第10話 ポンコツ魔法使い
街と街を結ぶ行路は、比較的安全度が高いが、それでも魔物や野党に襲われる可能性はある。
俺達を囲んだ魔物達は七体。五体は銅貨級魔物、二体は銀貨級魔物だった。依頼主を守る為に冒険者達が武器を構える。
こうして魔物達との遭遇戦は、たちまち乱戦に突入した。俺はイバトとクレアに事前に指示していた。
戦闘が始まった際、最前列が俺、中央にイバト、後方にクレアが位置するように。これが最善の陣形、と、言うかこれ以外の選択肢などあり得なかった。
「うりゃああ!」
だが、脳内空っぽのガキが雄叫びと共に威勢よく駆け出した。
イバトは俊足を生かし、人食い猟犬の間合い入る。そして、このガキにしては立派な剣を両手で握り振るった。
その一撃は、人食い猟犬の首を切り裂き、致命傷を与えた。このガキ!あの突進力と正面攻撃はなかなかの物だ。
俺が一瞬感心していると、イバトは次の獲物を求めるかのように足を動かす。
「待てイバト!そいつは、銀貨級魔物だ!」
俺の静止はイバトの耳に入っていなかった
。イバトが斬りかかったのは、銀貨級魔物、
炎の偶像。
人の形をした木製の身体が、蒼い炎に覆われている魔物だ。炎の偶像はイバトの攻撃を素早く横に回避した。
攻撃をかわされたイバトは、途端に体制を崩す。あのガキ!正面攻撃以外は、隙だらけじゃないか!
イバトのがら空きの側面を、炎の偶像が右手に持った斧で狙う。俺は援護に向かったが
、どう考えても間に合わなかった。
「イバト!」
その時、俺の後ろからクレアの声が聞こえた。クレアは魔法の杖を振りかざし、氷結の呪文を唱えた。
こ、こいつ、炎の呪文以外も使えるのか!
?杖から放たれた吹雪は、炎の偶像の背中を直撃する。
背中が凍りつき始めた炎の偶像は、悶え苦しみ斧を捨てて走り出した。クレアの吹雪は止む事無く、炎の偶像を完全に固まらせた。
炎と氷の相性があるとは言え、あの銀貨級魔物を一撃で仕留めるとは。俺は魔族の少女を見直したが、それはイバト同様、一瞬のぬか喜びに終わる。
息絶えた炎の偶像の氷の塊が、どんどん厚くなっていく。クレアは氷結の呪文を唱え続けていた。
「クレア!もう呪文を止めろ!そんな事をしたら······」
俺は少女に向かって叫んだ。クレアはひきつった笑顔で俺を見る。
「······魔力が尽きたわ」
クレアの上ずった声に、俺は口を開けたまま固まってしまった。ま、まさかこのガキ?
「わ、私、魔力の調整が上手く出来ない······
の」
イバトが言っていた。クレアは魔力がすぐ無くなると。クレア自身が言っていた。村の家々の屋根に積もった雪を、炎の呪文で溶かそうとしたら家ごと燃やしてしまったと。
その原因が今しがた分かった。このガキ、なんてポンコツ魔法使いなんだ!!もう一体の炎の偶像が、仲間の仇と言わんばかりに俺に襲いかかって来た。
その時、新たな魔物が三体この戦場に加わって来た。
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