第53話 「百貨店やデパートって死語?」…えんじょい☆ざ『異世界日本』

※第43話の続きになります。



*****



「ああああああ!? しもたぁ!!」


「どどどどどうしたのブランちゃん!?」


「ふぇ……フェットチーネさんの事、ママに報告すんの忘れとった……!」


「ええええええええええ!?」


「く……クラムちゃんはウチより先に報告とかしてたりは……」


「してへん。てゆうか学校行ってるし、なかなか向こうに顔出せてへんねんけど」


「いやあああああああ!! どうしよどうしよ!? どないしたら良いと思うクラムちゃん!?」


「いや、どうしよ言うたって……やっぱり素直に謝るしかないんちゃう……?」


「ああああ! 怖いよおぉぉぉぉ! こないだも報告ミスってもうたばっかしやのに!」


「あ〜も〜しゃーないやん? 何やったら私も一緒に付いてってあげるから、勇気出してママん所に行こ? あ、そうやミトラさんにも一緒に来てもらおうさ」


 てんてろてろ、てんてってって♪

 その時、タイミングが良いのか悪いのか、私のスマホにミトラさんから着信があった。


「もしもし、あ、ミトラさん? どうしたん……え? 急用!? いったい何の用事が……あ! もしもし? もしもし!?」


 私はスマホを片手に、ブランちゃんを呆然と見つめる。


「切られた」


「あんのアホがあぁぁぁぁ! 肝心な時に全然役に立ってへんやんけええェェェェ!!」



*****



 事の始まりは、ある日フェットチーネさんと地方のデパートに行った時の事。

 なぜデパートにって?

 いや、大型商業施設イ◯ンとかやと、まず私ら自身がちょっと気遅れするというか……。


「デパート……? ですか」


「そそ、関西やったら品揃え悪いから『無いプラザ』って陰口言われてるトコとか、日本語に訳したら『生命』とか『生活』とかってなる店とか」


「何なんクラムちゃん、その遠回しに分かりにくい店の説明!? っていうか『無いプラザ』って……」


「いやあ、本モンの名前を直に言うのはやっぱりマズいやん? 『無いプラザ』はいま考えついてん」


「伏字でルビとはいえ、◯オンの名前出してる時点で手遅れちゃうんかな……。あとクラムちゃんが言うほど品揃え悪くないで、あそこ一応」


 そうして、私等二人の会話に付いて行けずにフリーズしていたフェットチーネさんに向かって私は話しかける。

 関西以外の人も付いて来れてない気もするけど、気にせえへんモン。


「フェットチーネさんの事を、百均の化粧品ばかりで固めた安っぽい女って言うて来た、パート先のオバハンを見返してやろーさ!」


「せやせや、こんな美人捕まえて、なんちゅう失礼な言い方するオバハンや!」


「えーと……ありがとうございます……?」


「百均の安い女とちゃう! 百均の化粧品でもこんだけ光れる凄い素材なんや、フェットチーネさんは!!」


「よっしゃ! フェットチーネさんをグレードアップさせよう大作戦やるで!!」


「おー! ……ほら、フェットチーネさんも固まってないで、手ェ上げて。ほら、『オーっ!』て」


「お……おお〜?」


 デパート行くのも久しぶりやし、ワクワクするな〜。フードコートで何を食べようかな〜? 

 ベベベベ別に私が行きたいからフェットチーネさんを利用した訳ちゃうから!


「……いや、デパートって何ですか?」


 そこからかーい!




「凄いですね、ちょっとしたお城並みの大きさの建物の中に、見渡す限りにいっぱいの品物の数々……」


「ふふふ、そーでしょーそーでしょー」


「百均ショップってお店も凄いと感じてましたけど、それを上回る店があるとは思わへんかったです」


「ああっ、フェットチーネさんの感想がつつまし過ぎて、目から汗が……!」


「そんなことより化粧品見に行こ、化粧品。いや、先に服を見たほうがええかな?」


 そうして始まるフェットチーネさんの着せ替え人形化。

 取っ替え引っ替え、あーでもないこーでもない、こっち良いよこっちのが良くない?

