7 かえるの雨道

 かえるの雨道


 プロローグ


 雨、雨ふれふれ。もっとふれ。


 本編


 はじまり、はじまり。


 岡田かえる


 岡田かえるは雨が大好きだった。


 ある日、川本希望は、雨降りの中で迷子になった。

 どうしてだかわからないけれど、どんなに道を歩いても、自分の家にかえることができなくなってしまったのだ。


「……どうしよう?」

 希望は泣きなくなった。(いや、実際に希望は泣いていたのかもしれない)

 家までの帰り道は覚えている。 

 でも、見慣れた家と家の間のアスファルトの道を進んでいく途中で、なぜか希望はまるで迷路の中に迷い込んだみたいに迷子になってしまって、自分の家にではなくて、また『元にいた大きなミラーのある交差点』のところにまで、戻ってきてしまうのだった。

 そんな不思議な体験をすることは、希望にとって生まれて初めてのことだった。


 まるで希望のことを馬鹿にしているみたいに、あるいは運命を冒涜しているかのように、まっすぐなはずの道がくねくねとねじ曲がっているかのように、希望は雨の中で、何度もなんども、そんな自分の家までの帰り道を往復するようにして、大きなミラーのある交差点のところに戻ってきては、自分の家に向かって、もう一度アスファルトの道を歩き始める、という行動を繰り返していた。


「ねえ? どうかしたの?」

 すると、そんな希望にそんな風にして声をかけてくる人がいた。(それは希望と同じ子供の声だった)

 希望が声のしたほうを見ると、そこには一人の『かえるのかっぱを着た女の子』が立っていた。

 かえるのかっぱというすごく変な格好をしている女の子はいつの間にか、希望の見慣れた大きなミラーの下のところに立って、そこから泣いている希望のことをじっと見ていた。

 女の子はかえるのカッパの中で、にっこりと、そんな希望を安心させるようにして笑った。


「家に帰れなくなっちゃったの」

 希望は言った。

「家に? そうなんだ。なら私が、あなたをあなたの家にまで送り届けてあげるよ」とかえるのかっぱを着た不思議な女の子はやっぱり笑顔で、雨の中で、一人、泣いている希望にそう言った。


「さあ、行こう」

 そう言ってその女の子は希望の手を握った。

「うん」

 傘を持つもう一つの手で涙をぬぐいながら、その女の子に希望は言った。それから二人は一緒に、手をつないで、雨の中を希望の家に向かって、歩き始めた。


 時刻は十二時を少し過ぎた頃。

 それが二人の初めての出会いだった。


 かえるの雨道 終わり

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