第22話 洞窟内部
洞窟の中はそれ程深く無かった。薄暗い道を数分歩くと、直ぐに行き止まりになっていた。
「······コルカ。君はここで生活をしているのか?」
床には手製の寝台があり、毛布も置かれている。食器や調理器具、壁にはこの大男が持つに相応しい大剣が掛けられていた。
「······余り人とは関わっていない。こんな身体だからな」
コルカはそう言うと、まだ種火が残っていた薪を足で消した。昇っていた煙が天井の隙間に吸い込まれて行く。
そうか。この洞窟には通気口もあるのか。
薪の周りには小動物の骨と思われる物が散乱しており、野菜は欠片も無かった。
「コルカのおっさん。この壁の絵は何?」
イバトは道の行き止まりに掛けられた大きなタペストリーを指差した。そのタペストリーには、白い竜のような生き物が描かれている。
「これは聖竜の絵だ。俺達四手一族は、遠い昔から聖竜の守護者だと言い伝えられている
」
イバトはコルカの説明を受けると、床にあった皿に注目する。皿にはスープのような液体が入っていた。
「すっげーいい匂い。俺匂いだけで美味い料理か分かるんだ。これコルカのおっさんが作ったの?」
お前は犬か。と思いながらもコルカは親切に返答する。
「······四手一族は味覚が鋭敏でな。料理を得意とする者が多い」
「へえー。コルカのおっさん、男なのに器用なんだね。クレアなんか、女の癖に何も作れないんだよ」
突然の不意打ちに、クレアは顔を真っ赤にして激昂する。
「う、うるさいわねイバト!!私は作れないんじゃなくて、作らないだけなの!」
子供二人が舌戦を開始すると、コルカは無言で俺を見た。
「コルカ。協力に感謝する。君は畑荒らしとは無関係だ」
俺達は洞窟から出ると、行路には戻らず再び洞窟の前の木々に身を隠した。
「エリクのおじさん。何をするの?早く街に帰りましょうよ」
クレアの疑問に俺は答える。俺はまだ、コルカが畑荒らしの犯人では無いと断定していなかった。
「一晩ここでコルカは見張る。今晩動きが無かったら明日もだ。二晩コルカが怪しい動きを見せなかったら街に戻る」
俺の説明にクレアが不平を漏らす。イバトはと言うと、真剣な表情で俺を見ていた。
「······エリクのおっさん。コルカのおっさんが四手一族だから疑ってんの?人を外見で判断するなんて良くないよ」
イバトが意外にも真面目に言って来たので
、俺も自分の考えを言う。
「イバト。お前の言う事は正しい。俺もコルカからは悪い印象を感じていない。だがな。世の中には表の顔だけでは測れない連中が多くいる。俺達は正式に依頼を受けた身だ。疑いが消えるまで確実に見届ける義務がある。分かるか?」
イバトは少々不服そうだったが、黙って頷いた。時間はたちまち過ぎて行き、森の中は闇に包まれた。
「······エリクのおじさん!洞窟から誰か出てきたわ」
クレアが小声で洞窟の出口を指差した。暗くて良く見えないが、人影はコルカだろう。俺達はこらからコルカを尾行するつもりだった。
「······エリクのおっさん。あれ何?」
イバトが人影を見て呟く。コルカと思われる人影の足元には、何かが地を這うように動いていた。
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