第27話 4日目 2
「ありがとうございました、またのご来店をどうぞ」
ファミレスで朝食を終えた3人は、その足で街の南にある山。
そこから流れる川を、本日の目的地とした。
(あれ?万屋での仕事、何日受けてなかったっけ?まあ、稼げてるし良いか)
金を稼ぐ事が重要なのであって、悪事でないならその手段は気にしなくて良いや。
ここままならギルドが買い取り専門店になるな、等と考えながらゼノは南の防壁門へ行く列車に揺られていた。
ふと思いついて足を止め、前を行き楽しそうに談笑している2人に声をかける。
「2人共、ちょっといいか?」
「はい?」
「どうした?」
ミラとサリアは足を止め振り返り、ゼノの声に耳を傾ける。
実はちょっとだけ。楽しく話しをしてるのに邪魔しないで、とか言われないかビビっていたのは2人には秘密だ。
「部屋が少し狭くなるけどさ、オフロード用の自転車買わない?俺が中に居たら入口は同じ位置にしか出せないから、漕いで移動するのは俺だけになるけどさ。自転車なら音も少ないし、移動時間の短縮になるかなーって」
2人が反応しないので言葉尻が徐々に小さくなっていき、最後には伺う様な言い方になってしまっている。
自分からチームを去るのは問題ないが。捨てられると立ち直れなさそうなので、貢献しようと頑張るおっさん。
「サリアはどうです?B級の目線から見ての判断は。私は良いと思うんですけど」
「アタシも賛成だけど、毎回使うのは反対って所だな。毎回ゼノにチャリで走らせると、移動の負担が全部1人に伸し掛かっちまう。だから急ぎの時とか、どうしようもない長距離の時だけ使うなら良いんじゃないか?」
「そうか。そうなると場所だけ取って、日頃は使わなくなりそうだな。分かった。部屋に車が置ける様になったら買おうか」
「はい、そうしましょうか」
「いやいや、ちょっと待て。あの部屋、デカくなんのか!?」
「ああ。毎日見えないくらいだが、少しずつ広かっているし。魔石なんかを吸収させれば加速するぞ」
「何っ?それは何処までデカくなるんだ!?車が入るってんならガレージくらいはあるよな?そうと分かれば、こうしちゃいられねえぜ!!」
ガシッ!
ガシッ!
サリアはゼノとミラの手首を掴むと、2人を引きずる事なく浮かべたまま。目にも止まらぬ速さで走り出した。
それから1時間。
目的地の川辺では、亜空間に嘔吐物の汚れを吸収させたゼノが寝転び。
仮面の保護機能で嘔吐出来ずに、延々と胃をシェイクされてグロッキーに陥ったミラが倒れていた。
「サリア…何か…弁明は………あるのか…」
「………」
辛うじてゼノが睨みつけながら問い、ミラに至っては何も言えずに呼吸だけしている。
「前のチームの時に、拠点を持とうかって話しになってて。車庫があるなら、アタシは自分の車が欲しかったんだよ。ただもう無理だと思ってたマイカー購入が、目の前にぶら下がってきたから…つい、な?」
「許してやるから…遠慮なく、ここら辺の魔物を狩って…こい。俺達も強くなればなる程…オウエッ………亜空間も広くな…るスピードが上がるはずだ」
街中では誰に聞かれているか分からない為に、部屋と呼称しているが。他に誰も居ない外では亜空間と呼び使い分けている。
何も言わずとも、2人が合わせてくれている事に感謝しながら。
吐くものがなくなった胃のムカつきを抑えつつ、サリアに許しと償う方法を与える。
個人に対しては気遣いが出来ないのに、社会人としてはこういった対応が出来る。
そのギャップにサリアの心は。
「っしゃー!任せとけ!唸れ、連接剣!待ってろよ、アタシの車ぁぁぁーーー!!」
全く揺れずに、マイカーの野望に燃えていた。
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