第270話 タブレット


 モカがミランダの装備を見て、

「いいなぁ、天使の羽みたいで。あたしもこんなの欲しいなぁ」

「モカは……翼っぽくないんだよなぁ」

「えっー、じゃあ何がいいの?」

「うーん、考える」


 モカは鞭だから、飛びながら打つのは難しいと思うんだ。

 何がいいだろうな。



「鞭じゃダメなの?」

「あたし、鞭は現地調達に限ると思ってるんだ。他のがいいなぁ」

 植物由来だからね。新鮮な方がいいのかもしれない。

 でもどこにだって蔓ってあるわけじゃないし、なにかいいものはないだろうか?



「キック力の上がるブーツとか、パンチ力の上がるグローブとか」

「それかわいい?」

 うーん、イメージが鞭も使える格闘家なんだよなぁ。

 リボン付けるぐらいじゃ、ダメだよね。きっと。


 モカはなかなか難しい。

 前にジャンプっぷりが良かったので、ひるがえる防御力のマントがいいかなって思ったんだけど、却下されてしまった。



「とにかくかわいく見える装備がいいの!」

「じゃあ、希望を描いて」

 モカは絵が描けるので希望するものを描いてもらったら、フリフリの黄色いミニワンピースだった。なぜか紫色の髪のウィッグまであってこれが頭の装備らしい。


 モカ曰く、『クリィ……ゴホゴホ、アイドル系魔法少女服だよ』らしく、攻撃魔法を使えないのにハートの飾りのついた魔法のステッキとやらまである。


「これが本当にいいの?」

「うーん、そういわれるともうちょっと考えようかな」



 次に描いてきたのがパブスリーブの半袖にスタンドカラーの襟元が斜めに開くようになっているスリムな青いワンピース。

 スカートの両サイドに長いスリットが入っていて、とても官能的だ。

 頭装備はシニョンにかぶせる白いカバーが二つ。

 足元は白いブーツで『ストリー……ゴホゴホ、格闘系姑娘くーにゃん服』とのこと。


 モカ、シニョンないよね? 耳につけるの?

 それともシニョンをつけたウィッグを作るの?

 頭が耳とシニョンでごちゃごちゃしない?



「うーん」

「なによ。これもダメなの?」

「こういうのって、スラっとした体形のヒトに合うと思うんだ。

 モカはミニマムだから」

「そういわれるとなぁ」

「魔法少女の方がよかったかな。でも鞭使うならステッキはなしがいいと思う」



 結局モカはどちらも選べず考えたいとのこと。

 うん、よく考えてね。

 私も考えるし。

 モカにピッタリの最高の装備作るから。



「問題はドラゴ君の装備よね」

「ぼくに不足してるのは樹魔法ぐらいだよ。戦闘に関係ないからいいよ」

「そういうわけにもいかないよ」

「じゃあ、エリーと離れてもすぐ位置がわかるもの作ってほしい」

 ああ、こないだのことを気にしてるんだね。


(それはミラもほしーの)

「あたしも。あんな思いするの絶対ヤダ」

 モカも同意し、モリーもジャンピングフルフルで同意していた。

 みんな心配かけてごめんね。



「みんなとすぐに連絡とれる、そんな魔道具あればいいね」

「スマホがあればいいのに」モカがつぶやいた。

 すまほ? 


「あのね、異世界の携帯端末ってわかんないよね。

 とにかく小さい板で話ができたり、場所が分かったりするものなの。

 いろんな情報を教えてくれるのよ。時には間違った情報が出てくることもあるけど」



 ふーん。異世界はなんだかすごいものを……。

 あれっ? いろんな情報を教えてくれるって、私それに近いものを持っている。


「ちょっと待って」

 マジックバッグから取り出したのは、ニールでダンマスからもらった白い板だ。



 モカが顔色を変えて白い板に見入った。

「エリー、これタブレットだよ」

「タブレット?

 これは教会でスキルをチェックするときに使われてる板に似てるものだよ」

「じゃあこの世界に他にもタブレット端末があるってこと?」

「もし同じものなら、そうね」



「とにかくやってみよう」

 モカが板に触れてみたが全然動かなかった。

「使用者制限付いてるのかも。グリモワールはエリー専用でしょ」

 ドラゴ君の指摘で私がモカと同じように板に触れると、板はパァっと明るくなった。


「電源入った!」

 モカが叫び声をあげた。

 少しの間、起動中の文字が出て、中央に何かのマークとようこそという文字が現れて消えた。

「嘘! カーライル社のマークじゃん!」


 

 音声入力をオンにしますか?と文章が出た。

「オンよ、オン。ああそうか、エリー、ここ押して」

 私はモカに言われるがまま、示されたところを押す。


 ポンと音がした。不思議な感じの女性の声で返事が返ってきた。

“入力確認いたしました。オーナー様のお名前をどうぞ”

「エリーです」

“エリーさま、登録完了いたしました。何かお手伝いは必要ですか?”


