第111話 強くなるには


 私が目覚めてから一番初めにしたことはクランマスター宛にお礼状と、教会と学校に意識が戻ったことの連絡を入れたことだった。

 あと後援者なのでラインモルト様とエイントホーフェン伯爵夫人にも無事であることの手紙を出した。

 レターバードにしようとすると、母さんが私の代わりに送ってくれた。

 病み上がりと言ってももう大丈夫なのに。



 それから次に始めたのは食べることと体を動かすことだった。3週間も寝たきりだと、足に力が入らないし、すぐに疲れてしまう。私はこれから流浪の民になるんだから、何より体力は大事だ。

 体を鍛えたいと頼むと母さんは訓練に付き合ってくれると請け負ってくれた。



 父さんからの手紙には今乗合馬車に乗っているのでもう少し到着に時間がかかるとのことだった。

 早く会いたい!



 クランマスターへのお礼状の返事は、クララさんから届いた。

 初めにクランマスターが仕事で出かけているので代筆していることが書かれていた。

 そして仕事や治療費のことは考えなくてもいいこと、夏休みの間はこのセードンで療養することだけ考えればいいこと、戻ったらいっぱいやってもらうことがあるから覚悟してなさいと冗談めかして書いてあった。

 こんなに良くしていただくいわれはないのに。

 本当に有難くて、母さんと2人で泣いた。



 学校からはニコルズさんから手紙が来た。

 私がみんなの命を救った英雄的行為に敬意を表して今年1年間の学費が免除になったとのこと。私の命はたった半年分だったのね。でもないよりはましか。



 今回の宿題も提出免除になったとも記されてあった。でも他のみんなに与えられた課題を知りたいだろうからと、細かく書いてくれていた。

 さすがだ。よくわかってらっしゃる。

 あと2学期に必要な教科者や揃える必要なものが書かれてあった。

 これは母さんが王都へ行って買いそろえてくれると約束してくれた。



 教会に連絡したら、ラインモルト様とレオンハルト様とソフィアからお見舞いの手紙が来ていた。

 ラインモルト様にはお礼状を、レオンハルト様とソフィアには王都に戻ったら顔を出すことを約束した手紙を送った。



 エイントホーフェン伯爵夫人からは侍女の方のお手紙をいただいた。

夫人が多忙だから代筆という定型文のような手紙であった。

そして今後は結婚か、卒業時の進路の連絡だけで十分だとの話だった。

侍女の方も見知らぬ平民が死にかけたかどうかなんてどうでもいいもんね。



 学校の生徒には個別には送らなかった。

 一応もし寮にマリウスとジョシュがいたら伝言してくれるようニコルズさんに頼んだが、2人とも故郷に帰っているようだ。ジョシュは王宮にいるのかもしれないけど、あそこに手紙を出す勇気はなかった。



