外の様子に気を配りながら、男はミトラに話した。
「俺にこうして会えたアンタにはツキが残っている。そのツキを活かすか、それとも連中に捕まるか、選ぶのはアンタだ。俺はいつもココに居る訳じゃないんだぜ」
男に言われた通りだった。
ミトラに選択の余地は無かった。
ミトラは男について行く。
裏通りをクネクネと歩いたり、時には大胆にパチンコ店の中を突っ切ったり。
やがて小さな公園に着くと、しばらくその場で待たされた。
すると一台の個人タクシーがやってきて、後部座席のドアを開ける。
ミトラは案内してくれた男を見る。
男は
やがて闇の中へ姿が消える。
タクシーから怒鳴り声がした。
「よお兄ちゃん! 乗らへんのやったら、もう行くで!?」
ミトラは
魔剣イミテーションブリンガーを胸に抱いて後部座席に沈むと、ようやく深いため息を
人間であるタクシーの運転手は、行き先も聞かずに車を出発させた。
そのまま彼は、ミトラに何も声をかけずにタクシーの運転を続ける。
ミトラは魔剣に思考を送った。
兄と最後に戦って以来、久し振りに。
──おい! テメエ今晩の事、全然わからなかったのかよ!?
“久し振りに我に声をかけたと思えば、そんな事か。分かって当たり前だ。むしろなぜ貴様は、あの程度の事を見抜けないのだ?”
──分かってたんなら声をかけろ! 役に立たねえ奴だな!!
“貴様に黙って使われていろ、と言われたのでな。お手並を拝見させてもらっていた。
──チッ! 減らず口ばかり叩きやがって!
やがてタクシーは、ナンコウの港の倉庫街にやって来た。
とある倉庫の前に停車すると、運転手はドアを開けてミトラに声をかける。
「あそこの倉庫ん中や。あとはそいつらの指示に従っとけ」
「そいつら?」
「どんな連中なんかは俺かて知らん。俺はここまで運ぶだけの役割やからな」
ミトラは、それ以上何も言えずにタクシーを降りた。
魔剣イミテーションブリンガーを抱えながら足を引き摺る。
この剣がこんなにも重く感じるのは初めてだった。
ミトラは倉庫に入るドアを開ける。
中に入ると、そこは何も置いてない、だだっ広い空間。
そこへ突然倉庫内に明かりが
倉庫内を何人もの人に取り囲まれていた。
人間が多いが、エルフやドワーフ、ホビットやハーフリング等も結構混ざっている。
ここまですらも罠だったのか、と
やがて奥から一人の人間が歩いて来る。
女だ。
背中がザックリと空いた青いパーティードレスのような服を着た人間。
その服装にも、その女の顔にもミトラは見覚えがあった。
クラムの兄からの伝言といい、一体どうなっているのか!?
「お前は…………フェットチーネ!?」
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