「あなたは誰ですか?」

“わたくしはこのタブレットのシステムAIです。名前はありません”



「モカ、何か聞いてみる? モカの質問に答えて」

「ここの位置情報を出して」

 すると王都の地図が板に浮かび上がり、さらに学生街が浮かび上がってさらに私のいる学生寮の上に赤い点が現れた。



「スマホやタブレットはとても便利なのよ。

 こんな風に地図を表示したりもできるの。

 検索機能でいろんな情報を教えてくれたり、同じ機械を持つ人と話もできるの。

 システムAIって言い方カタいよね。エリー、何か名前つけない?」

「さっきの『すまほ』さんは?」

「スマートフォン略してスマホやタブレットは機械自体の名前なの。ピンとこない」


「そうだなぁ。タブレット……タブ、レット、レティー……そうだ、レティシアさんなんてどう? 愛称レティー」

 ”登録いたしました。今後はレティシアまたはレティーとお呼びください”



「わかった。レティーね。あなたを作ったのはカーライル社でしょ。

 イギリスのロンドン本社。そこに連絡して!」

“イギリス、ロンドンどちらの地名も存在しておりません。

 カーライル社の届け出もございません”



「じゃあ、あのとき何が起こったのか教えてよ」

 ”質問の意味が分かりかねます”

「2××4年、6月28日の縦浜のことよ。その日何が起こったの?」

 ”質問の意味が分かりかねます”

 モカが半泣きになりながら叫びだした。



 俯いて厳しい顔をしている様子が心配だった。

「モカ、大丈夫?」



「あのね、あたしのおじいさまが商業で成功したって言ったじゃない?

 おじいさまが作った会社がカーライル社なの。

 元々は自動でゲームを作るAIを学生時代に考案して、それをもとに従来の物よりはるかに性能が性能の高いスーパーAIを作り上げたの。

 そのスーパーAIを搭載した通信機器を販売したり、高度で安全な通信システムを構築して世界中に提供していたの」



 モカはいろいろ説明してくれたけど、ほとんど意味がわからなかった。

 まずスーパーAIというものの意味が分からなかった。

 ただモカのおじいさまはこちらではすごい魔道具を作れるヒトって感じなんだろう。


「さっきのマークはカーライル社のもので存在しないなんてありえないのに」

「モカ、落ち着いて。

 この宝物はニールのダンジョンで200年以上眠っていたものなの。

 モカがこちらに転生して来たのは3年前でしょ。

 あっ、ユーダイ様は200年前に来てるよね。

 もしかしたら、200年以上前にその会社があったのかもしれないよ」



”ユーダイとは勇者ユーダイのことでしょうか。彼の情報ならございます”

 レティーが述べたユーダイ様の情報は、私が読んだ伝記と同じものだった。



「そんな200年前かもしれないなんて……。

 でも他にもタブレットあるのよね? 通話できるかもしれない」

 パッとひらめいたようにモカはタブレットに話しかけた。


「レティー。0×0-××××-××09に連絡して」

“連絡先がありません“


 モカはいくつか番号を言って連絡してもらったが、すべて連絡先がないと言われていた。


「そうだよね。ここ異世界だもん」


 モカはせきを切ったように泣き出してしまった。


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モカデザインの装備は、ただのコスプレ。

わかるかな? 

わかんなくても大丈夫ですが、この2つを選んだのには一応理由があります。

オマージュですので、著作権云々おっしゃらないでくださいね。


もちろんこのデザイン装備は使いません。



ちょっとSF的要素が入っておりますが、あくまでも異世界ファンタジーです。

AIについてのご質問はお答えできかねますのでご了承ください。


8/15 追記

 実はモカのコスプレ装備に使わせていただいたアニメキャラは私の知人から魔法少女の金字塔だといわれていたから使ったのですが、そんなに古かったんですね。

 とにかくこのシーンは古いアニメや古くからあるゲームのキャラの話が書きたかったんです。


 これ以上は言えないんですが、モカの世代より古いものの話をしたってことなのです。

 これはモカたちの過去が明らかになるときに、ちゃんと説明いたします。

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