第80話 生産人形

 目出度い話しならと夫婦水入らずにすべく、王の私室を辞したゼノ。

 少し疲れるまで地団駄を踏んでストレスを発散したので、流石に覚えた城の中を自室に向って移動する。

 丁度半分ほど歩いた所で、耳元から声が聞こえてきた。


「ゼノ、お話しがあります。私の下まで来て頂けますか」


 声はすれども姿は見えず。

 しかし覚えのある声に行き先を変更する。




「来てくれて感謝しますよ、ゼノ」

「お前は木だから動けないしな、気にするな。あっ、いや。寒いギャグじゃないかなら?」


「こうして来て頂いた理由をお話しします」


 世界樹は言った。

 戦争後数日からシュトロハーゲンに喜びの感情が溢れ。

 つい先程、邪竜の呪いが完全に消滅したと。

 それもこれも全て、ゼノ貴方が導いた結果です。と。


「それで私から個として、貴方にお礼の品を差し上げようと思いまして」


「ほう。何も加工せずとも神薬を超える効果のある、お前の葉でもくれるのか?」


「いえ、もう直ぐ地面に落下します」

「へっ?」


 ゼノの耳にサンカイオーを高速で走らせた時の様な、空気を押しのける重低音が上から聞こえてきた。


 ハッとして上を見上げるのと同時に世界樹が。


「余命5000万年程度の枝を自切しました。そこ、危ないですよ?」


 そのセリフを聞いた瞬間に、世界樹に背を向けて全力疾走を開始した。


「逃げろーっ!世界樹の枝が落ちて来るぞー!!」


 世界樹を護る騎士の詰所に向って大声で叫びながら。

 詰所からは全身金属鎧の騎士達が、ガチャガチャ音をたてながら。

 危険を自分で目視もせずに走り出している。

 ゼノに対する評価と信頼、そして彼等の日頃の鍛錬の成果が現れていた。


 騎士の詰所にまで影が挿しているが、騎士達はともかくゼノはまだ安全圏まで逃げ切れていない。


「ゼノ殿ぉー!我々騎士は全員退避致しましたぞぉー!!」


 騎士が逃げおおせたと聞き、足下に亜空間の入口を開けて落下して逃げる。

 全身が亜空間に入り入口を閉じた次の瞬間。

 ゼノの知覚には、亜空間の外で巨大な質量の落下を確認出来た。

 落下して亜空間に入ったゼノは下に落ちたのに、入口からは水平方向に吐き出され。

 サンカイオーのフロントバンパーへ、全身をしたたかに打ち付けた。


「げふっ!」


 怪我こそしなかったものの、あまりの痛みにのたうち回る。

 次第にポケットに入れていて、ぶつかった衝撃で割れた万能薬が。ズボンの布越しに染みてきて体に付着し、ゼノを痛みから回復させた。


「今までで1番、万能薬の無駄使いをした気になるな」


 外に出るのに亜空間の入口を開けると、世界樹の枝から少し離れた位置に出られた。

 入った地点から出れなくなると、近くの安全な場所に入口の箇所が変更されるようだ。


(新たな生活魔法の情報は得られたが、もっと穏やかな方法で知りたかったよ)


 心配して声を上げながら駆け寄った騎士に、軽く手を挙げて無事を伝えながらゼノは盛大にため息をついた。


「っはぁぁぁ〜〜〜……」

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