6日目(中編) 那智のはなし。②

 そう言ったあと、那智から発せられた言葉に私は軽く絶望を覚えた。


「私、好きな人ができたかもしれない」


 一瞬事態を呑みこむことができず、相槌を打つので精一杯だった。


「榎嶋陽風くんなんだけど」


 相手が男であることは私にとって一種の救いであった。遠回しに“あなたに可能性はない”と言われているようだった。理性の限り、の状態を保ってその話を聞いた。


「知ってる・・・・・・よね」


 嫌というほど知っている。彼がゲイでハタケを好きなこと。毎日部活の休憩時間を使ってハタケに会いに来ること。嫌というほど、知っている。


 その日の帰り道、独りで歩く私はまるでどこかの怨霊のように見えただろう。それほどまでに沈んでいた。けれど、相手がルカということは彼女に可能性はないということ。ふと頭に浮かんでは消えていく“傷心につけこむ”という言葉。そんな最低なことできる訳ない。そう思いながら、心の片隅で“一番勝算がある”なんて考えてしまっている自分がいた。期待すればするほど辛くなることは、嫌というほど思い知ってきたはずなのに。

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