尚一と[リセット] その三

「貴様。我を召喚しろ」

 できない、と断ると、

「このままでは、戦況は悪化する。しかし我ならどうにかしてみせよう」

[クエイク]の言う通りにするべきか…? いや、まだお互いに信頼関係が築けてない。霧生は尻込みした。だが[クエイク]は、

「貴様に試練を課す。我を召喚し、操ってみせろ。そうすれば我は、貴様を主人と認めよう」

 と言うのだ。

「……本当だな、[クエイク]?」

 この状況が少しでもどうにかなるのなら…。

 霧生には、迷っている暇はなかった。

「これが伝説の式神、[クエイク]!」

 札から現れた[クエイク]。その姿に尚一は驚きを隠せず、

「何だ、この式神は? 前情報にはなかったぞ? お前の式神は[リバース]一体のはず。いつの間に、二体目の式神を?」

[クエイク]のチカラは、地面を操る。それを使えば、この状況を突破できるかもしれない。自分を操ってみせろと[クエイク]は言った。霧生の命令通りに動く気なのだ。

「[クエイク]、俺の指示にないことはするなよ?」

「人の子よ、そんな心配よりも、自分のことを案じたらどうだ?」

 相変わらずの上から目線だが、ここは頼りにするしかない。チカラが強力なことには変わりはないのだ。

「…なあ、あの[リセット]のチカラに逆らえるか?」

「それは不可能だ。我がチカラも戻される」

「じゃあどうやって戦うんだ?」

「それを貴様が考え、我を操るのだ」

[クエイク]は無茶振りをしてきた。だが霧生は怒ることもなく、これが[クエイク]が自分に与えた試練なのだと理解した。[リバース]は札に戻して、[クエイク]だけで戦って勝ってみせる。


 これは大きな試練である。式神が霧生に課した、召喚師としての力を測る試練なのだ。おそらくここで、負ければ[クエイク]は今後絶対に言うことを聞かないのであろう。勝てたとしても、それが卑劣な戦法であれば、[クエイク]はきっと納得しない。

 つまり[クエイク]のチカラを最大限に駆使して、正々堂々と勝利する必要がある。

(さて。[クエイク]のチカラは地面を操ること。これをどう使って、尚一の[リセット]を突破するか……)

 普通に地震を起こしても、[リセット]によって揺れる前に戻されてしまう。

(待てよ? [リセット]のチカラを逆に利用すれば…!)

 頭の中に、勝利の道筋が見えてきた。それを確認するためにも、

「[クエイク]! 地割れはできるか!」

「我を甘く見るでない」

[クエイク]が触手で地面をなぞると、[リセット]めがけて地面が割れていく。その大地の裂け目に、[リセット]を尚一ごと、飲み込もうとする。

「そんなものは、意味ないぜ」

 だが、[リセット]のチカラが発動する。すると割れたはずの地面が、閉じていく。

「今だ! 地震を起こせ!」

[クエイク]によって地震が起きる。どうやらその影響を受けないのは[クエイク]だけのようで、霧生もやはり立ってはいられない。

「うぬぬ…。[リセット]」

 尚一は今度は、[リセット]の甲羅の上に乗った。[リセット]は四本のたくましい足で踏ん張っている。地震はあまり、効果がないようだ。

「これは元に戻す必要はないな! チカラがなくても何も問題はないぜ!」

「……らしいな」

 しかし霧生は、地割れや地震で勝とうとは思っていなかった。

「だが[クエイク]は! 地面に関するチカラ。この地球上にいる限り、逃げることはできないぜ?」

「面白いことを言うなあ、霧生! 気に入ったぜ。少なくとも姫百合よりは話がわかる奴だ。嫌いじゃない。お前となら、永遠に戦えるぜ!」

 そんな物騒な希望はごめんだ、と言わんばかりに霧生は首を横に振った。

「なぜ式神が存在するかは、俺は知らない。だがな、終わらない戦いのために存在するわけではないと思うぜ?」

 つい最近、式神と召喚師の存在を認知した霧生が口にしても、説得力はないかもしれない。だが、

「はあ? お前は頭がおかしいのか? 戦いってのはな、人間が生きている上で、絶対に避けられない事象。そして人類は、戦いには何でも利用する。それを考えればよぉ、式神の存在意義だってわかんだろ? ぶつけ合うのさ。強い方だけが生き残り、それが人類の進化に繋がる」

「じゃあお前、俺に負けたら退化しましたとでも言うのか? その無様な姿を今、拝んでやる!」

 まずは霧生は、尚一に近づいた。そして殴りかかる。拳が腹に入った。

「うぐ! 相変わらずいいパンチじゃねえかよ…」

[クエイク]は[リセット]に攻撃した。[リバース]よりも力量がある[クエイク]の触手は、[リセット]の甲羅にヒビを入れることができた。

「フォアアアアア!」

 結構なダメージであったらしく、[リセット]は悲鳴を上げる。そして蛇のような尻尾で[クエイク]を狙い撃つ。

「効かぬ」

 その蛇を、引き千切ってみせる[クエイク]。またも[リセット]は大声で叫ぶ。

それを見た霧生は、結構後ろに下がった。

「マズい! あの式神、予想以上に強い……。[リセット]!」

[リセット]がチカラを使った。周りの全ての物の状態や位置が、数秒前に戻る。甲羅はヒビが入る前に戻る。だが、

「霧生!」

 霧生が距離を取ったのは、ここにあった。数秒前は尚一の目の前にいた。位置を戻されるという事は霧生は、尚一の近くに戻されるということ。

「タイミングは掴みやすいぜ。だって何度か、[リセット]のチカラを使わせたもんなぁ!」

 位置が戻る。同時に尚一に向けて、今度は蹴りをお見舞いする。

「うおおぉっ!」

 これは効果が大きかった。尚一は吹っ飛ばされて、地面に倒れた。

「さあどうする? [リセット]のチカラを使わないと怪我も位置も元には戻せない。だが使えば、また俺に攻撃される前に戻る」

 しかし、その程度のことに臆する尚一ではなかった。

「ああん? 戦いが終わらない状態を、お前の方から作り出したのは褒めてやるよ。だがな…」

 今度は尚一の方が霧生を殴り飛ばした。

「…くっ!」

「[リセット]だってな、終わらない戦いには、覚悟ができている。それが俺と、[リセット]がいかに相性がいいか…わかるだろう?」

 この作戦が、裏目に出た。逃げたい時に逃げられないのだ。霧生は尚一を一撃で降参させなければいけなかったのだが、そんなことで戦いを投げ出す人物ではないのだ。

「しまってるな、俺。まあ式神はチカラがあってこそだ。ちゃんと使う計画を編んでいるのに、物理で押し切れるわけないよな…」

[クエイク]を霧生は呼び戻した。どうやら動きの遅い[リセット]には負けることがなかったようで、余裕の表情である。

「しぶとい。式神もこの人の子もな。何か、策はないのか?」

「あるぜ。いいか、火山弾だ。できるだろう?」

「任せよ。とびっきり大きいものを出してやる」

 これで霧生のプランは完璧になった。

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