第3話
「ああ、そうだったな」
ぶっきらぼうにTは答えた。
「言葉のあやだよ、刑事さん。今のは連続殺人アーンド強姦をする前のオレの心境の
怨念の塊。また暴走が始まった。話があちこちに飛ぶ。言ってる意味もわからない。いや部分的にはわかる。確かにこいつにはもはや更正のチャンスはあるまい。何人も殺し強姦している。しかも、殺し強姦したのは日本の絶対的上級国民にして天上人である歴代Z務事務次官の皆様とその御家族だ。確実に死刑だ。太陽が東から昇って西に沈むくらい確実だ。自分で言ってるようにこの調書も実質遺書のようなものだろう。意味がわからないのはそこじゃあない。一体さっきから誰の身の上を話している? 自分の話じゃなかったのか? 中学で成長が止まって顔がデカくなって胴だけ伸びた? そりゃ一体誰のことだ?
Tはどう見ても百八十二センチくらいある。手足が長く全体のバランスもいい。顔・頭も小さい。
そう、外見的にはTはハッキリ言って超絶的美男子、比類なき美丈夫なのだ。何の欠陥もない。
一体何が不満だったんだ? これだけの美貌であれば、こんな事件を起こして人生を棒に振る必要も必然性もなかったはずだ。それとも取り調べをおちょくってる? それにしては語り口がマジだ。それも演技なのか。
「冗談抜きオレどうしたらいいの? まだチャンスあるの? この先オレの人生。オレはどこに行って何をしたらいいんだ? いっそ狂っちまえば楽なのに。もう狂っちゃっていいんだよ、オレ。狂え! 発狂しろ! 本当の意味で発狂しろ! 発狂した後のことなんか知らん。どうでもいい。……いや、最初から発狂してたんじゃないのかオレは? 母親と父親がそもそも狂ってるだろ。そいつらに育てられた時点で。だから人生のチャンスを全部棒に振ってきたわけで。だいたい正直言ってオレ、自分はまだ正気だと思ってるからな。狂ってるだろ。狂人は自分のこと狂ってるとは思わないって言うし。オレよく自分で頭おかしいって言うけど、本心じゃ正気だと思ってるし。だから既に狂ってるんじゃないのか。ていうか壊れてるんじゃないのか? オレの頭。最初から。オレほんとにどうしたらいいんだ? もう自分の頭・判断力が信じられん。オレの思考回路って、正しい答えを導き出せるのか? あるいはレミングと同じように最初から破滅するようにプログラミングされてるのかも知れん。どう行動しても、破滅。どう足掻いても、破滅」
さっきから自分の親を父親母親と言ったりおふくろおやじと言ったりときにはババアジジイと言ったり呼称が統一されていない。
どうしたらいいのとか、聞くまでもないだろう。まだチャンスはあるのかとか、あるわけないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます