一話

「お前、なんにも出来ねぇのな」

「お前が死んだの、平成だったか?」

よく聞く、言葉。

先輩達が、

私に向けて言っている言葉だ。

ここは、人間の言うあの世に存在する、

隠世役所生活安心課というところ。

人間の住む世界、

つまりこの世で死んだ人は、

新しく生まれ変わるか、

それともここで暮らすかの選択をする。

その時に、私はここで

生きることを選んだんだけど。

「出来損ない」

「無能」

そんなレッテルを貼られてばかりいる。

私の上司に当たる楓さんは、

そんな私にもできる仕事を用意してくれるけれど、

私に出来ることなんて、

この世に暮らす人間と同レベルのことくらいで。

そして、あの世の生活に慣れていないから。

なんて言い訳が通用するような歳でもなくなってきた。

「馨!

……毎日毎日、飽きない?」

「飛鳥。

出来ることこれくらいしかないから。」

「何言ってるの!

こんなに資料庫を綺麗にできるのは、

きっと馨位だって!!」

それは飛鳥がガサツだからでしょ……

とは、さすがに言えなかった。

それに、飛鳥はこんな私にも

変わらず接してくれる大切な友人だ。

ありがとう。そろそろ書庫でようか、

と私が言うと、不意に書庫の扉が開いた。

「おいマヌケ」

ふてぶてしい顔をした男。

ハン、と若干見下すようにして笑うのが、

この男の基本スタンスだ。

「涼くん!またそんなこと言って!」

飛鳥が叫ぶ。

「マヌケをマヌケって言って、

一体何が悪いんだよ?」

「別に術が使えるかどうかなんて、

そんなのただの個性じゃん!」

「安心課にいるならできて当然のことだろ?」

既に聞きあきた討論だった。

涼は私のことを馬鹿にしていて、

飛鳥はそれを止めようとしている。

どちらも私が、

ちゃんと術が使えればいいだけのこと。

「いいの、飛鳥。

ごめん、涼、で、何か用?」

私を呼んだよね?

そう聞こうとした瞬間、

弾けるように飛鳥が言う。

「なんで馨が謝んの!」

「ハッ!よく分かってんじゃねぇかよ?

お前が出来さえすればこの話は不必要なんだ。

謝るくらいなら

とっととできるようになって見せろよな」

涼はそれには取り合わず、淡々と私にそう言った。

「善処する。

……それで、どうかしたの」

「楓さんがお前に仕事だと。

詳しい話は直接伝えるから、

仕事が終わったら来い、とよ。」

「了解、今から行く」

伝えたからな、と言うと涼は踵を返して、

書庫から出ていった。

「んじゃ、飛鳥、

私も行くからさ。一緒に戻ろっか。」

「……うん……」

煮え切らない返事。

本当に涼が不満なんだな。

私は若干苦笑して思う。

そんなに信頼されることを

一切した覚えはないのがどうにも不思議だけれど、

こんなふうに思って貰えると、

やっぱり嬉しい。

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