017 (閑話)世界の理その4/4
「それでは、どういったご質問かしら。今までの雰囲気では転生について大変に興味があるようですわね。もしかしたら、これから新しい世界で生活をするにあたり予習ををしたいという所でしょうか」
残念だったな、ハズレだよ。
最初から言っている様に、私はもう生きたいとは思っていない。5回も同じ人生を送ってきてなんだが、次の人生をうまくやれる自信が無いんだ。要は臆病なのだ。前世?よりも悪い結果、つまり失敗してしまうのだろうかと思うと怖いのだ。
どれほどの辛酸を嘗めてきたとしても、悔い無く生涯を終えられたなら、これ以上の幸せは無いと思っている。今の気分がそれに近い。
さてと、何を質問したら良いのだろうか。勢いで1つ理(ことわり)について質問する権利を得る事になった訳だが、別に未練が無いから何も思いつかない。
とはいえ折角のチャンスだ。冥土の土産になるネタは無いだろうか。
厨二病的にとはいえ、魔術、神学、錬金術に興味をもった事があるから『魂』とは何か?というのはどうだろうか。魂や霊魂、魂魄、精神、肉体等についての区別と繋がりはどうなのだろうか。
いや、メフィストの目的は魂を集める事だった。『魂』についての質問は『契約』に対して求知心があると思われ兼ねない。契約するか否かの問答を又繰り返すのは面倒だ。別の質問は無いだろうか?
これまでの流れで考えれば『神様』の存在とその行動について質問するのが自然だろうか。つまり転生や転移について『神様』達はどういう考えを持っているのか?だ。
「さっきから黙り込んでどうしたのかしら?わたくしとしましては、できれば早くお話しを済ませたいのよ」
「待たせて悪いと思っているよ。でも質問出来るのは1つだけだろ。聞きたい事が沢山有るんだ。その中で1つを選ぶのだからもう少し時間をくれないかい。この空間には時間という概念は存在しないんだろう」
物語では『神様の空間』とか呼ばれる所では時間の経過というのが存在しない、とかあった記憶があるので言葉にしてみた。だいたい私が生まれ変わり、つまり過去に戻れたという事から時間とは切り離された空間だと予想してみる。
「そうね、外の世界と比べれば時間の概念は無いかしら。でもね、この空間の中では等しく時間が流れているのよ」
そう言ってメフィストは一旦、紅葉の方を向いた。そわそわ、というのだろうか?何となく焦っている感じを受ける。
「いいわ。1つと言わず、2つでも3つでも質問に答えてあげるわ。理(ことわり)としてではなくって、わたくしの見解で良ければだけどね。いいこと、これは竜登様への誠意よ。忘れないでよね」
ツンデレっぽく恩着せされた気がしなくも無いが、質問事項を1つに集約しなくて済んだのは助かった。
「では先ず『神様』と『使者』である人間とのやり取りを知りたい。だいたい神様が『手違いで死なせちゃったから代わりに異世界に転生してあげるよ』というのは変だと思う。嘘偽りが不可の空間で・・・え~と、なんだっけ?」
「プレイヤーが急ぐ余りに使者となる人をワザと死なせているのに『手違い』ですむのか?で良いかしら。まぁ嘘では無いと思うわよ。事故に遭うのを判っていて見逃した。とか、確率をちょいと調整したら運良く当たり所が悪かった。という感じね」
「そんなにいい加減な訳?理(ことわり)というのは?」
「当然、神様とやらが降臨して杖だか剣とかでボコるという明確な事柄なら兎も角、ただ『手違い』でしたでは、立証は難しいわね」
「腑に落ちないけど、それが事実なら疑い様は無いな。それで、プレイヤーは使者に異世界転生の目的を説明するのかい。それとも『お詫びとして新しい人生を与えるよ』とかで終わったてしまうのかい」
「その辺はプレイヤーによりけりね。スキル与えておけば何とかなるカモ?とか、後で電波・・・じゃなくって『会話』して、思う様に誘導すればいいや、とか、色々よ」
「そんなにいい加減な方法で、使者に選ばれた人は納得するもんなの?疑ったりしないの?」
「そういう事例は殆ど無かったと思うわ。竜登様だって、わたくしを『悪魔』と思っているから疑惑を抱いているのでしょう。もしもよ、わたくしが創造神に次ぐ権力者、つまりナンバー2の神様だとしたらどうなのかしらね」
図星を突かれた気がする。
今は理(ことわり)を教えられたから疑惑を感じているが、確かに初見で「私は神様です。非業の最期を哀れみ、違う世界ですが新しい人生を与えましょう」と神々しく言われたら、夢に思っていた異世界生活を期待して承諾しただろう。まるで棚から特上寿司が出てきた気分になっていたかも知れない。
