009 謎の少女

 人がいた、人がいた、人がいた。驚いた、驚いた、驚いた。

 誰も居ない。と思っている所に人が居るというのは相当驚くものだ。


 少し落ち着いた。改めてそこを見ると少女が立っていた。裸だった。って裸、裸、裸。。。

 あわてて私が着ているパジャマのシャツを覆い被せた。

・髪は黒のロング。

・瞳も黒。

・身長は私の肩位の、4・5歳といった所だろうか。ごく普通の少女・・・いや、幼女だ。

 ずっと見上げていたので気がつかなかった。


 いや、ちょっと待てよ。私の身長は175cm程、その肩の高さだと150cm位だろうか?150cmの幼女?おかしいだろこれは?

 困惑し挙動不審な行動をしてしまっている私を見かねてか、道化者は立ち鏡というか全身鏡をどこから取り出した。まるで何も無い空間に物入れが有るかの様に。

 鏡にはどこかで見た事のがある子供が居た。いや鏡だから子供姿の自分が写っていた。大体6・7歳位の姿になっている。

「って若返っているどころじゃねー。子供じゃないか。なんでこうなった。どうしてこうなった」

 鏡を鷲掴みして自分とにらめっこしながら、必死で状況の理解に注力する。口元が吊り上がり卑屈に歪んだ表情をしながら、ぶつぶつと呟いていたらしいが、気付く余裕はなかった。


 多分、呟きが治まり掛けた頃だろう、

「竜登様が子供になられた事も含めて、お話ししたい事が御座います。どうぞテーブルまでお越し下さい」

 道化者の声で我に返った。

 そうだ、こうなった経緯を教えて貰えるのなら素直に従うのだ得策だ。

 その前に、この幼女は誰なのか、何処から来たのか、何故ここに居るのか。着せたシャツを整えながら考える。考えるよりも先に服だ。裸のままにさせられない。

「立ち鏡が用意できるなら、この少女の服も用意してくれ。何時までも裸のままに出来ないから」

「それもそうですね。では」

 と指を鳴らすと私の手元に衣装が現れた。

 広げて見ると、エプロンドレスのワンピース。パニエ一体型でスカートが広がるデザイン。リボン付きのカチューシャ。

 別称アリス風ドレス。女の子に喜ばれる鉄板中の鉄板。

 ちなみに色はブルーではなくピンクで、ピンクのストライプのパンツもあった。

「ささ。着せてあげてくださいませ。これからもお世話をするのに必要になるのです。早く慣れた方がいいですよ」

 4・5歳だと自力では満足に着替えも出来ないのだろうか?育児の経験が無いから分からないけど、今のままにはしておけない。

 パンツを履かせてからパジャマのシャツを脱がせドレスを着せる。

 着せ替え人形を扱っているような気がして、なんか恥ずかしい。

「そういうご趣味が御座いましたか。そうですか。そうですか。」

 まさかこの嫌がらせの為に裸で放置していたのか?イラつき超えて怒りが湧く。

「違う!断じて違う!」

 首を振りながら言い放つ。大事な事なので2度言いました。


「ところでこの幼女は誰で、何処から来て、何故ここに居る?」

 ドレスを整えながら私は問いかける。

 要らぬ濡れ衣を着せられた気がしているのでイラついた風に言い放ってしまう。

「服を着せ終わりましたら、どうぞこちらに来て下さい。テーブルでゆっくりお話ししようでは御座いませんか」

 道化者は手振りをして呼びかける。

 嫌々ながらも道化者に付いていこうとするが、謎の幼女は立ち尽くしたま人形の様に動かない。手を取って案内しようとしたが、繋いだ手には力が全然入っていない。大人の姿なら抱きかかえる事も出来ただろうが子供の姿では難しい。

 困惑しているのを見かねてか、道化者は謎の幼女を抱きかかえて「いっしょにこちらへ」と案内した。

 

 今は円卓、テーブルセットに着席した。

 謎の幼女は人形の様に動きが無いが、着替えの時に温もりを感じたので『人』で間違いない、と思う。いささか違和感は感じるけども。

 テーブルセットの椅子は大人用なのでよじ登る感じで座った。大人と子供とではこれほど体格に違いがあるのだと改めて実感する。

「それっではお話しを・・・」

 道化者が話し始めた矢先に

『あ゛え゛い゛う゛え゛お゛あ゛お゛

 か゛け゛き゛く゛け゛こ゛か゛こ゛

 さ゛せ゛し゛す゛せ゛そ゛さ゛そ゛・・・』

 謎の幼女の方からうめき声が聞こえてきた。

「うわぁっあああっっ!」

 思わず心霊現象に出くわしたかの様にのぞけってしまい、椅子から墜落しそうになった。

 椅子のガタつきの音に気がついたのだろう。幼女の頭だけが、うめき声を出しながらカクンという感じで私の方を向いた。

 まるで洋装の市松人形が怨念を吐露し、呪いの怨嗟をしている感じで気味が悪い。背筋が凍り付いた感じがしてきた。

 あからさまに怯えている私に、道化者が戒める。

「彼女は初めて体を手に入れたのです。勝手が分からないので色々と試しているご様子。まぁリハビリみたいなモノですよ。そんなに怯えては失礼ではありませんか」

「初めての体とか、いったい何だよ。何が起きているんだよ」

 正直、独りでトイレに行けなくなった気分だ。

「それから竜登様、『ご自分に正直なりましょう』とは言いましたが、思った事をそのまま口にされるのは配慮が無さ過ぎでは御座いませんか。以前の貴方様は気持ちが悪い位に思慮深かったと思いますが、如何です?」

 注意を受けて、思った事をそのまましゃべっている自分に気がついた。今までなら口に出す前に考え込んでしまい言葉を発するタイミングを逃してしまうのだが、今は違う。善し悪しの判別せずにそのまま口にしているのだ。

 いや、善し悪しの判別以前に感情が制御できない。畏怖を感じながら他人の表情を伺って言動に注意していたのに、今では制御する前に行動に出てしまう。

 子供の感情はこれほど制御が難しいのだと驚いている。体だけでは無く精神年齢も子供になってしまったのだろうか。

 まるでブレーキが壊れた車に乗っているかの様に、自分が自分で無い恐怖を感じている。

 余計な事だが、感情優先に行動する子供の面倒を見る保育士さんの仕事は大変なのだと考えてしまった。

「そのままではお話し出来る状態ではありませんね。どうですか、落ち着ける様にハーブティーを用意しましょう」

 この、体を乗っ取られている様な恐怖から解放されるのならばと、頭を縦に振り提案を受け入れる。


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