仮想敵
「それでは、しっかりと経験を積んで、青春を謳歌しましょう!」「(黙れ守銭奴め)あい、行ってきます」
頑張って来いという受付からの言葉に心の中でそう吐き捨てながら受け答えし、中に入っていった。
元々ここはトンネルのために掘られた穴だったのだが、掘り始めてすぐに会社が倒産、しかもこのトンネルを掘っても大した意味はないということになり放置されていた。
そんな放置されて久しいこのトンネルが時空間異常により巨大化、そのうえダンジョン内の生物が掘った穴のせいで迷宮のようになっていた。
「ほえー・・・、洞窟って聞いたけど普通に昼間みたいに明るいな。ナンデ?」
そんなしょうもない疑問を考えながら付近を観察しているとぺしぺしと頭が叩かれる。
「ああ、早く行けってことね。まぁ待てよ。そう慌てんな」
ジンベーからの催促に慌てるなとなだめてから、改めて索敵を始める。
(ゴブリンはまあ当然として、生徒たちもちらほらいるな・・・、まぁこっちの方は難易度低いし地味だし、あっちの方に客足が行くのも仕方がないのかも・・・、こっちにはありがたい話なんだけどね。見かけに騙されるバカ供!ブザマ!)
索敵はすぐに終わった。このダンジョン自体それほど大きくなかったから。
「じゃぁいくか・・・」「キュー!」
そう一言つぶやいてようやく歩を進める。
辺りをきょろきょろ見回しながら歩いていると早速、数匹の生き物が見えた。
近くに隠れるのに最適な岩があったのでそこに身を隠し、様子をうかがう。
(何だゴブリンか・・・)とうんざりした様子で3匹のゴブリンを眺める。
距離はそこまで離れていない。だがゴブリンたちはこちらに全く気付かずに何やら気色の悪い声でギャーギャー喚いている。どうやら怒っているようだ。きっと大した理由じゃないんだろうな。それにしても・・・彼は思った。
何て気味の悪い光景だ。あんな奴らはとっととぶっ殺して食っちまおう。そう思った。
彼は銃を構えた。あの時からさらに強化したものだ。今のこいつの威力なら強化なんてかけなくたってあのクソイノシシ野郎に致命打を与えることができるだろう。
指に力を込める。あとは連中がもう少しまとまってくれるとありがたいのだが、と考えていたが、その時はすぐに来た。
さっきから怒っていた奴がとうとう他2匹に手を上げようとして走り寄った、がその握った拳が相手に届くことはなかった。頭部が消失していた。
それは2匹のゴブリンにもいえることだ。
銃声はない。弾丸が空を裂く音もない。ゴブリンたちが倒れ伏す音もない。その場は完全に無音だった。
一瞬で3発。その原理は指に力を籠め、痙攣のごとく一瞬で何度も引き金を引くというものだ。
仕留めた獲物をさっそく彼は解体しにかかった。
プロというほどではないがてきぱきと解体の魔法を使いながら解体していく。
解体の魔法というのは文字道理解体してくれる魔法だ。だが練度が甘いとうまく解体できずに価値が下がってしまう。
なのでこの魔法はある程度練度が保証されるか、それと併用して自分で解体という人が多い。熟練者は大体後者の方法を取る人が多い。
解体し終えて、使い魔達と肉を貪っていると遠くから爆裂音が聞こえてくる。その音の聞こえ方からして500メートル先くらいかと目星をつけた。
(今のはファイヤーボールだな・・・。ここにいる生物にそんなもの撃つなんて馬鹿な奴だ・・・。オーバーキルが過ぎる・・・。どこの馬鹿だ?)
なんとなく気になったので、魔法をぶっ放した集団(彼はもう何人いるかは分かっていた)の顔を拝むためにこそこそ歩を進めた。
激しく動き回っているわけではなかったのですぐに目的の面は拝めた。
岩陰に身を隠してこっそりとその集団を観察する。
「もう!すっかり黒焦げじゃない!ゴブリン程度にファイヤーボール撃つとか信じらんない!」
どうやら口論しているようだ。
ツインテールの少女がファイヤーボールを撃ったと思わしき少年に怒鳴り散らしていた。
「悪かったって!でもしょうがないじゃないか!だって芽衣に飛び掛かってきたんだぜ!」
「だから何よ!あんなのに私がやられるとでも!」
弁解しようとする少年の言葉に余計に逆上する少女。完全に火に油だった。
そんな様子に「こらこら、そろそろ落ち着きましょう」となだめるおっとりとした少女が仲裁に入る。
(ゲェー!よりにもよって如月の仲良しグループかよ!)
そう彼らのグループがクラスの人気グループである如月グループ(優人命名)である。
全員が見事に美形なことと強力な力を持っているために、強い力を持った存在には極力近寄りたくない優人にとっては絶対に近寄りたくないグループであった。
だが彼らに近寄りたくない理由は強力な力を持っているという理由だけではない。もう一つある。
その理由は・・・
(あいつらなんか持ってるんだ。なにか変なものを引き寄せる何かが・・・)
そう優人は、彼らが何か良くない因果のようなものを持っていることに頭ではなく直感で理解していた。だからこそ彼はあのグループと接触したくないのである。
「はぁ~・・・、もういいわよ・・・」そう言ってとぼとぼ出口に向けて彼らがこちらに歩いてきた。
(ギャー!こっちくんな!モグドン撤退撤退!)
こっちに向かってきたとわかるや否やモグドンに撤退の指示を出した。一刻も奴らから離れるために。
優人は彼の上半身ほどの大きさになったモグドンの下半身をつかんで、地中へと潜航していった。
もしも優人のツキが地に落ちた瞬間は?と聞かれたら、きっとこの時に完全に落ちたのだろう。
まだ不運は始まってもいない。
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