第483話 ハナちゃんの進路相談(2回目)
試験が終わったので、ドロワー医療院の帰りにハナちゃんに会うことになっている。
今日はモカとミランダを連れて行く。
いつものドラゴ君のカバンの中にだ。
私も大荷物だ。
マジックバッグは秘密だから。
最初は従魔のことを話そう。
それは魔獣は敵なだけでなく、味方となる子には愛情を持って欲しいからだ。
ハナちゃんはよく考える子だから、その必要性を感じてくれればいい。
ヴァリモア館の裏口で待っていてくれたので、彼女は私とドラゴ君と一緒に側にある石階段に座った。
「ハナちゃん、動物や魔獣は見たことある?」
「お姐さんがプレゼントにもらった愛玩用の犬とか、ネズミ退治の猫とかぐらい。
魔獣は全然ない」
本当は目の前のドラゴ君は魔獣なんだけどね。
「魔法士になるとね、魔獣を従魔にすることも多いの。
卵を買って育てたり、討伐に行って見つけたり。
あと専門店で購入することもある、高いけどね。
召喚術も学ぶから、召喚獣を使う人もいるんだ」
「そうなんだ」
「私はダンジョンでもらった卵と、預かってる魔獣を従魔にしているの。
簡単に手に入るタイプじゃないけど、小さくてかわいい子たちだよ。
触ってみる?」
「噛みついたりしない?」
「絶対ないよ。
2匹ともとても賢いから」
「じゃあ、触る」
まずは第一段階の興味は持ってくれた。
「ドラゴ君」
「ハナ、膝の上あけて」
ドラゴ君はハナちゃんのスカートの上に、ミランダをそっと置いた。
「うわぁ~、猫だぁ」
「ミィ。ミィミミー」
(ミラなの、おかーさんのじゅうまなの)
ありがとう、ミラ。
心話の自己紹介は、ハナちゃんには聞こえてないと思うけど。
「ミラはケット・シーという魔獣なんだよ。
この子は風の魔法が使えるんだ。
私がダンジョンの卵から
まだ子猫だけど、とっても強いのよ。
賢くておとなしいから、抱っこしてもいいよ」
「かわいい……」
ハナちゃんは手のひらの上の、ふわふわミランダに目を離せないようだ。
次は魔法実演だ。
「ハナちゃん、見てて。
私には火魔法はないから、これは精霊石の魔法だよ。
私は手に持った小さなろうそくに火をともした。
「ミラ、このろうそくの火を上に高く立ち上るように、風を送ってくれる?」
ミラは前足をろうそくの方に向けて、唱えた。
「ミャ」
すると小指の先ほどのろうそくの火は、私の顔のあたりまで立ち上った。
「こんな風に私の魔法が弱くても、ミラに助けてもらって大きな火にすることが出来る」
「わぁ、すごいすごい!」
ハナちゃんはパチパチ拍手してくれた。
「ミラ、火を消してくれる?」
「ミャ!」
すると火が消えた。
風魔法で火にギュッと潰すようにして消したのだ。
「火魔法は延焼で被害を大きくすることもある。
森や草原で使うと全焼するような危険なこともあるから、そう言う場所での使用は基本的に禁止なの。
でも命の危険がある時には、そうも言ってられないよね。
そんな時に風魔法を使える従魔がいれば、こんな風に消してくれる」
「風魔法の従魔かぁ……」
「ハナちゃんが火属性魔法を持っていたら、風、土、水の順で相性がよくなるんだ。
ケット・シーはなかなか手に入らないし、魔法属性も個体によって変わってくるから注意してね。
でも風魔法を使える子は、鳥系魔獣に多いから割と従魔や召喚獣にしやすいよ」
「エリーは何の魔法を持っているの?」
「ハナちゃんのことを信用して言うけれど、本当はあまり聞いちゃいけないんだよ。
スキルや属性は力で、武器にもなれば弱点にもなるから。
私は風と水と土よ」
「ミラちゃんとかぶってるの?」
「そうだけど、ミラの方が魔力が強いから、風で強い攻撃魔法を放ってくれるの」
「ミラちゃん、すごいね」
ハナちゃんはミラを感心して撫でていた。
ふふふ、自慢の私の子どもですよ。
「じゃあ次、この子もとっても珍しい魔獣。
でも聞いたことがあると思う。
ドラゴ君、よろしくね」
「うん」
ドラゴ君はカバンからモカを取り出した。
「これ、もしかして……」
「そう、ティーカップ・テディベアのモカよ。
たぶん王都にいる、唯一の子だと思う
知り合いから預かったから、従魔になってもらったの」
「……信じられないほど、高いって聞いた」
「いくらお金を積まれても売らないけどね」
「借金があっても?」
「私には借金をかえすスキルも実力もある。
第一級の技術資格をいくつか保有しているから、いざとなったらギルドからもクランからもお金を借りられるの。
もし騙されて借金を背負ったら、そこから借りて返済するわ」
ハナちゃんは驚いているようだった。
お金の返済が出来なくて、娼館に入った女性を知っているからだろう。
魔獣のために借金するなんて、信じられないのかもしれない。
「誰かに欲しいって言われても、私はモカも他の子も絶対に手放さない。
もちろん、この子たちが独り立ちするときは喜んで送り出すよ。
この子たちはね、私の家族だから。
従魔との間で重要なのは、愛情と信頼なの。
さっきミラは私より魔力が強いって言ったでしょう?