「それで、竜登様のお気持ちはどうなのかしら」
「・・・ああ、その通りだよ」
「あら、素直なのね」
「ここは嘘偽りは出来ない空間なのだろう。偽ってもバレるなら素直になるしかないじゃないか」
「竜登様のそういう潔い所は好きよ。それじゃご褒美に転移と呼ばれる事象についてお話ししましょうか」
「転移っていうと、たしか魔王の脅かされた王国が勇者を喚ぶ為に行う召喚陣とか召喚魔法の事・・・でいいのかな」
「そうよ、召喚についてになるわね。魔王に脅かされる国が魔王を倒せる勇者を召喚できると、竜登様はお思いですか?」
「・・・出来る!!出来るはずだ!出来るかもしれないじゃないか。そうでなければ・・・」
私が魔法や魔術を求めたのは、不遇な環境から抜け出して好転を期待していたからだ。
身上ゆえに阻害されてきた辛さから藁を掴む思いで、厨二病と罵られようとも魔術を追求してきた。だからこそ、勇者を召喚に望みを託す切望は心苦しくなる程に理解できる。
それなのに否定する様な問い掛けるメフィストの言動に腹が立ってムキになって訴えてしまった。
それに、物語では時間を掛けて相当な労力と魔力を駆使して勇者を召喚した話しは沢山にある。だから当然に出来るんじゃ無いのか?いや、出来なければ救いなど何処にも無いではないか。
「竜登様は、創造神が『平和』を求められてるというお話しの時になんて言ったかお忘れですの?全知全能な頂点の神が成せない事を、他の誰も成せる事が出来ないはずだ。とおっしゃいませんでしたか」
「・・・言ったが、それとこれとは違うだろ。出来なければ何処に救いがあるというのだ。・・・それとも召喚の陣や魔法は存在しない。とでも言うのか?」
「『その世界の中』でならば神様でも召喚は可能なはずよ。でもね、『世界の壁の外』つまり異世界から勇者を召喚するというのが駄目なのよ。『世界の壁を超えて成す術』は、すなわち『世界を改変する力』よ。それ程に大きな術があるなら元々脅かされる訳が無いわ」
「ちょっと待ってよ・・・いや、待ってください。大きな代償や犠牲、時間を掛けるからこそ、不可能とされる奇跡を起こせるのではないですか」
「奇跡ねぇ。まぁプレイヤーが気まぐれに勇者を召喚陣へ放り込めば確かに奇跡よね」
「待ってくれ?どうしてここで『神様』が出てくるのだ?それに気まぐれって、言い方が非道くねぇか」
「プレイヤーの中には面倒くさがりな存在も居るのよ。ここの様な空間に喚んで、説明してお願いしてというのも結構大変なのよ。それなら、そのまま異世界へ送ってしまえば良いと考える存在が出てくる訳なのよ」
お願いをして・・・というのは確かに大変だろう。肯定するつもりは無いが、私が全力で拒否していからメフィストが必死になっているのだと考えれば、確かにと納得してしまう。
「名乗るのさえ面倒って考えるプレイヤーはね、もっと手っ取り早い事をするの。
異国や魔族等の驚異にさらされて、勇者よ、救世主よと、召喚陣とか魔法等の術に一縷の希望を抱く国や集団を見つけたら、その陣に放り込むの。これなら説明は召喚者が行うから手間が省けるのよ。
別世界からの召喚なんてそもそも無理。世界を改変出来る能力よ。それほどの力があれば、そもそも異国や魔族等の驚異にさられませんわ。
ですから、自分達の事さえおぼつかない者達が、高次元な事象に及ぶはずもありません。
そういう困った場所を探すの。それでそこが召喚等の術をしたら万々歳。
適当に『使者』を選んで、寿命だろうが事故死だろうが、睡眠中だろうがお構いないしに、人をヒョイッと召喚陣へ送り込めばそれでお仕舞い。あとは召喚したと思っている者達が説明してくれるので、相当に手間が省けますわよ。
もっとも役立たずでは困りますから能力付与位はしますでしょうけどね」
大切な事なのだと伝えたいのだろうか。同じ台詞を2度聞かされたきがする。
「だけど、そのまま『送る』だけでは『神様』の求める『平和』は望めないのでは?」
「よ~く考えてみてよ。勇者を召喚したいというのは、それ程に絶望の淵に追い込まれている証明よ。だからプレイヤーは召喚陣を探すの。そして見つけたら、人となりは選ぶだろうけど、『祝福』なスキルを授けて召喚陣に放り込めば、あとは召喚したと思っている人達が色々と説明してくれるの。とっても簡単で楽な方法よね。それにね、送り込んだ勇者が、人々を絶望から救ったら、それは『平和』と呼べると思わないかしら」
