2通目 A phantom ship
幽霊船に乗りこんでしばらくのうちは、私の生活は以前と寸分変わらなかった。すなわち、食を
──いまなら分かる。私はあのとき、妻と娘を失って初めて、期待をいだいた。好奇心、興味から生まれる心の弾み。
わずかであっても目的が生まれると人は変わる。身じろぎした私は、ぼんやりしたまま視線を巡らせ、
手を伸ばせば届きそうなほど近いくせに、どこまでも果てしなく遠く見える青い空が広がっていた。
ここは死者の国かと一瞬考えた。ある意味、当たっているのかもしれない。乗員のいない船、現実味のない風景。私は長らくその場に立ち
次にまぶたを開いたとき、私の心持ちはすっかり入れ替わっていた。妻と娘を思えばあいかわらず胸は痛んだが、それはそれとして、余った時間を悲しみで満杯にしたまま生きる必要はないのだと思えた。あいかわらず能動的に生きる意欲はわいていなかったが、
船は自らの意思を示すかのように空を進んでゆく。
これからのちの私の人生は、この船に導かれたと言っても過言ではない。
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