恋だとか愛だとか
椿叶
手紙
好きな人は誰?
そう聞かれても、彼の顔がはっきりと思い浮かばなくなった。誰だろう、と考えてようやく彼の笑った顔を思い出す。前はすぐに浮かんできたのにな、と思いながら。
高校の時に彼のことを好きになった。でも大学が違ったし、たまに話すぐらいの間柄でしかなかったから、卒業したらこのまま一生会うことはないだろう。そう思って卒業式の時に少しだけ話して、自分の中で区切りをつけた。
区切りをつけたとは言っても、やっぱり忘れられなくて、ふとしたときに思いだして苦い気持ちになったこともある。だけど、時間が経ったり、男友達ができたりしたのもあって、その頻度も減った。
そして今、好きな人として、彼の顔を思い出せない。
私はもう、彼のことを好きではないのかもしれない。話す度に嬉しくて、この時間を大切にしたいと心から思っていたのに。そう思うと寂しいような気がしてしまう。これでいいのだろうか。
彼に渡そうと思って書きかけでやめた手紙も、まだ捨てないでしまってある。何度も捨てようと思ったけれど、恐くてできなかった。捨ててしまったら、彼への気持ちが無かったことになってしまいそうだった。
卒業式の時、全然区切りつけられてないじゃん。まだ忘れてないじゃん。どうするの。
ぐずぐずと考えて、ふう、と息を吐いた。机の引き出しを開けて、そこから手紙を取り出した。書きかけのままなのに封筒にはきちんと入れてあって、それが妙に滑稽に思える。
一度内容を読んでから、静かにゴミ箱に入れる。それから手紙が見えないように、上にそっと別の紙をかぶせた。
これで心が軽くなると思ったのに、違った。ひどく胸が痛かった。
じゃあどうすればよかったのよ。そう呟き、胸を押さえた。
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