第77話 書類整理と事実確認

 

 教会での奉仕活動は、言い訳ではなく本当に書類整理を手伝っていた。



 教会の収支台帳は教会の司祭補以上なら誰もが触れるものでその日1日にあった金銭や物のやり取りを一つのページに全部一緒くたに書かれていた。


その代わり、書いた人は自分のサインを必ず残しておかなくてはならない。

書いてあるのにその書類が無かったら、担当者が分かるようにだ。


 記入が終わればやり取りの書類は書いた人が必ず細い入れ口だけのある鍵のかかった箱に入れる。

 そしてその日の一番最後に台帳を書いた人が終了のサインして、それ以後書き込めないようにしてある。


 こうしておけば、後日追加で記載して不正をするようなことは出来ないし、やり取りの証拠となる領収書や納品書を触るのは一部の人間だけになる。



 そして闇の日の晩に先週1週間分の書類が入った箱を3人の司祭が見守る中鍵を開ける。それを整理して保管するのだ。


 王都の教会なだけあって保管する書類は多く、共に台帳の記載間違いがないかもチェックするのでなかなかの仕事量だ。担当されているフェルナンドさんはいつもてんてこ舞いなのだそうだ。


 というかこれ一気にやるから大変なのであって、毎日やればいいような気がするけど。鍵開けるのが面倒なのかな?



 その納品書や領収書は書類庫の方に台帳と同じように日付順に綴じられていた。

 しかし取引相手ごとに金銭のやり取りをチェックするから、後日の監査の時にいつも調べるのに時間がかかってしまう。


 それで本部から書類の保管方法を取引相手ごとに見出しをつけて日付順で綴じるように言われているそうだ。

 そうすれば日付で調べたければ台帳を見ればいいし、相手の名前で調べたければ書類庫の綴じたものを見ればよいのだ。


 だけどフェルナンドさんはそこで躓いてしまい、おかげで私は書類庫に入る権利(いらな~い!)を得て、レオンハルト様との音楽の時間以外はここで掃除と片付けをしている。



 私もフェルナンドさんと出会い頭にぶつかって書類を散らしてしまわなければ、そんな重要な書類の整理なんか手伝わないんだけど。

 なんと3週間分も溜めてしまったものをバラバラにしてしまったので手伝わない訳には行かなかったのだ。

 


「フェルナンドさん、こんな重要なお役目私じゃいけないと思います」

「ええ!そんなこと言わないでよ。僕一人じゃとても無理だからエリーだけが頼りなんだよ。エリーに清廉スキルがあってよかったよ」

 そう、私の持つ清廉スキルは不正が出来ない信頼できるものしか持てないスキルなのだ。信頼されるのは嬉しいけど、それにしちゃ重いお役目過ぎる。



「どなたか派遣してもらいましょう。レオンハルト様に相談してはいかがですか?」

「そんなことレオンハルト様に言えないよ。エリーが言ってくれる?」

「申し訳ありませんが音楽のレッスン時間を少しでも削りたくありません」

 私がそんなことに口を出したらそれこそ越権行為ですよ。



 それにレオンハルト様との音楽のレッスンはとても楽しいのだ。

 今はフルートを吹いているのだが、短いけれどとても美しい曲を教えてくれる。

 いつもしかめっ面のレオンハルト様は音楽が大好きで、きれいに吹けた時は表情が和らぐのだ。

 そんな時はうまく吹けた証拠なので私も嬉しくなる。



 寮に戻って、ドラゴ君と薬草畑に水やりをして、教室へ行くとマリウスとジョシュがいた。

「おはよう、マリウス、ジョシュ」

「「おはよう、エリー」」

 私がエドワード王子の事を聴こうとしたら後でと口を動かしてるので、先にマリウスと話し始めた。



「マリウス、祭りは楽しんだ?」

「中央広場の屋台がうまかったな」

「私もミノタウロス初めて食べた。あれは癖になる味だね」

「おう、俺も食べたぜ。あときれいな踊り子の山車を見たかな」

「私も見た。楽隊の音楽の方が気になったけど」

「一番てっぺんにいた女の人が一番美人だった」

「ああ、ソロで歌ってた人ね」

「ソロ?」

「一人で歌う人の事」



 なかなか機会をつかめなかったので、

「昨日店でもらったお菓子あるんだけど食べる?」

「「「「「食べる、食べる!」」」」」

 マリウスとジョシュにと思っていたお菓子だったが、周りにいた他の子も寄ってきた。それで割れたり、色がよくなかったりしたクッキーやマドレーヌを皆に回した。



 この隙に、ジョシュに話しかけた。

「あれはどういうことなんだよ。なんでエドワード殿下と一緒だったの?」

「しっ、声が大きい。僕の父さん庭師って言っただろ。あれ王宮の庭師なんだ」

「王宮の庭師ってお貴族様じゃないか」

「それは庭師長だけで、下っ端は平民なんだよ。僕も手伝いに行ってたら同じ年だろ、時々あんな風にお忍びに付き合わされるんだ」

「そりゃ大変」

「もう寿命が縮まるかと思うよ。いつもね」


「そうだ、マドレーヌどうだった?」

「うん、もらったよ。1つずつ箱に入ってるなんてみんなびっくりしてた。殿下も食べていたけど、ほとんどは舞踏会のために働いてた使用人にくれたんだ。みんな殿下から手ずからいただいて感激してたよ」

「あれクランマスターの発案なんだ。気に入ってもらえてよかった」

「殿下は仲のいい貴族たちにも渡していたから、また注文あるかもね」


「ありがとうございます。次からはできればご予約願います。ご用命は私めがいつでも承ります」

「僕経由では頼まないよ。でもおいしかったからまた買いに行くね」

「よろしく。私はいないかもだけど」

「いつもいないの?」

「普段は魔道具に魔法陣描いてるから」



 マリウスがお菓子の袋と戻ってきたので、ジョシュに渡したら後回しになったせいか袋の中は空っぽだった。

「僕の、ない……」

「ごめん。また次持ってくるから」

 がっかりした様子がかわいそうだった。先にあげたらよかったかな?

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