番外編 胸囲の格差社会

「それじゃあサーク、入ってくるねー!」

「おう。浸かりすぎてのぼせんなよ」


 離れた所にいるサークに声をかけて、皆で服を脱ぐ。そして裸の上にバスタオルを巻いて、私達は温かいお湯の中に足を踏み入れた。



 野営の予定地に戻る最中にそれ・・を見つけたのは、全くの偶然だった。まず近くの川辺まで辿り着いた私達は、辺りが妙に暖かい事に気付いたのだ。


「もしかして、この辺りに温泉があるのかな?」

「温泉!? ボク入りたい!」


 何気無く呟いた私の一言に、テオドラが目を輝かせて食い付く。その勢いに戸惑っていると、プリシラがいつもののんびりとした口調で口を挟んだ。


「テオは~むっちゃお風呂好きなんや~。特に露天風呂が大好きなんやで~」

「うん! 満天の星空を見ながらのお風呂最高!」

「お、おんせん? 知識としては知ってるデスが……」


 困惑したようなレミの言葉に、私は少し考える。……そういえば、私も温泉って実際には入った事ないかも。


「お願いサークさん! ボク達を温泉に入らせて!」

「ウチからもお願いや~サークはん~」

「ハァ? ……まぁオークは全滅させてきたし、当面危険はなさそうだが……」


 テオドラとプリシラの二人に懇願されて、迷うような素振りを見せるサーク。ここは……一緒に押し切った方がいいかもしれない!


「サーク、私も温泉入りたいな……駄目?」

「……っ」


 上目遣いで、サークを見つめておねだりしてみる。前にドリスさんに教わった、男の人に何かを頼む時に有効だっていうテクニックだ。

 珍しく、サークが少し動揺してるのが暗がりでも解る。やがてサークは額を押さえ、私から目を逸らして言った。


「……過度の長湯は禁止な」

「やったー! ありがとう、サーク!」


 こうして私達は、温泉に入る事になったのだった。



「……何でワタシまで付き合わされてるデス……」


 少し離れた所で、レミがそうブツブツと文句を言う。今はビン底眼鏡を外して、銀色の瞳が露になってる状態だ。


「お風呂は皆で入った方が楽しいんだよ、レミちゃん!」

「せやで~。サークはんも一緒に入ったら良かったのに~」

「あ、あはは……」


 恥ずかしげもなく言ってのけるテオドラとプリシラに、思わず苦笑いが浮かぶ。……この二人、ちょっと、異性に対する羞恥心が薄めっていうか……。

 女の子からのお誘いは基本的に受け流すサークだけど、二人からお風呂に誘われた時には流石に面食らっていた。深い意味は全くないってすぐに解ったから、私も妬くような事はしなかったけど……。

 ……それにしても。


「二人って顔はよく似てるけど……似てないところもあるんだね……」


 ある一点に視線を注ぎながら、私はポロリと漏らしてしまう。顔立ちと背格好は本当によく似た二人だったけど、その部分・・・・だけは大きく異なっていた。


 テオドラのそれ・・は、この中では群を抜いて大きく張りのある膨らみ。

 対してプリシラのそれ・・は、悲しくなるくらいに起伏がない。


 私も正直、小さい方だとは思うけど……プリシラに比べたらまだ膨らんでるって思える。それほどの差だった。


「そう! そうなんや~クーナはん!」


 するとプリシラが急に身を乗り出し、私に詰め寄ってきた。その勢いに、私は思わず後ずさる。


「テオはズルいんや~! ウチら双子なんに一人だけボンキュッボンで、せやから露出の多い服もよお似合って! ウチは……ウチは~!」

「プ、プリシラ、落ち着いて……」

「クーナはんもウチよりおっきいし! ウチの気持ちを理解してくれる人なんていないんや~!」

「そ、そうだ! レミ! レミは!?」

「フェッ!?」


 急に話を振られたレミが、肩をビクッと震わせる。ゴメンレミ……これもプリシラを宥める為なの!


「そ、そうや~! ちんまくて可愛いレミはんがおったわ~! レミはん、ウチら仲間やんなぁ?」

「こ、来ないでデス! 見えなくても雰囲気が怖いのは解るデスっ!!」


 レミがじりじりと後ずさっていくけど、やがて温泉の縁にぶつかり、それ以上下がれなくなる。プリシラは両手を一杯に広げて、今にも飛びかからんほどの勢いだ。


「ちょーっと……ちょーっと見せてくれるだけでええんやで~……」

「ヒ、ヒィ……」


 追い詰められたレミは、胸元を隠しながらすっかり怯えた泣きそうな顔になっている。万が一に備えて、私もプリシラのすぐ後ろへと移動した。


「さぁ、ない者同士悲しみを分かち合おうやないかぁ~!」

「イ、イヤアアアアアアアアッ!!」


 そして、遂にプリシラに捕まり、ハッキリしたレミの胸の膨らみは。


 ――テオドラほどではないけど、明らかに私より大きかった。


「……」


 プリシラが、ビシッと固まったのが解った。私の目も思わず、レミの胸の意外な大きさに釘付けになる。


「……この……」


 低い声で、プリシラが何かを呟いた。それに不味い、と我に返った時にはもう遅かった。


「この……裏切りおっぱい~!!」

「ヒイイイイイイイイッ!!」


 正面からレミの胸を鷲掴み、揉みしだき始めるプリシラ。慌てて止めに入るけど、どこから力が沸いてくるのか全然止まってくれない。


「テオドラ! お願い、一緒にプリシラを止めてー!」


 私は振り返り、テオドラに助けを求める。するとテオドラは、満面の笑顔でこう言った。


「うん! やっぱり皆で入るお風呂は楽しいね!」

「そんな事言ってる場合じゃなーーーいっ!!」


 満天の星空の下、私のそんな絶叫が辺りに木霊した。

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