第320話 セルキー討伐


 攻撃魔法は地上から私たちに放たれたようだった。

 ドラゴ君がすかさず、氷の膜アイスベールを張って食い止めてくれた。


(ミラとルーはエリーを守れ! モリーは荷物を! 

 モカはぼくと地上に上がって! 

 魔法士はぼくが倒すから、それ以外を倒すんだ)

((((了解!))))



 ドラゴ君とモカがすごいスピードで地上に向かっていき、私とミランダとルシィは水ユリの群生の陰に隠れることにした。

 一体どうしたんだろう、私たちが狙われているの?


 やっぱり奴隷商人とグリムリーパーの件だろうか?

 怖い……。

 でも一番怖いのは、これでみんなといられなくなったらどうしようということだった。



 ドラゴ君から上の状況が心話が届く。

 2匹に降り注ぐ火魔法系の攻撃魔法を全部凍らせて粉砕し(魔力を凍らせるってすごい!)、相手の魔法士を氷漬けにしちゃったみたい。

 でもちゃんと殺さないように手加減してる。

 偉いよ、ドラゴ君。


 この人たち、冒険者だ。

 20人もいる。まるで大きな討伐に来たみたい。

 悪魔に侵された人って感じはしない。普通の人だ。



 モカは……ああー、切りかかってきた冒険者を殴り倒しちゃった。

 どうか殺してませんように。


 従魔が人間を殺したら私がその魔獣を殺さなくちゃいけない。

 でももしそうなったら、学校なんてどうでもいい。

 モカを先に国外に逃がして、あとからエマ様とみんなと一緒に追いかければいい。

 母さんが一緒ならきっとクライン様は許してくださる。

 私にはモカとエマ様の方が学歴よりも大切だもの。



 心話で送ってくれた様子を見ていると、冒険者の中によく知っている人がいた。

 セイラムさんの奥さんのラリサさんだ。

(ドラゴ君、後ろで指揮を出してる人、ラリサさんだよ! 

 攻撃を止めて話し合えないかな?)

(ホントだ。そうだね、みんな悪魔と関わりがないみたいだし。やってみる。)



 私も地上へ上がろうとしたのだが、ミランダが難色を示した。

(おかーさんはむりするからダメなの。

 ミラ、おかーさんがケガするとこみたくないの)


(でもラリサさんもいるのよ。

 昨日冒険者ギルドに挨拶に行った時もよくしてくれたでしょ。

 きっと何か誤解があるんだよ。

 このパーティーのリーダーだから、私が話さないといけないの。

 大丈夫、私は何にも悪いことしていないもの。

 ちゃんと話し合いに応じてくれるはずだよ)


