第53話 黒き獣

「魔物はどんな奴なんだ!?」


 ショウヘイさんの案内で現場に急行しながら、サークが口を開く。私達だけでなく、カゲロウさんも後についてきていた。


「わ、解りません! とにかく大きくて、黒い事しか……」

「……三つ首を持つ、黒き獣……」


 サークの問いに答えたのは、ショウヘイさんではなくカゲロウさんだった。少し青ざめたその顔に、私は彼女が小屋にいなかった理由を悟る。


「カゲロウさん……カゲロウさんはもしかして、この事を視て……」

「そうか。……それで、魔物を探してたのか」

「へ? な、何の話です?」


 戸惑うショウヘイさんを余所に、カゲロウさんは小さく頷いた。その表情は、苦渋に満ちている。


「村に辿り着く前に見つけ出し、追い払えればと思うた……じゃが……やはり運命さだめは変えられぬというのか……!」

「……カゲロウ。アンタはどこまで『視える』んだ」


 自分の胸の内を吐き出すように言うカゲロウさんに、不意にサークが問う。カゲロウさんは戸惑った表情をしながらも、その問いに答えた。


「……災いの始まり。光景はいつも、そこで途切れる」

「そうか。なら始まり方の割に被害が大した事ねえってのも有り得る訳だな?」

「え?」


 それに対するサークの返しに、カゲロウさんが一瞬、ポカンとした顔になる。けど私には、サークの言おうとしてる事が解った。


「俺達がたまたまこの村に来てて良かったな。……災いなんざ、速攻で終わらせてやるよ」

「……!」


 今度こそ、カゲロウさんの目が大きく見開かれた。そうだ。どうせ避けられないのなら……被害を最小限で終わらせてしまえばいい!


「うん。魔物なんて、さっさと倒しちゃおう!」

「……お主ら……」

「あっ……アイツです!」


 ショウヘイさんが指し示す先、そこでは、家屋が炎に包まれていた。その様子は、いつかのゴブリンに襲われた村を思い出させる。

 その中央に、大きく黒い塊があった。四つ足で立ち、三つの首で辺りを窺っていたそれは、私達に気付くと一斉に総ての首をこっちに向けた。


「サーク、あれって……」


 いつでも戦闘に移れるよう構えを取りながら、私は口を開く。サークもまた、曲刀を抜き放ち小さく頷いた。


「ああ。俺も初めて見るが、恐らくは炎の魔犬、ヘルハウンドの変異種だ」

「だったら私の炎は効かないね。トドメは任せたよ、サーク!」

「任された。ショウヘイさん、アンタはこのまま避難してくれ!」

「わ、解りました! ここはお任せします、冒険者さん!」

「グルルルル……」


 ショウヘイさんの足音が遠ざかっていくのと同時に、三つ首の黒犬がこちらを威嚇するように唸り出す。その一挙一動から目を話さないようにしながら、私達は言った。


「さぁ……暴れるよ!」

「アンタもサポートを頼む、カゲロウ!」

「心得た!」

「……ウォオオオオオオオオオオン!!」


 黒犬のその遠吠えが。私達の、戦闘開始の合図になった。

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