非道いというか、これ程に手抜きな行動は、呆れを通り超えて、良くも思いつくものだと、一周回って尊敬出来そうな感じがする。あくまでも感じがするだけだが。
そもそも転移といのは『気がついたら異世界だった』とい出来事が多い。物語の受け売りなんだが。
「メフィストなら転移させる場合はどうやって人を選ぶの?そして、どうやって送り出すのだ?」
「わたくしは転移はしないわ。だって可哀想ですもの」
悪魔の何処を引っ張れば「可哀想」なんて言葉がでてくるのか不思議だが、とりあえずは保留してっと。
「誰が可哀想だって言うんだい。チートスキルが付与されるのだろ。結構愉しそうに過ごせると考えてるけどな。もっとも物語では、だけど」
「竜登様って、素直なのは素晴らしいと思うけど、その実、頭の中は菜の花畑で埋め尽くされてませんか」
「いちめんのなのはな、とでも言いたいのかっ、馬鹿にするなよ」
「あはは。馬鹿になんてしないわ。ただ、鈍いなぁって思ってしまって」
メフィストは笑い始めた。ただ・・・嘲笑というよりは、可愛いモノを見たって感じというか口調なので怒るに怒れない。
「竜登様、よく考えて。死別なら悲しみは孰(いず)れ癒えるわ。幾星霜の月日が必要かも知れないけど。でもね、行方不明ではどうかしら。残された家族は、仲間は、友達は、恋人は何時まで悲しむと思うのよ。何処かで生きている、と思うからこそ悲しみは続くわ。これはとても残酷な事よ。そう思わないかしら?」
物語では残された人々はあまり語られない。ちょっと思慮すれば当然に思いつく事だった。お花畑と言われて当然だ。なんてこった。
「それからね・・・」
「まだ有るのかよ」
「仮に元の世界に帰ってこられたら、どういう結果が待っていると考えますか?海底の楽園に旅立った青年の母上はどんな想いだったでしょうね。ですから、手段は兎も角、一旦人生をリセットする『手違い』の方がずっと親切だと考える訳よ」
言われてみれば、あの漁師も異世界への転移者とも取れ無くない。嫌な裏事情を説かれてもうお腹いっぱいだ。虹色の何かをリバースしそうだ。
もう私は転移な物語は愉しめないだろう。といっても既に今際だから読む機会はもう無いだろうけどな。
「それにね、問題は他にもあって、『異世界から勇者を召喚できる術がある』というのが大問題なの」
「あうぅ、もう勘弁ください。どうせ重い話しだろう。流石にもう無理・・・」
「あらまぁ、そんなに遠慮しないで。もっともっと世界の事を知りたいいでしょう。知りたいわよね」
遠慮なんてしていないし、もう十分だと訴えたい。
それなのに、メフィストは話したくてウズウズしている。「聞きたい事が沢山有るんだ」なんて言わなければ良かったのにと、少々後悔している。
ほっといていても勝手にしゃべるんだろう。それでは鬱陶しい。あえて話しを合わせて私に都合の良い方向へ誘導できれば、まだマシかもしれない。そう思って返事をする事にした。
「あの~・・・大問題の意味が全然解らないのですが」
「魔王はね、腕力や魔力が大きいだけで成れるのでなないよ。力を操る知恵こそが王たる所以。あらゆる魔族を統べる王が、勇者の伝承を見逃すはずがないわ。過去に勇者召喚の伝承があるなら、人族へ攻める前に勇者召喚の術を探し求めると考えるのは当然よ」
「つまり、勇者召喚を阻害する方法を見つける、と考える訳ですか」
「違うわ!魔王も『勇者を召喚』して部下にするの!拒否されたら洗脳なり隷属の呪いをかけて従わせる訳なのよ。それも1人ではなくて沢山、そう沢山よ。課金ガチャをするみたいにね。もっとも課金の代わりなんて知りたく無いわね」
課金ガチャを例えにされるとは思わなかった。確かにネトゲを楽に進めたいなら課金してでも強いキャラ、強いアイテムを手に入れるのは当然の事かも知れない。
魔王の世界征服がネトゲと同じというのは腑に落ちないが、穿った考えをすれば間違えてはいない、と思う。
「そしてね、人族も考えつく訳よ。力には力で対抗しようってね。それで脅かされる前に勇者を仕えさせるの。もちろん1人ではなく沢山、そう沢山よ。課金ガチャの様にね。課金の代わりなんて知りたく無いわ」
「敵味方共に勇者を沢山召喚し合ったら一触即発な大問題だ。まるで冷戦の理由みたいじゃ無いですか」
「みたい、じゃなくてそのものよ。『どこかの世界』みたいにね」
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