第4話
「あ゛ぁ…あ…(ホントに行っちまうんですかゾラさん」。
「あぁ、今までありがとな」。砂の入っていた袋に紐をくくりつけた即席の巾着袋を背負った。
嘘はつかない。ここから逃げ出す事と共に二度とこいつ等を同じ目に合わさないと誓ったあの日。あの日から約一ヶ月が過ぎようとしていた。
出来る限りの事はすべてやったつもりだ。でも最後だけは只の賭け、勝率は四割と行った所、勝てない勝負では無い、ただこれに負けた場合を考えると血の気が引く。俺はどうなってしまうのだろう、何かやり残したことは無いだろうか、まだできることは無いだろうか。
不安と動揺の中で思考を繰り返した。
この選択は正しかったのであろうか、これがこいつ等にとっての最善なのだろうか、歩けば歩くほど足が重くなっていくのを感じる。
もし、もし失敗したら更にこいつ等を貶めてしまうのでは無いだろうか、駄目だ、それだけは絶対にあってはいけない……やっぱり──
「「「あ゛ぁああ゛!!!」」」
萎縮しきった一人の男の小さな背中には優しい沢山の仲間たちの姿があった。
「あ゛ァあ゛ぁ(頑張ってくださいゾラさん!!」
「あ゛ァあ゛ァ(もし、捕まったら、また、いつかここに戻って来てください!!」
「あぁ…ゔぁあ(いつも……いつまでも…待ってますんで!!」
たった二ヶ月の迷宮生活、そんな少ない時間でも残せた物は確かにあった。
あぁ……そうだ、今思い返せば『給料が貰えない』なんてちっぽけな話からだった、それが逃げ出すとかこいつ等を守るとか大きな話になったんだ。そんなちっぽけな話に何を萎縮しているんだゾラ・エルトダウン、俺はそんなに臆病だったか?違う、違うだろ。勝てる勝負も勝つ気が無ければ勝てない、迷う必要なんてなかった、こいつ等は俺なんか居なくても十二分にやって行ける、今までだってそうやって何年も生きてきたんだ。只、俺が何とかしてやりたい、こいつ等を取り巻く状況を少しでも変えてやりたいなんて言う、あいつ等だって知らない、俺の浅はかな善意だけが行動理念だった。
もし、失敗したって誰からのお咎めも無し、そもそも誰も俺の策略なんか知らない。
誰からも期待されているなんて思うのは自意識過剰ってもんだ。だったら好き勝手やればいい、一生懸命やれば罪悪感なんて無い『自己満足』に浸れる、一生懸命頑張ったなって自分を褒められる。鼻っから期待されて無いのなら幾らでも力は出せるし、幾らでも手は抜ける。
そう思うと酷く重く感じた自身の身体がすっと重荷を降ろしたように軽く感じた。
ゾラは立ち止まる。そして寂しげな表情を浮かべる仲間たちの方へと振り返る。
「帰らねぇよ、バーカ!!」
満面の笑みで仲間達を後にした。
~ ~ ~ ~ ~
〈虚数階〉またの名を〈会議室〉
一ヶ月に一度の定例会議が行われる日のみ姿を表す虚構の階。だだっ広い鉱石の広場に小狭い会議室が隣接している。
無駄にスペースが大きく会議室とのサイズの比率がおかしい事を除いては何も無い場所である。
今日は月一度の定例会議、各階層主が訪れる。
ゾラはそこで一人の男を待っていた。
炎魔人ヴォルフ、炎と熱を司る獄炎の魔人。その悪逆非道な性格から仲間に対しても残忍でむごい事を平気で行う、そして……
「暴皇に対する絶対的な忠誠心から会議室には一番最初に来る……だったか?」
二人は対峙した。
「あぁ?何だテメェ」
「情報に誤りが無くて助かったぜ、【泥沼の迷宮】第三階層【亡者の園】統括ゾラ・エルトダウン、テメェが散々いたぶってくれたアンデッドの上司だ。」
「あぁ、あの糞の役にも立たないカス達の上司か。それで?そのクソ共の上司様が俺に何の様だって聞いてんだよぉぉぉ!!」
ゾラは腰を上げた。拳をパーで握る。
──「職場の
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