 ダイナー様にはお見舞いの花いただいたけれど、手紙は出さなかった。

 だいたいよく考えれば、平民なのに貴族の方々を名前で呼ぶのが間違いだったのだ。

 ダイナー様はずっと私たちのことを姓で呼んでいた。あの方こそ手本にするべき方だ。

 そして平民から貴族に手紙を出すなどしてはならないことだった。

 というのは建前で、ただ単に貴族とは関わり合いになりたくなかっただけだ。

学校へ行けば会うだろうしね。



 次に始めたのが教科書がなくても出来る宿題をやり始めた。提出免除なだけでやったっていいはずだ。私だけ遅れをとる訳には行かない。



 その次は、魔法の勉強だ。

 このクランの別荘には図書室があって、古い魔法書が1冊だけおいてあった。

それを読み込んで特に魔法陣を多種多様に学び、今後使えそうだと思うものはグリモワールに書き記した。

 学んで蓄積することが私には必要だった。



 この国から逃げるためにお金と知識を出来るだけため込むのだ。



 徐々に体力も回復し、母さんを手伝って軽い家事が出来るようになったころに、ふらりとクランマスターが現れた。一緒にドラゴ君とミランダも連れてきてくれた。



 ミランダは少し大きくなっていたがまだ子猫らしく、ミャーンと私の胸に飛び込んできた。

 私の初めて卵で孵した愛しい子。

 ミランダは私の流浪の旅に連れていくつもりなので、戦うことを教え込まなくてはいけない。



 クランマスターは母さんに丁寧にあいさつしてくれ、私の体調を労わってくれた。



 ドラゴ君は何も言わず定位置の私の膝の上に座って、私をチョットだけ叱った。

「危なくなったらぼくのこと呼んでって言ったよね!」

「ごめんね。覚えてないんだけど、きっと混乱してしまったんだね。次からは絶対呼ぶね」

「絶対だよ!」

 ドラゴ君はそういうと私に抱きついて「心配した」と顔をうずめた。

 ごめんね。心配かけて。



「エリー、お前に仕事を命じる」

 クランマスターが厳かな声で言う。

「はい、何なりとお申し付けください」

「とにかく休め。親御さんに大事にしてもらえ。それからドラゴやミランダとよく遊べ。勉強や仕事は二の次。いいな、わかったか?」

「えっ?それ、仕事なんですか?」


「自分の体調を整えるのも冒険者の仕事だ」

「もう結構元気ですけど」

「どこが元気だ!お前こいつらに会ってもニコリともしてないぞ。

いいか、インフェルノは地獄に落ちた罪人を焼く魔法の炎だ。

お前が思っている以上に強い影響を与えてるんだ」


「で、でも」

「お前、いつもより考えが後ろ向きじゃないか?思い当たることはないか?」

「……」

 思い当たることしかないです。



「サンクチュアリは聖属性でもかなり効果の強い防御魔法だ。だから心が安定した状態ならインフェルノなんかに焼けない。でもお前は苛めを受けていて疲れてダルいときに使ったから効果がイマイチなんだよ。わかるか?」

「そういえば、使う直前に貴族の女の子が平民に落とされたって怒鳴り込んできて言い争いしてました」



 ソレ見て見ろと言わんばかりにクランマスターはふんぞり返った。

「わかったか?どんな強い魔法も本人の心が落ち着いていないと効果が半減するんだ。つまり休むことは仕事だ。それを怠ることは命取りになりかねない」

「……」


「戦いの中に身を置くとな、目の前で仲間が死んだり、子供が死んだり嫌でも目に入っちまうんだ。それでも敵を倒すためには常に平常心を持たないと格下の相手にだって負けてしまう。特に聖属性闇属性は心のありように左右されやすい。

それを扱うには相応の強さが必要だ」


「その強さってどうしたらいいんですか?」

「さあな。人によって違うからな」

「そんな~」

「だいたいは自分を卑下しない人間が強いな。他人がどうこう言ってこようが私は私って奴。ルードなんか正にその典型だ」

 あ、あれか……。あんなに美形なのにご飯が絡んだらすごく強くなるもんね。



「お前はお前の主軸を自分で見つけなきゃならん。強くなりたいんならな。

人によっては体を鍛える奴もいる。魔法を覚える奴もいる。とにかく周りにちょっと受け入れられなかったぐらいで左右されてたら強い魔獣には勝てない」

「私、あんまり戦いたくないんですが」

「そうはいってもな、授業でダンジョンに行くんのだろうが」

 そうか、それに流浪の民なんかになったら常に戦ってないといけないんだ。



「お前はまだ10歳の子どもなんだよ。いますぐ最高の強さなんか求めるな。

お前は自分を焼いたけど、他の奴らは全員守ってたんだぞ。そこを誇れ。

自分のいいところは他の誰が認めなかろうが自分だけでも認めてやれ。

少なくとも俺はお前が頑張ってるのを認めている。わかったか?」



 私は嬉しくて泣きながらクランマスターに抱きついてしまった。マスターも私の背中を撫でてくれた。

 そして私はクランマスターの厳命を受け入れた。



 ヴェルシア様、私の主軸とは何なのでしょうか?







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