ショタっ娘のお祭りデビュー(19)

「まぁ一言で表すと簡単なゲームなんだけど、その種類はいろいろあるよ。例えば金魚すくいだろ」


「金魚すくい? なぁにそれー」


 すくう事になのか、あるいは金魚という品種に引っかかったのかは分からないが、いずれにせよ、ミオにとって金魚すくいは初耳だったようだ。


 もっとも、今日が記念すべきお祭りデビューの日だから、知らないのも無理からぬ話ではあるが。


「えーとな。金魚すくいってのは……」


「あっ、もしかしてミオちゃんじゃない?」


「え?」


 俺が金魚すくいの遊び方を説明しようとした途端、背後からミオの名を呼ぶ少女の声がした。


 この声には聞き覚えがあるな。確か、髪が伸びてきたミオを、ヘアーサロンへと連れて行く最中に出会った――。


「やっぱりミオちゃんとお兄さんだぁ。やっほー」


「およ? この声は里香りかちゃんだよね?」


 俺たちが後ろを振り向くと、フリル付きのかわいい浴衣ドレスに身を包んだ、ツインテールの女の子が手を振りながら、こちらへ駆け寄ってきた。


「そだよぉ。久しぶりだねっ」


 ん? 久しぶり?


「ミオ。終業式の後、里香さんとは会ってなかったのかい?」


「うん。里香ちゃん家、夏休みになったらオーストラリアに『ろんぐすてい』するから、しばらく会えないって言ってたんだよ」


 ロングステイ、つまりは長期滞在か。


 そんな余裕があるって事は、ひょっとして里香さんの親族は、資産家か何かなのかねぇ。


「こんばんは、ミオちゃんのお兄さん!」


「やぁ、こんばんは。よく俺たちが分かったね」


「はい! ミオちゃんの髪の毛の色で、すぐ分かっちゃいましたぁ」


 なるほど、そこに着目したか。


 確かにミオの髪色はおそらく唯一の、遠くからでも目立ちやすい爽やかなブルーなので、他人と間違える事はまず無いんだろうな。


「わー。里香ちゃん、フリフリでかわいい浴衣着てるー」


「ミオちゃんの浴衣も、お魚さんの絵がいっぱい描いてあるの、すっごくかわいいよぉ」


「えへへ。これ、お兄ちゃんにも一緒に選んでもらったんだー」


「いいなぁ。あたしのパパなんて、全然浴衣に興味がないんだよ。だからこないだ、ママと二人で買ってきたの」


「よく似合ってるよー。スカートっぽくて涼しそうだね」


「でしょ? でも、ちょっとだけ短いかなって思ってるんだぁ」


「それって、ショーツが見えちゃいそうだからってこと?」


「うん。ミオちゃんもショーツを見られないように気を付けなきゃだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る