 何とかミランダを説得して、地上に向かう。

 ルシィはまだ口に亀をくわえたままなんだけど、今はそれどころではない。

 私の腕の中で大人しくしてくれているので後回しにする。



 私たちが岸に上がると、水着の頭の部分を外したドラゴ君とモカを見て、ラリサさんが口をパクパクして驚いていた。

 私も顔を出して駆け寄ろうとしたんだけど、すぐできなかった。

 この水着歩きにくいんだよね。


 するとミランダが私の襟首を加えて、羽をはためかせて連れて行ってくれた。

 ミラったら、いつの間にそんな力持ちに。

 ミランダの成長が眩しいです。



「エリーちゃんまで? もしかしてその後ろのは」

「ミランダです。モリーもおいで」

 モリーが私の手のひらの上に、ポーンととんできた。

 小さな小さな小指くらいのセルキーだ。

 もちろん頭を外して中のモリーを確認してもらう。


「実はこのところ湖で魔獣の数が増えてるのよ」

「そうですね、私たちもそれは気づいていました」


「その中でもセルキーの目撃情報があって……。

 彼らは賢いから軍団を作って縄張りを持つの。

 セルキーがこの湖を縄張りにしてしまったら、漁師や一般人が襲われるでしょう。

 そうなっては大変だから、少数のうちにみんなで倒そうってことになったの」


「私たちがその、本物のセルキーと間違われたんですね」

「でもその……水着? 誤解を招くからちゃんと報告してくれないと」

「あの、私報告しました。セイラムさんとアランさんに」



 クライン様たちに笑われた通り、こんな水着を着る人はいない。

 だから、おかしな集団ではないことをあらかじめ連絡してあったのだ。


 アランさんはセードン冒険者ギルドの事務方のトップの男性だ。

 私のセルキー水着をみて、商機ととらえたらしく誘われているのだ。

「デザインを変えたら、これ売れるよ。やってみない?」


『常闇の炎』に報告したところ、マスターから注意のレターバードが届いた。

「これ以上仕事を増やすな。お前過労死するぞ」

 お金稼ぐチャンスだったのになぁ。


 でもマスターのいうことは、クランでは絶対だ。

 私が夜遅くまで働こうとすると、ルシィやミランダ、ときどきモカが膝の上に乗ってくるのは、仕事しすぎないように気を使ってくれているのかもしれない。



 ラリサさんはしばらく考え込んでいたが、

「ねぇ、それもしかして絵にしてくれてなかった?」

「はい、私たちが中に入ってますというのを皆さんに知ってもらいたくて、ギルドの壁に貼ってもらうように絵を描きました」


 セルキー水着の中からみんなが顔を出してる絵と、攻撃されないように私たちは安全ですと大きく書いたのだ

 モカの前世では、そういう注意喚起をするポスターというものがあるらしい。

 混ぜるな危険とか、立ち入り禁止とか。

 でもいったい何を混ぜると危ないんだろう?



「わかった。これは全部ウチのバカ亭主のせいだわ。

 今回の討伐は中止よ。報酬は未討伐だからたくさんは出せないけど、セイラムの小遣いからみんなに渡すわ」


 私たちが話している間にドラゴ君は魔法士さんの氷漬けを解いていて、モカが殴り倒した冒険者さんたちはモリーが治癒していた。


「あんたたち! 

 痛い目を見て悪かったけどみんなケガを治してもらったから恨むんじゃないわよ。

 悪いのは全部セイラムだから」

「どういうことですか?」


「エリーちゃんが描いたその絵は今ウチの子ども部屋に貼ってあるの。

 あの子たちエリーちゃんたちが大好きだから。

 セイラムがかわいい絵をもらってきたぞって貼っちゃったんだよね」

 そうなの? 言ってくれればまた描いたのに。


「実はセイラムとアランはギルマス会議で今王都にいるのよね。

 だから今回の討伐はあたしが指揮してたんだけど、あなたたちの水着のことを全然聞いてなかったわ。

 みんなが強くて怪我、ううん、死んでしまわなくてよかった」


 そうだね、私だけなら死んでたかも、だから報告してあったんだけど……。

 でもポスターというものを貼る習慣はこちらにないから、あんまり意味が分からなかったのかもしれない。



「エリーちゃん今回は本当にごめんなさい。ただ今の状況把握は急ぎの案件なの。

 湖の魔獣の状況を調査するチームを作らないと。

 お詫びはセイラムが会議から戻ってからでもいいかしら」

「私たちにはほとんど実害もありませんでしたし、気にしてません」


 私とラリサさんが話をしている間に、ドラゴ君が全部片づけをしてくれて、みんなを自分のカバンの中に入れていた。

「ラリサ、ぼくたちは2,3日は湖に行かないからそこで調査してくれる?

 その間にぼくらのことをみんな言っといてよ。

 ぼくらはまた王都に帰るから時間がないんだ。お詫びなんかいらないからさ」


 ドラゴ君……、いやドラゴ君の方が年上なんだけど、小さい子に見えるからなぁ。

 生意気に思われないかしら?

 でもドラゴ君が敬語で話してるところ見たことないな。

 ラリサさんはそんなドラゴ君をあんまり気にしていない様子で、了承してくれた。



「帰ろ、エリー」

 私はドラゴ君の手を取って、歩き始めた。

 一体、このセードンになにが起こっているのだろう。


 不安な気持ちが心を重くした。

------------------------------------------------------------------------------------------------エリーが描いた絵は、色鉛筆で書かれた可愛らしい絵で全く緊迫感のない絵だったので、子どもたちへのプレゼントと勘違いしたのでした。


ポスターはエマのための絵本を描いたついでに作っています。


2/27 誤字修正しました。内容変更はありません。


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