第71話 ドラゴンライト
太一は、あゆみと優姫を連れて、中野駅に行った。
「私も調べてみたんだけど、光龍社なんて検索できなかったわ」
「うん。結局歩いて探すしかなさそうだね」
太一たちは中央線中野駅の南口を出て、東へ向かって歩いた。所々、庭に草木が植えてあるような高級住宅がある反面、古めかしい集合住宅も目に付いた。オフィス街やショッピング街とは対照的で、入り組んだ道へと歩を進めると時を遡ったような錯覚にさえなる。東中野駅を過ぎて神田川に差し掛かったところで目を上に転じると、遠くに新宿の高層ビルが顔を出すから、それでようやくここが都心だということを思い出せる。
「それらしいものは、何もありませんね」
「どこかでお茶でも飲みましょうよ」
優姫にそう言われ店を探すのだが、付近にはコンビニさえない。しばらく歩いてようやくそれっぽい建物を見つけて近寄ってみたが、営業時間前でシャッターが降りていた。
「仕方ない。1度駅まで戻ろうか……。」
太一が諦めてそう言ったとき、あゆみが何かを見つけ、太一に声をかけた。
「でも、マスター。ここって!」
あゆみが指差した看板の文字を読んで、太一はハッとなった。
「『ライブハウス・ドラゴンライト』……。」
優姫がそれを読み上げた。ドラゴンライト、音の響きは『光龍』に通じるが、どうにも拍子抜けしてしまうのは、ライトの英単語が『right』になっていることだった。
「やっぱり、違うよね……。」
何の手がかりもない中で見つけた、ぬか喜びの看板。太一は見なかったことにして立ち去ろうとした。そのとき、太一たちにはなしかけてくる人物があった。
「あれ? 君たちバンドマン? だったら安くするよ!」
はなしかけてきたのは、『ライブハウス・ドラゴンライト』の経営者、七海さよりだった。さよりはグラマラスな身体つきをしていて、肌は白くて脚も腕も細い。太一が思っていたライブハウスの経営者像を、覆す清楚な容姿をしていた。さよりは元はバンギャなのだが、その面影を残すのは、長い髪の先が少し赤く染まっていることくらいだった。『ライブハウス・ドラゴンライト』は、防音扉を開けて地下に降りたところにあった。そこで太一たちは、タダというのを強調されて、お茶をご馳走になった。
「ふーん。それで、光龍社を探してるんだ」
「はい。看板を見て、何か関係あるかと思って……。」
「関係ねぇ……。」
「何でも良いから、ご存知のことがあれば、教えてください!」
「うーん。あるよ!」
さよりはしばらく考えたあと、悪びれなくそう言った。太一は、タナボタな展開に一瞬色めき立った。
「ただし、教える代わりにうちのイベントに参加してよ」
人の世は等価交換で成り立っている。太一は、さよりの申し出に、世知辛さを感じずにはいられなかった。
「でも私たち、楽器の演奏なんて、できませんよ……。」
「そんなの、簡単! 歌えば良いのよ。カラオケあるし」
「だ、だけど、衣装もないから……。」
「巫女なんでしょう。装束で充分よ!」
「俺、人前はちょっと苦手で……。」
「お兄さんは出なくて良いわ。ガールズバンドの方がウケが良いから!」
軽く傷ついた太一だった。こうして、光龍社に繋がる情報を入手するために、急遽ライブに出演することになったあゆみたちだった。
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