第3話

「ああ、そうだったな」


 ぶっきらぼうにTは答えた。


「言葉のあやだよ、刑事さん。今のは連続殺人アーンド強姦をする前のオレの心境の吐露とろだ。だがオレは間違いなく今言ったようなことを思っている瞬間があった。それは嘘じゃない。融通無碍ゆうずうむげだな。結果がよければ過程なんかどうでもいいんだよ。楽しいこと放棄して、したくもない勉強三昧の結果、人生涙目大惨敗。バカ! 死ぬほどのバカ! おふくろとおやじ、てめえらのことだ! バカつがいが! 息子の青春と人生滅茶苦茶にしやがって! そしてオレも死ぬほどのバカだ! なぜバカ親の言いなりになった? オレの人生を振り返って見るにつけ、望外のチャンスを逃しまくってることに気付いた。オレって天然だな。天然にバカだ。天然に救いようのないバカだ。やっぱ救いようのないバカ親のおふくろとおやじの子だよっていうか、あいつらに洗脳されて、救いようのないバカ脳・バカ頭にされてたせいだ。そういう人生か。救いようのない人生か。要するにオレの今までの人生は、何度も思いがけず幸運に恵まれてるのに、全く対応できずに全ての幸運を棒に振っている、ドブに捨てている。それに尽きる。致命的にバカだぞオレは。もうわからん、どうしたらいいのか。オレの頭で考えたこと・考えることは、正しいのか? オレはどうすればいいんだ? 本当にわからんくなってきた。我が主イエス・キリストよ、私に道をお示しください。オレ、中一のときから手足伸びてないだろ。胴と頭だけ成長してる、胴が伸びて頭がでかくなって更に縦に長くなってる。何だこれ? 胴が伸びるなら成長ホルモン出てるってことだから、手足も伸びるだろ普通! 何だこの奇形体型! オレ子供のとき明らかに顔小さくて。胴短くて友達に顔と胴の長さが同じて言われたことがある、小三から小四のときか。手足長かった。体育座りすると両膝の間に顔を挟めるくらい、それで膝頭に鼻柱をぶつけたことが何度かあるくらい! 何であのバランスのまま成長しなかったんだ? おかしいだろどう考えても! 何で手足の成長が中一の段階で止まってしまったんだ? ストレスか? ストレスで手足の成長止まるのか? でも何で胴は伸びた? 何で頭はでかくなった? 何故だ? 中一からオレの身長は十センチくらいしか伸びていない、それが全部胴と頭だけ成長してる、もし同じ分だけ手足が伸びていれば、少なくとも百七十七センチくらいにはなってる。クソが! クソが! クソが! それか、手足の成長、小四くらいで止まって、そっからひたすら胴だけ伸びてたのかも。その可能性はある、小四のときいじめられてたしな。そのストレスのせいか。クソが! クソが! クソが! ババアとジジイ、母親と父親に徹底的にエロを封印されてたしな。それもストレスの一因だよな、本能を抑え込まれてたわけだから。クソ!  あいつらほんと毒親だよ! 中学んとき背を伸ばそうと思ってバレー部入って大失敗、ほんとは卓球部か園芸部入って、適当に練習やるか、さっさと帰宅して漫画読んでたかったのに。女の子と遊んでたかったのに。中学三年間、身長のことばっか考えて、北斗の拳の影響モロ受けて女の子と話すことなんかほとんどなかったていうか、わざとしなかった。やろうと思えば一年からセックスできたのに。きまぐれオレンジロードみたいな青春送れたのに。やるっきゃ騎士ナイトみたいな青春だって送れたのに。母乳女のセフレだって作れたのに。しかも、そうやって楽しんだほうが、結果としてオレの背は伸びたし、伸びなくても全然そっちのほうが良かったろ。中一のとき、オレは自宅から三十分くらいかけて中学に通っていた。地元に小学校はあっても中学校は建設中で完成まで一年かかったからだ。それまで通った中学は、強制的に部活動を義務付けていて何かの部には入らなければならなかった。オレは当時ハマっていた北斗の拳の登場人物たちのような大男になりたくて、バレー部に体験入部した。致命的な馬鹿だ! ハッキリ言って雰囲気が合わなかった。すぐバレー部やめようとしたけど、当時親友だったヒロキって奴がやるって言ったから、何でもバレー部に知ってる先輩がいて、やめるとその先輩にぶん殴られるかもしれんつって、顧問に半ば強迫されるような形で、はい、やってみます、て言った。あの時点でオレとあいつの友情は終ったんだよ。あのときオレはやめれたのに付き合っちゃったんだよな、あいつを見捨てられなくて。この時点で奴はオレを裏切った、オレとの友情を捨てたことに気付かなくて。それに一年後には新しくできる中学に戻るってわかってたんだよな、なら一年間は奴のことほっとけばよかったんだよ、何も義理立てしてバレー部付き合う必要なかったんだよ。それに案の定、自分の保身の為に、バレー部入った後、速攻オレを見捨てやがったもんな、あいつ。ほんと先の見通しも人を見る目も甘いつーかバカだったねオレは。て今はどうなんだ? あいつが、はい、やってみます、て言ったとき、あいつはオレを裏切ったんだから、おまえもあいつを裏切ってバレー部一人抜けすればよかったんだよ。何で自分の保身の為にオレを裏切った奴に義理立てしてバレー部入ったんだ? あいつはオレを裏切り、オレはあいつを裏切らなかった、一方的に損したのはオレだけど。デカ過ぎて奇跡が起きない限り、取り戻せない損だがな! 人間としてはオレの勝ちだ。でもあいつ、オレよりよっぽどいい人生送ってんじゃねえの。どうなんだ? オレを愚弄した、苛めた奴ら、今破滅してんのか? 奴らに天罰は下ったのか? 高校時代も母親と父親の意に沿うように、糞の役にも立たない勉強に時間を費やしただけ。断言できる。勉強は、オレの人生に全く! 役立ってない! 今のオレのザマを見ればわかるだろ! で、今のオレにどんなチャンスが残されてるってんだ? ……フン、いよいよ遺書じみてきたな」


