第64話 入学式


 おはようございます。

 とうとうエヴァンズ魔法学校の入学式です。



 今日はさすがに奉仕活動は来なくてもいいとの教会のお達しなので、お言葉に甘えてゆっくりする。

 学校では授業以外は従魔と一緒にいていいので、ドラゴ君と卵も連れて行く。

ドラゴ君が言うには、「今日明日中孵る」のだそうだ。



 まずはもう一度、ジョブ判定式を受ける。魔力量でクラスについていけるか見るためだ。

 ちなみに予科を卒業時にもう一度確認することになるそうだ。それは専科がその人のそのときの魔力やスキルに合っているかを見るためだ。



 次はクラス分けの掲示板の確認だ。

 私はCクラスだ。


 分けられた雰囲気から感じるに、Aクラスはこの学校でも高位貴族ばかりのクラス、Bは下位貴族や平民でも裕福な家庭の子のクラス。Cは平民だが成績優秀者のクラスでDは平民で成績が普通のクラスだ。

 普通と言っても、もっと簡単に入学できる魔法学校は他にもあるのでそこそこできるとは思う。



 学生数はAが18人でDが23人、B、Cは各20人で合計81人だ。

 予科の2年間は全員成績如何にかかわらず進級できるが、あまり成績が振るわないと専科に進めない生徒も出てくる。そうなると別の学部を勧められるか、退学や転校も余儀なくされる。そんなときは基本時には転校することが多い。

 


 魔法学校中退って微妙に危ないらしいのだ。

 何がって、労働条件がだ。安いお金でめちゃくちゃ働かされる。ひどい時には騙されて借金奴隷にされるケースもあると聞く。

 学校の授業料が全額貸与なのはそのせいもある。利子がつかない元本のみの返済なのも良心的だ。



 えっ?国の義務なんだから全額無料にしろって?

 いやいや、とんでもなくお金かかるんだ。魔法って。

 魔法陣を描く専用の紙1枚で銀貨1枚なのだ。他にも魔獣の卵とか、私は自分専用のを買ったけど学校から支給される精霊石だって安くても金貨1枚と結構するのだ。うまく使えばしばらく使えるけどね。

 それを全部国民の税金で賄うなんて、暴動が起こっちゃうよ。



 そのうちの全員が国に有益な仕事につける訳もないからだ。


 奨学金の返還労働である国への奉仕が終わると王宮や貴族に仕えたり、私のようにクランに入るのはまれで、だいたいは市井に下っていく。

 フリーの魔法士になる人もいるし、お店に入る人もいる。勉強したこととは関係のない職に就く人もいる。


 魔力が強いったって本当に戦える魔法士レベルは少なくて、私が水魔法を教えてもらったおばさんみたいに家庭に入る子も多い。

 水魔法が使えると、いろんな商家から縁談が来るので有利なんだって。

そういう意味ではかなり有利らしいけど、私は奥さんじゃなく錬金術師になるんだ。


 もうすでに付与魔法と魔法陣が使えるので即戦力らしい。あとは錬成が出来ればいいんだけど、クランの商品開発部のアリルさんにもう少し魔力が育ってから教えると言われている。


 魔法士としても最低クラスの魔力なのですぐにエネルギー切れで戦いには向いていない。だからこれでよかった。

 でもこれからどんどん使える魔法が増えて魔力量が上がれば戦闘させられるかもしれない。

 やだなぁ、戦いたくない。




 それでは今の私のジョブ認定書はこちら。



 エリー・トールセン

 10歳


 水魔法 風魔法 土魔法 無属性魔法

 魔力量 518


 スキル習得大 努力 器用

 音楽 楽器演奏 絶対音感 共鳴 調和 調律 リズム 歌唱

 料理 製菓 製パン 調味料作成

 家事

 調薬

 園芸 飼育 保育

 裁縫 刺繍

 採取 狩猟

 付与 魔法付与

 鑑定

 計算 

 言語能力 文字解読 速読 朗読

 複写

 整理整頓

 描画

 発掘 

 研究

 細工

 清廉

 短剣 投げナイフ 弓矢 槍 棒

 罠製作 罠解除

 索敵 気配察知 気配遮断

 男装 演技

 マナー 立ち居振る舞い



 ジョブ

 錬金術師、楽士(薬師 学者 技師職は錬金術師に統合されました)




 さすが王都では魔力量や属性魔法も一緒に載るんだな。

 ニールじゃ別々に測ったもんね。

 類似のある項目が1行になるのもいいね。っていうか統合されるんだ。新しい情報がいっぱいだ。

 新しく歌唱や保育、速読、朗読が入っている。調味料作成もちゃんとついててよかった。速読は試験勉強のおかげだな。朗読・保育は……絵本の読み聞かせの事かな?