 ほら、これ試着してみて? うーんこっちは七点、さっきの九点。

 いやいやそれやったらさ……。


 わいのわいの、きゃいきゃい。



 

「……やっぱりショートくんは攻めが良いやんなー。めっちゃゾクゾクするわ〜」


「はわわ〜シャシュケきゅんしゅきぃ……」


「この海外の有名な恋愛小説シリーズにしょっちゅう出てくる、アラブの石油王って凄いですね。困った事があったら、大体彼が解決してまうし。旦那もビックリやわ」


 傍には、袋に何冊も入った小説やマンガの単行本。

 私とブランちゃんは主に漫画、フェットチーネさんは主にハーレクイ……げふげふ、海外のメジャーな恋愛小説シリーズ。

 それをフードコートの机に座って、色々と妄想爆発品評会


「このキャラ、パワーを使い果たすとイケメンになるけど、普段はデブっていうのが堪らんわぁ〜」


「ああ〜クラムちゃん、以外とそういうキャラ好きやもんなぁ。ウチはやっぱり伝統の、主人公とシャシュケきゅんのカップリングが……。次はやっぱりこれで本を作ろかな」


「私はやっぱり主人公の女性がグイグイ動くタイプの小説が好みやろかなぁ」


 わいのわいの、きゃいきゃい。



「…………って、ちっがぁーーーーう!!」


 私は思わず叫んで立ち上がった。


「アカンやん! 今日はフェットチーネさんの服とか化粧品とか見に来たのに! これやったら、いつもの普通の女子ヲタの行動やんか!!」


 私の言葉に、ハッと現実に引き戻されるフェットチーネさんとブランちゃん。

 こらこら、二人ともすっかり忘れておったな……何やってんの!?

 え? 私? 何を言っているのか知りませんな〜口笛ヒューヒュー。


「ええっと……私は財布にお金、なんぼ残っとったかな……」


「しもたぁ、ウチさっきの本屋で思わず単行本を買い過ぎたわ……。クラムちゃんは?」


「……私もブランちゃんに同じ」


 ……………………。


「シ◯ムラかウニキュロにしとく?」


「「異議なし」」


 ちなみにフェットチーネさんはシマ◯ラよりもウニキュロ系が気に入ってるようだ。


 夏の同人誌即売会イベントを乗り切って季節は秋へ入り、最近はめっきり朝晩が肌寒くなってきた。

 そういった時期的な事もあり、お財布的な制限もあり、結局買ったのは青のウール地セーターを一着とピンク地に白のストール一つ。


 購入した直後はさすがにニコニコと嬉しそうだったフェットチーネさん。

 でも、すぐに財布の中身を思い出して、はぁ、と盛大に溜め息青色吐息のフェットチーネさん。

 そして結局、仕事してお金貯めるしかないと、覚悟を新たにするフェットチーネさん。


 側から見てて、すぐに実況できるぐらい分かりやすい態度なので、見てて楽しい私達でありましたとさ。


 めでたしめでたし、んな訳あるか。



*****



「パートに行ってしもたな、フェットチーネさん」


 と、ブランちゃん。


「財布の中身的に寂しそうやったけど、セーターとストールは気に入ってたみたいやし、まぁ良かった……んとちゃうかな?」


 と、私が返す。


「まぁなぁ。ウチ的にはやっぱり化粧品も買って欲しかったけどなぁ」


 そしてブランちゃんは、漫画の単行本が何冊か入ったビニール袋を見つめて溜め息。


「お金、使つこうてしもたからなぁ」


「また今度来た時は、せめてリップの一本くらいは買って欲しいやんね」


「フェットチーネさんやったら、やっぱり薄いピンク系かちょいオレンジ系寄りの自然な感じに見えるのがエエかなぁ」


 ここで私は、ふと疑問に思った事を口に出してブランちゃんに聞かせた。


「そういやさ、何でフェットチーネさんはいつ迄もスーパーのパートやってはるんやろ。魔法師やから頭脳労働系はかなり有能やと思うんやけど」


 ここでブランちゃんの顔色が少し変わったんだけど、私は気付かず話し続ける。


「この世界に来たばっかりやったら身分証明書が無いから、履歴書が適当でもザル面接のパート先に行くしかなかったやろけど」


「身分証明書……」


「あれ、どうしたんブランちゃん?」


 青い顔をして俯いて、立ち止まってしまったブランちゃんを見て、私は思わず訊ねた。

 ブランちゃんは青い顔のまま、ギギギと首をこちらへ動かし、泣きそうな表情になって私に叫んだ。


「ああああああ!? しもたぁ!!」


「どどどどどうしたのブランちゃん!?」


「ふぇ……フェットチーネさんの事、ママに報告すんの忘れとった……!」


「ええええええええええ!?」

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