 怨念の塊。また暴走が始まった。話があちこちに飛ぶ。言ってる意味もわからない。いや部分的にはわかる。確かにこいつにはもはや更正のチャンスはあるまい。何人も殺し強姦している。しかも、殺し強姦したのは日本の絶対的上級国民にして天上人である歴代Z務事務次官の皆様とその御家族だ。確実に死刑だ。太陽が東から昇って西に沈むくらい確実だ。自分で言ってるようにこの調書も実質遺書のようなものだろう。意味がわからないのはそこじゃあない。一体さっきから誰の身の上を話している? 自分の話じゃなかったのか? 中学で成長が止まって顔がデカくなって胴だけ伸びた? そりゃ一体誰のことだ? 


 Tはどう見ても百八十二センチくらいある。手足が長く全体のバランスもいい。顔・頭も小さい。

 そう、外見的にはTはハッキリ言って超絶的美男子、比類なき美丈夫なのだ。何の欠陥もない。


 一体何が不満だったんだ? これだけの美貌であれば、こんな事件を起こして人生を棒に振る必要も必然性もなかったはずだ。それとも取り調べをおちょくってる? それにしては語り口がマジだ。それも演技なのか。


「冗談抜きオレどうしたらいいの? まだチャンスあるの? この先オレの人生。オレはどこに行って何をしたらいいんだ? いっそ狂っちまえば楽なのに。もう狂っちゃっていいんだよ、オレ。狂え! 発狂しろ! 本当の意味で発狂しろ! 発狂した後のことなんか知らん。どうでもいい。……いや、最初から発狂してたんじゃないのかオレは? 母親と父親がそもそも狂ってるだろ。そいつらに育てられた時点で。だから人生のチャンスを全部棒に振ってきたわけで。だいたい正直言ってオレ、自分はまだ正気だと思ってるからな。狂ってるだろ。狂人は自分のこと狂ってるとは思わないって言うし。オレよく自分で頭おかしいって言うけど、本心じゃ正気だと思ってるし。だから既に狂ってるんじゃないのか。ていうか壊れてるんじゃないのか? オレの頭。最初から。オレほんとにどうしたらいいんだ? もう自分の頭・判断力が信じられん。オレの思考回路って、正しい答えを導き出せるのか? あるいはレミングと同じように最初から破滅するようにプログラミングされてるのかも知れん。どう行動しても、破滅。どう足掻いても、破滅」


 さっきから自分の親を父親母親と言ったりおふくろおやじと言ったりときにはババアジジイと言ったり呼称が統一されていない。


 どうしたらいいのとか、聞くまでもないだろう。まだチャンスはあるのかとか、あるわけないだろう。 

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