第141話 ディアーナ殿下との昼食
そのまま昼食に行こうとしたらラリック公爵令嬢が微笑みながら、
「トールセンさん、今日はわたくしたちといただきましょう。そちらのお二人もどうぞ」
断れなかった。
従魔たちも一緒に食べているというと同行してよいとのことだった
連れていかれたのはディアーナ殿下のためにしつらえられた食堂だった。
20人ぐらいなら優に入る大きさを、大体2,3人で使っておられるそうだ。
テーブルに案内されて座って待っていると、ディアーナ殿下が入ってこられたので私たちはすかさず席を立った。
位の高い方が立っているのに、座ったままで出迎えるのは失礼に当たるからだ。
「はぁ~、疲れた」
ディアーナ殿下はテーブルにうつぶせるように座り込んだ。
お行儀が良いとはとても言えないが、ラリック公爵令嬢は見慣れた様子だった。
本来なら殿下の声がかかって初めて座るのだが、ジョシュが空気を読んで座ってくれたので私とマリウスも座ることが出来た。
「殿下、お疲れ様ですわ」
ラリック公爵令嬢が合図を出すと、給仕がすぐさま殿下に飲み物を出した。
「ありがとう、アリア。学長が食事を一緒になんてしつこく誘ってきたのよ。
何とか断ってきたけれど」
「わたくしがご一緒すれば良かったですわね。次からそう致しますわ」
「アリアだけが頼りだわ。ああ、あなたたちも楽にしていいわよ。ここでは普通にしていて欲しいの。話すのに許可も取らなくていいわ」
臨機応変なジョシュがさっと答える。
「わかりました。エリー、マリウスもいいね」
「「はい」」
それにしてもジョシュ。いくらなんでも慣れ過ぎじゃない?
あっ、でもエドワード殿下と幼馴染ということはディアーナ殿下ともそうなのか。
食事は殿下付きの給仕が用意してくれたものだった。
フルコースが出てくるのかと思いきや、サンドイッチやサラダなどを1つのお皿にきれいに盛り付けてあった。
ドラゴ君、ミランダ、モカには別の小さな机が用意され、少し深めのお皿に同じ食事が出されていた。
「従魔たちには食べにくいかしら?」
「ううん、ぼくたちは大丈夫」
ドラゴ君は相手が誰でもブレません。
見ればちゃんとミランダの食べる分をドラゴ君が小さくちぎっていた。
本当にいいお兄ちゃんになって……。私はとっても誇らしいです。
そんな考えを巡らせて黙り込んでいたので、なんとなく何か話さなきゃと感じた。「このような盛り付け初めて見ます」
「そうね。わたくしが考えたの」
ディアーナ殿下はそう言うと、お祈りもせず黙って食べ始めた。
殿下はあまり私たちと話をしたいとは思っていないようだ。
私とラリック公爵令嬢は食前の祈りを捧げ、それを見てからマリウスとジョシュも食べ始めた。
「そんなに固くならなくても構わなくてよ。
昼食を共にするのも今日だけでしばらくは様子を見るつもりなの。
あなたたちもわたくしと一緒だと疲れるでしょう?」
「疲れるなんてそんなことはありません。でも緊張は致しますね」
ジョシュが私たちの言葉を代弁する。
「とにかくわたくしのいる学年でこれ以上騒ぎが起きてほしくないの。
王位を継承できなくても構わないけれど、父や兄に無能の烙印を押されて今すぐ他国に嫁がされるのは困るの」
今すぐ?私たち10歳だよ?
私の疑問はラリック公爵令嬢が代わりに教えてくれた。
「国によっては10歳で婚姻できるところもあるのです。ですから殿下に失態は許されないのです」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
私は謝るしかなかった。
ディアーナ殿下は私と従魔たちの方を見て、
「あなたにあの従魔を譲ってと言うのは無理なんでしょうね」
えっ、やっぱりモカ欲しいんですか?
答えられないでいると、
「あのリッチが狙っていたのはわたくしかリカルドだと思うの。
元々あの日は公務さえなければわたくしたちが行っているはずだった。
強い聖属性を狙ったとなればそう考えるのが当然よね。
あなたのカーバンクルならリッチに対抗できるかもしれない」
まさかのドラゴ君だった。
「申し訳ございません。ドラゴは私の仮所属するクランマスターの所有で借りているだけなんです」
「聞いているわ。でも譲る気があるならば買うつもりだったの」
「クランにお話があったことをお伝えいたします」
「もういいわ。わたくしの手には負えなさそうだし。従順そうではないものね」
「ぼくはウィルさまから離れる気はないよ。
でもそうだね、エリーの近くにいたら守ってあげてもいい」
「ではお願いするわ。エリー・トールセンを貴族の苛めから守るかわりに、あなたが私を守る。いいわね」
「ぼくは契約も約束もしないし、出来ない」
「あら、どうして?」
「ぼくを自由に出来るのはウィル様だけだ。そのウィル様がエリーを守れというから僕は命がけでエリーを守る。その中に君は入っていない。
でもエリーのついでに側にいる人間を守るくらいは出来る。ぼくは強いからね」
びっくりした。
ドラゴ君って確か強すぎて従魔舎に入れないし、攻略には幼くて使いにくいから私についてきたんじゃなかったっけ?
私を守れって言われてたの?知らなかった。
「もちろんエリーの従魔だから、エリーの言うことも聞くよ。エリーは命令なんかめったにしないけど」
「そうなの?トールセン」
「今までその必要がほとんどありませんでしたので」
命令なんてターレン先生の授業ぐらいだ。
「ふ~ん、あなたは随分『常闇の炎』に気に入られているのね」
「でもそれだけの能力を見せなくてはなりません」
「そう」
それだけ言うとディアーナ殿下は黙って食べ続けた。
緊張する昼食が終わった後、私たちは解放された。
「なんだか食べたけど緊張で味が分からなかったぜ」
「ごめんね、迷惑かけて」
「とりあえずこれで終わりだし、よかったじゃない」
「ていうかジョシュ。お前の胆が据わっているのには驚いたぜ。なんであんなにぺらぺらと返事出来るんだよ」
「僕の親父が貴族向けの庭師なんだよ。だから少しは貴族慣れしてる」
ジョシュ、マリウスに言ってないんだ。
でもそうだよな、殿下方と幼馴染なんて言うとややこしいことになりそうだし。
マリウスには言ってもいいと思うけど、私みたいに魔法契約に縛られてるのかもしれない。
働いている先の秘密はどうしても耳に入る。
私の場合はエドワード殿下が秘密を明かしたから不可抗力だったけど、危険は冒さない方がいいもんね。
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