ミラが私といたいと思ってくれてるから、一緒にいられるの。
それはモカも同じなのよ」
モカがくま~と鳴いて、私に抱きついてきた。
「モカはね、攻撃魔法は使えないから腕力で勝負なの。
何年も1匹で生き抜いていたから、とっても強いのよ。
私は戦闘も得意じゃないから、従魔のみんなに助けてもらっているんだ。
不得意分野を全部自分一人でやろうと思わなくていいの。
こんな風に従魔や、パーティーメンバー、一緒に仕事をするヒトたちに助けてもらえばいい。
でも出来ることを増やすのは、いろんな意味で有利だわ。
選択肢が広がり、思わぬ能力が仕事に生きることもある。
私のように資格を取れば、ギルドやクランが助けてくれるし、逆に他のヒトの手伝いができるわ」
「従魔は本当の子どもと一緒なんだね……」
ハナちゃんはモカやミラを抱っこして、真剣に考えこんでいた。
その後では私の作ったものを見てもらうことにした。
まずはお菓子だ。
メロンパンとクッキーとマドレーヌを作ってきた。
「へぇ~、これをエリーが作ったんだ」
「あまり時間がないから、後で食べて。
本当はきれいな箱に詰めるんだけど、袋でごめんね」
「いい匂い。すごくおいしそう。
ありがとう」
一級調理師の資格は持っているけど、今使っているのはもっぱら菓子店とクライン騎士団の食事ぐらいだ。
お料理の仕事もしたいなぁ。
エマ様と外国へ行ったら、食べ物屋さんをするのもいいかもしれない。
その次はお裁縫。
「これはクランの子どもたちの勉強のために作った小物の見本なの。
こういうレースを編んだり、刺繍をしたり、もっと高度なドレスも縫うよ。
あと、騎士や冒険者向けの防具も作る」
きれいなものの好きなハナちゃんだが、意外にも目を止めたのは革製の防具だった。
「こんなぶ厚い皮を縫うの?」
「うん。針も違うんだけど、そのままで縫うと折れてしまうから、器具で穴をあけてから縫うんだ。
魔獣の皮は剣だって弾く素材もあるから、物によってはハサミでなく魔法で切るんだよ」
「そうなの? 初めて聞いた」
「防具なんて、普通作らないものね。
物理攻撃が通らない魔獣の皮は、その魔獣が苦手とする属性魔法で切るんだ。
例えば火魔法で他を燃やさないように皮につけた印通りに焼き切るの。
魔法は使い方なんだよ。
魔力が弱くて攻撃に向いてなくても、加工に使えることは多いの。
火は加工の基本なんだ。
だから興味がある分野は、ドンドンやってみるといいよ」
他にも出した。
「私は火属性がないから、授業で作ったものばかりだけど……」
「すごくきれい……」
ハナちゃんが触れたのは、光の当たり具合でベースの白色が虹のように輝くランプシェードだった。
「そのランプ、気に入った?
私の友達に仕立て屋の子がいるんだけど、一緒にオパルセント・ビーズを作ったときに思いついて、その技法を使ってガラスのシェードも作ったの。
蔦の葉模様を浮き彫りになるように型を作って流し込んだんだ。
ガラスの溝の
そうだ、ビーズも見る?」
オパルセント・ビーズそのままではなく、すでに刺繍素材として使ったものだ。
キラキラしているので、小さなパーティーバッグにしたのだ。
「すごく素敵!」
「来年のデビュタントの舞踏会に出る時に持ちたいなと思っているの。
白いドレスに合わせるとキレイだから」
「えっエリー、3つも上なの?
背が小さくない?」
「まぁ小柄だね」
例の怪我が元で
「こんなすごいものが作れるんだ……」
「私は、他のヒトよりも器用みたい。
だから錬金術師のジョブが付いたんだ」
「じゃあ作るの、難しいんだね」
「でも絶対出来ないわけではないよ。
学んで何度も作ればいい。
それがスキルになることもあるし、そんなにはっきりと出なくてもできることはある。
料理スキルがついていなくても、料理が出来る人はたくさんいるもの」
「もっといろんなものを触れて、やってみないとダメだね……」
そう、それに自分で気が付いて欲しかったんだ!
そうでないとやらされたって思うようになるから。
だけどハナちゃんは借金がないとはいえ、歓楽街から出る機会があまりない。
外に知り合いがいないからだ。
「あのね、秋にウチのクランで見学会をするんだ。
その時に遊びにおいでよ。
ウチのクランは菓子屋や仕立て屋もしているし、他のいろんな仕事もしているの。
私もテイマーとして、従魔たちと一緒に出し物をするんだ。
ハナちゃんは店主さんに許可をもらえば、歓楽街から出られるでしょ?」
「そうね、頼んでみる!」
これでハナちゃんが外に興味を持ってくれるかな。
お母さんを待つのだって、外で待ったっていいはずだ。
お手紙を送ることも許されないんだろうか?
貴族の愛人になった方への作法は、さすがのエイントホーフェン伯爵夫人も教えてくれなかったからわからない。
私の話が、ハナちゃんの未来に役立つといいな。
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オパルセント・ビーズについては第244話にエリーの知識として挙げたのですが、その後メルにその話をして一緒に作った(この話は未執筆)という設定です。
オパルセント・ガラスのシェードはフランスのガラス工芸家ルネ・ラリックの作品をイメージしています。
作り方は違います。
エリーたちは錬金術科ですので。
公爵令嬢のアリアの姓のラリックは、この方からいただいきました。
新作短編書きました。
「あるべきところに収まっただけです」
https://kakuyomu.jp/works/16817139556456882680
どうぞよろしくお願いいたします。
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