第9話 護衛任務

「はい、確かに。それではこちら、依頼の報酬になります」


 差し出した依頼の遂行書を確認した受付のお姉さんが、革袋に入った報酬金をカウンターの上に置く。それを私は、両手でしっかりと受け取った。

 この冒険者ギルドの仕組みはこう。まずは民間や国からの依頼が貼られた掲示板から、やりたい依頼を決める。

 やりたい依頼が決まったらその依頼書を持って受付へ。そこでギルドが登録時に各冒険者に割り振った個人番号を記録して、遂行書を渡す。

 そして依頼を達成したら依頼主に遂行書へサインを書いて貰って、そのサインの筆跡とギルドに保管されている依頼主のサインとを照合して一致したら報酬が支払われる。こんな感じだ。


「それと、依頼のスウェイ村が魔物により焼き討ちされた。至急救援を頼む」

「スウェイ村……はい、確かに保険に登録されてますね。かしこまりました。早急に救援を寄越します」


 最後に村の被害を確かに報告して、私達は受付から離れた。私は隣のサークの顔を仰ぎ見、口を開く。


「これからどうしよっか、サーク?」

「そうだな……そろそろ次の国に移動したいとこだが。ちょっと掲示板を見てみるか」


 そう言って、サークが民間の依頼が貼られた掲示板に足を向ける。私もすぐに、その後に続いた。

 国を離れたいのに、何で依頼を探すのか。それは国を離れるのに最適な依頼があるからなのだ。


「さてと。今回はどうかな……」


 サークと一緒に、所狭しと一面に貼られた依頼書を眺める、と、掲示板の下の方に丁度目当ての依頼を見つけた。


「サーク、あったよ! 商隊の護衛任務!」


 私が声を上げて指差すと、サークが身を屈め依頼書を確認する。そして依頼書を全部読み終わったところで、口の端を吊り上げてニヤリと笑った。


「行き先は西のフレデリカか。丁度いい」

「私達が辿ってきたルートにも合うね」


 お互い顔を見合わせ不満がない事を確認してから、サークが依頼書を留めてあるピンを外す。こうして私達は、依頼を受けるべく再び受付へと引き返していったのだった。



 魔物がいても、国同士の交易はしなきゃいけない。自給自足だけでやっていける国なんて、世界中に数えるほどしかない。

 そこで国同士の交易を専門とする、移動商隊が結成されるようになった。国から国へと渡り歩き、国を越えた物品の流通を図るのだ。

 けど今の時代国境を越えるには、常に危険が付きまとう。何しろいつどこで、魔物に襲われるか解らないのだ。

 なので商隊が国境を越える際には、冒険者を雇うのが常だ。金品は支部を越えては管理されないから、この依頼だけは報酬は先払いする事になっている。

 だからといって、報酬の持ち逃げなんて厳禁。金品は確かに支部を越えないけど、情報は国境なんて関係なくギルドの全支部で管理されているからだ。

 一度規約違反が発生すれば、その情報は瞬く間にギルド全体に広まる。そして規約違反者は冒険者としての資格を剥奪されて、二度とギルドで依頼を受ける事は出来なくなる。

 そんな訳で、わざわざ自分の食い扶持がなくなるような事をする人もいないという訳。冒険者は信用が第一、がギルドのモットーだからね。


 そして冒険者側にとっても商隊の護衛を引き受ける事は、報酬以外にもメリットがある。まず食費と宿泊費が必要経費として、商隊側の負担になる事。

 収入が不安定な冒険者にとって、移動中の食費と宿泊費がタダになるのはとても助かる。野宿時も保存食とは言え食事が提供されるから、食べ物の心配は一切しなくていいと言っていい。

 但しその代わりに、もし魔物が出てきたら逃げる事は許されない。商隊と積み荷を守る為、全力で戦わないといけない。

 以上の事から、腕に自信のある、かつお金はなるべく節約したい、そんな人が次の国に移りたい時率先して受けるのがこの護衛任務なのだ。私達はそんなにはお金に困ってないけど、いつどこで余計な出費をする事になるか解らないからね。


 ギルドから言い渡された出発日は三日後。私達の他にも、同じ依頼を受けた人がつくという事だった。

 私達は三日間をしっかり長旅の準備をしながら過ごし、そして、出発の日を迎えた――。

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