第60話 2日目 3

「世界樹、首が疲れる。話しがあるなら見下す位置に居らず、同じ席に着いて貰おうか」

「わかりました、そう致しましょう」


 ゼノは危険予測が働いていて、危険なしと予測したので大きく出る事にした。

 世界樹と名乗った女性はゆっくり降下すると。

 テーブルをすり抜け、上半身がテーブルから出た状態で停止した。


「そうじゃねーよ!こえーから!」

「あらあら、ウフフフ」


 ゼノのツッコミを笑ってスルーした世界樹は。

 エルフが空けた正面の席へと移動し、着席した。


(期待させておいて、パンチラはなかったし。実体のない利点を使った一発芸で毒気は抜かれるし。まったく。手玉に取られるのも、悪くないな)


 誰も期待させてはいない、勝手に期待しただけだろうに。

 そしてどんな時でもたくまし過ぎる妄想力。

 童貞をこじらせた男の真髄の片鱗が、ここにはあった。




 世界樹は語る。

 人間の機微には疎いために方法はエルフに任せたが、ゼノを試す様に頼んだのは自分だと。

 壊滅したシュトロハーゲンと住民であるエルフ達。

 彼等を復興させるにはかなりの年月を要するはずだった。

 それも数千年、あるいは数万年もかかる程に。


 しかしゼノが譲渡した7色草と、聖水で作られた万能薬で事態は一変した。

 生きているエルフのほぼ全てが完治したからだ。

 そして唯一邪竜の呪いが残っていたジュディスからも、呪いが取り除かれている。


 これだけの奇跡を齎した人物が、もし悪人であったら。

 万能薬をチラつかされ、国もエルフも貪り尽くされるのではないだろうか。

 世界樹はそう考え、ゼノの為人ひととなりを試す様にエルフに頼んだそうだ。


 結果は良。

 人間らしい感情を持ちながらも、誰も傷付ける事なく終始行動をしていて。

 感情を理性でコントロールする必要性を理解し、実践している。

 善悪を知りながらも、最後の優しさを内包した人物。


「ゼノ。貴方を試した私ですが。貴方にひとつ、お願いがあります」











「どうか私を、救ってくれませんか」






 世界樹はエルフと土地を守る為に、邪竜の呪いの大半をその身に吸収した。

 本来ならばまだ耐えられ、時間経過で浄化出来る筈だった。

 しかし、つい最近。東の地にて、大量の命が消え。その無念や内に溜めていた業が解き放たれた。

 邪竜の呪いはそれらを吸収し、強さを増して世界樹を蝕む速度を上げた。

 このままでは世界樹が枯れ、世界の浄化が行われずに。魔物しか住めない世界になってしまう。

 だからどうか。

 ジュディスの呪いを消したその力で、世界樹の呪いも消して欲しい。





(俺にどうしろってんだ。ついこの間まで浮浪者してた、ただの人間だぞ?それにジュディスの呪いは亜空間に入ってたし、少量だったから吸収出来たんだ。世界の浄化装置が抱えきれない呪いなんて、どうしようもないだろ……)


 ゼノは人前だが気にもならない程に追い詰められ。

 頭を抱えてテーブルに額をぶつけた。


(それでも、ここでやらなきゃ死んじまうんだ!ダメで元々、やるだけやってやらぁ!!)


 やると決意したゼノは勢いよく立ち上がり。

 固定されている長椅子ベンチが下がらずに、勢いをふくらはぎに押し返され。

 そのまま腰から前に倒れ。

 テーブルに強かに顔面をぶつけた。


「ぐぬおおおおおおおおっ!!」


 それを見た一同は心をひとつにした。

 こんなのに任せて大丈夫だろうか、と。






(^O^)/あとがき

 新キャラのジュディスがチーム入りしましたが。チーム参入後の出来事が少ないので〇〇PV突破記念投稿は少し先になります。

 8千とか1万PV記念をやろうと思っていたのですが。

 これを書いている51話投稿後の時点で、3万PV突破です。ありがとうございます。


 本人が気が付いたら世界の命運を背負っている主人公。

 こんなおっさんで大丈夫か?

 大丈夫じゃない、問題だらけだ。

 社畜時代の様に増え続ける問題。

 解決しても解決しても新たにやって来る問題。

 主人公なのに主人公体質じゃないおっさんには荷が重い。

 誰か俺を助けてくれ、楽をさせてくれ。

 叫ぶ主人公に答える声が。

 第2章エルフの国編、本格開始!!


 これからも生活魔法をよろしくお願いします。

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