 なんでもすぐにスキルになるってやっぱりすごいです。



 校庭のベンチでジョブ認定書を見入っていると、後ろから肩を叩かれた。

「おはよう、僕の事覚えてる?」

 くるくる黒髪に分厚い眼鏡。

「ああ、ジョシュだっけ。おはよう」

「学生寮に来なかったからもう学校に来ないのかと思った」

「私入ったよ、女子寮に」


 ジョシュは目をパチパチして、

「男の子なのに?」

「違うよ!女だよ。男の子なら社交に制服でいいって聞いたから男装してるの」

「えっ?それでそんな格好してるの?」

 なにか珍獣を見たような(でも眼鏡が分厚くて目は見えないんだけど)感じでまじまじと見られた。


「重要だよ!女の子のドレス1着15万もするんだよ。しかもすぐに着られなくなるんだよ。買えないよ」

「た、高いんだね」

「最低2着だよ!30個も精霊石買えるよ。なら精霊石買った方が建設的じゃない」

「えーと建設的って、いいってことかな」

「うん、その方がずーっと役に立つってこと」



 ジョシュは口をじっーと閉じていたけれど、だんだん唇が震えだして大笑いした。

「何よ!こっちは真剣なのに」

「うん。君の言う通りだね。僕も女の子なら悩むと思う。でも本当に男の格好してくるのは君だけだと思うよ」

 何ですと⁈


「うん、君おもしろいね。友達になりたいな」

「それは……私もなりたい」

「じゃ、決まり。名前はジョシュ・ハーダーセン。父は庭師なんだけど、僕は文官になるんだ」

「私はエリー・トールセン。父さんはパン屋よ。錬金術師になるつもり」


「ねぇ、言葉遣いは女の子のままなの?せっかくだからそれも徹底しようよ」

「何で?」

「だって、目から入ってくるのと、耳で聞いているのがちぐはぐなんだもの」

「それ困る?」

「男だってマナー教室あってさ。女の子だとドアを開けてあげるとかしないといけないんだけど、トールセンはしてほしい?」

「別に。自分で開けられるし」


「友達だったら自分と平等に扱いたい。嫌かな」

「全然、私もそのほうがいい」

「だね」

「でもね、名前はエリーって呼んでほしいな。トールセンって偉い人に呼ばれているみたいだから」

「わかった。僕もジョシュでいいよ」



 ジョシュは同じCクラスだった。マリウスも一緒だから紹介してくれるって。

もう知ってるけど。

「いや、あいつのビックリする顔を見てやるんだ」ってさ。

 なにさ。どうせ変人ですよーだ。

 あれ?私誰に変人って言われたんだろ。うーん、思い出せない。



 誰かが制服を引っ張ってる。

「エリー、ぼくの事紹介しないの?」

 ああ、忘れてた。


「ジョシュ、この子は私の従魔でドラゴ君。カーバンクルでクランマスターの従魔なんだけどお借りしてるんだ。すっごくいい子だけど、お触りは禁止だよ」

「僕はジョシュ、よろしくね」

「よろしく」

 あっ、ドラゴ君握手しなかったな。女性じゃないからかな。



「そろそろ講堂行こうよ。マリウスはどこにいるの?」」

「マリウスは先輩騎士の練習を見学に行ってそのまま来るんだ。だからぼくにクラス分け見てきてってさ」

「ああやっぱり騎士目指してるんだ」

「うん、王国一の騎士になりたいんだって」


「じゃあ、ジョシュは王国一の文官?」

「僕は身の丈に合ったのでいいよ。エリーは?」

「錬金術師ってなるだけでたいへんだからね。一番にはこだわらない」

「確かに」



 2人と1匹で講堂の方に歩いていくと、さっきよりも人が増えていた。

「おい、聞いたか?今年の新入生のクラス分け、身分で決めたらしいぞ」

「お姫様に忖度したってことか、ますますエヴァンズらしさが失われるな」

「成績発表も本当は1位じゃないのに王女を無理やり1位にしたんだってさ」

「何だよそれ、だって今年の1位全問正解だったんだろ」


「どうなるんだろうな、この学校」

「今の学長になってからだぜ、錬金術科が閉じられたのをレント師の移籍のせいって言ってるけど、本当は学長と指導方針の違いなんだってさ」

「まずいな、これで姫騎士制度も失われたら」

「エヴァンズなくなるか2位から落ちるな」

「俺たちの就職が決まってからにしてほしいよ」

「全くだ」



 次々と入ってくる噂話。何やらややこしい話のようだ。

 ジョシュを振り返ってみると、

「嫌な話だね。エヴァンズは学問の前では身分にかかわらず平等をうたっているのにさ。どうも1位の子の上に姫様とお付きの公爵令嬢を入れたそうだよ」

「あっ」


 つまり3位の私が本当の1位だったんだ。


「何?」

「ううん、何でもない」


 自分から成績が1位だったってわざわざ言う必要ない。

 今までだって成績のよさで遠巻きにされていたんだ。

 聞かれてもないし、嘘をついているわけでもない。

 もし聞かれたら言えばいいし、もっと仲良くなってそんなことどうでもいいくらいになってから言えばいい。



「講堂みえてきたよ。入り口にいるのマリウスじゃない?行こう」

「うん」





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