第184話 聖属性のダガー


 週末になって、私は従魔3匹とスウィフト魔道具店を訪ねた。

 みんなと約束していたけどユナの件が一段落したため、一人完全武装で訪れた。

 スウィフトさんに何かされると思ったのではなく、その前後に危険があるかもしれないからだ。



 ユナのことはクライン様預かりで関わらないにしても、どこかにマリウスに使役虫を仕掛けた奴がいる。

 魅了除けのことも気になる。

 だから魔道具のことを勉強したかった。それともう一つ目的もあった。



「おう、ビリーんとこの坊主か。よく来たな」

「こんにちは。スウィフトさん」

「今日は何か探してんのか?」

「そうですね。魔除けとか、魅了除けのようなものはありますか?」

「えらい物騒なものを探してるな。まあいい。待ってろ」

 スウィフトさんは奥に一度は行って小さな箱を持ってきた。



「こないだ、リッチが出たから今はちょいとお高めだが、魔除けになるものはいろいろある。聖水や聖属性を付与した魔道具だ。それはこの辺りに大体固めてある。

 ダンジョン攻略か?」

「ええ」

 ダンジョン攻略ではなかったが、こう答えるしかなかった。

「だったら、とりあえず聖水はいるな。それとこのダガーもいい。触ってもいいぞ」

「ありがとうございます」



 ダガーは肘までの長さのものがいいとされる短剣の一つだ。

 私が接近戦に使う短剣は切ることもできる両刃のものだが、ダガーは刺すことと投げることに特化している。


 見せてもらったのはかなり細身の刃に聖属性の刻印と聖句が記されている。

 これは20cmほどあるので投げるより刺した方が良さそうだ。

 刀身が銀で出来ているのも特徴だそうだ。1本買うことにする。



「魅了除けはこいつだ」

 それは細い金の指輪だった。

「これはどの位効果がありますか?」

「それはわからん。魅了と言うものは使われる相手の心理状態で大きく変わるんだ。相手に付け込まれる隙を与えなければ、魅了にかかっても解除できることもあるし、好意を持つ相手からの魅了は深くかかってしまうこともあるんだ」

「そうですか……」


「坊主が魅了を掛けられそうなのか?」

「いえ、友人が」

「魅了にかかるときは、程度がきつければきついほど本人が望んでいることも多いんだ。だから坊主が友達に渡してもつけてもらえるとは限らない。だからこれはよしときな」

「……」


「それに坊主のところには最高の魔道具師がいるだろ」

「アリルさんのことですか?」

「違う。ビリーだ。なぜヤツに相談しない?」

「いらっしゃらないんです。お忙しくて」

「とにかく、聖属性のダガーはいいがこっちはやめておけ。経験豊富な年長者の言うことは聞くもんだぞ」

「わかりました」



 ダガーは金貨12枚と言われたが10枚にまけてくれて、さらに聖水を付けてくれた。

 私は安すぎるから全部払うと言ったのだが、

「坊主、俺は爺さんだがお前さんが何やらややこしいことに巻き込まれているのはわかるぞ。年長者の言うことは素直に受け取っとけ。いいな」



 私は有難く受け取った。


「スウィフトさん、ありがとうございます」

「まっ、頑張りな」

 そう言って手を振ってくれた。



 私がダガーを買ったのは自分で使うためではない。

 これはマリウスのためのものだ。

 彼がもし正気に戻れたのなら、是非このダガーを使ってほしい。

 そして彼が悪魔に落ちて正気に戻れなかったら、これに触れることが出来ないように付与を掛けよう。


 このダガーにはまだ付与の余地がある。

 だから私は友への守護をありったけ付与するつもりだ。




「みんな、次はティムセンさんの宝石店だよ」

 クライン様に止められていたが、どうしても彼女のことが知りたかった。


 店に私とドラゴ君(カバンの中にモカとミランダ)で入るとちょっと怪訝な顔をされたが声を掛けられた。子供だけで来る店ではないからだ。



「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件ですか?」

「父と母の結婚記念日が近いので、何か2人に贈るアクセサリーが欲しくて来ました」

「それでしたら、おそろいで使えるものが人気でございます。なにかご希望はございますか?」

「父も母も手をよく使うので、指輪や腕輪は好みません。ペンダントのような掛けたままでも活動できるものが良いのですが」


「ペンダントでしたらこちらにございます。お時間があれば使う石を取り替えたり、メッセージの刻印もできますよ」

「ありがとうございます。希望としては付与が付けられる余地のあるといいですね」

「なるほど。当店では別料金ですが付与もさせていただいております。そちらもご希望ですか?」


「いいえ、私は付与や刻印を得意としています。自分で致しますのでお気遣いいただかなくて構いません」

「なるほど、それではこの辺りはいかがでしょうか?金のハート型で半分に分かれるのですがお二人で1つになるというものです」

「恋人同士なら良さそうですね。2人はとても仲が良いのでもう少し違ったものを希望いたします」



 いろいろ見せてもらって、デザインの凝っているものは付与が入りにくいので、シンプルな輪が3連重なり合っているもので中央の輪に石が取り付けられるものにした。


 石は母さんの瞳が緑なのでペリドットにした。夫婦の幸福と言う石言葉があるのだそうだ。

 たまたま2つ近い色合いの石が見つかり、すぐ取り付けてもらえることになった。付与も3つは入る。

 金貨20枚ほどしたが、決して高くないと思う。

 鑑定で見たらもう少し高くつけられる商品だった。


 噂通りとても良心的な価格のお店だった。



 石を取り付けるのに少し時間がかかるのでお茶をご馳走してもらうことになった。

「お客様はエヴァンズ魔法学校の生徒さんでいらっしゃいますか?」

「ええ。実はメアリーさんとは同じクラスなのですよ」

「そうだったんですか?ではメアリーにお相手をさせましょう。

メアリー、メアリー。こちらに来なさい」

「はい。お父様」



 返事から数分後、おめかししたメアリー・ティムセンがお茶を持って現れた。

「あら?トールセンさん」

「こんにちは、ティムセンさん」

「メアリー、わしは石の取り付けをしてくるから、ちゃんとお相手するんだぞ」

「わかりました」



 さぁ、メアリーティムセン。私と勝負です。





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