義弘お兄ちゃんの懸案事項(9)
「ほら、要するにあれだよ。実家へ帰るなり、『俺たち結婚します』って話をしたら、親父とお袋がびっくりしちゃうだろ?」
「んー。確かにそうかも」
ミオが難しそうな顔をしつつ、何度か頷く。
この様子から察するに、おそらくミオにも何となく分かっているのだろう。突然実家を訪れたショタっ娘が、いきなり俺の嫁になると宣言する事の突拍子のなさが。
「それと、もしかしたら来年の誕生日までに、ミオが心変わりするかも知れないじゃん」
「え? なぁに? ココロガワリって」
「心変わりってのは、平たく言うと、自分の気持ちが切り替わるって意味かな。で、この場合だと、ミオが俺以外の人を好きになるって可能性が――」
「そんな事ないもん!」
言葉の意味を理解したミオは、俺が話終えるのを待ちきれないといった感じで、席を立ちながら全力で否定してきた。
「ボク、絶対に、お兄ちゃん以外の人を好きになったりしないもん」
「ミ、ミオ?」
「お兄ちゃんなら分かってくれるでしょ? ボク、また逢える時まで、ずっとずーっと待ってたんだからね」
そこまで言われると、もう返す言葉も無かった。
この子は俺と初めて出逢った四年前、よちよちと近づいて行って頭を撫でられ、その瞬間から、俺に恋をしたらしいのだ。
つまり、ミオにとっての初恋のお相手は、同じ男の俺だったという事になる。
で、その初恋の相手に再び逢えるまで、四年という長い間、ミオはずっと待っていてくれたのだ。そんな健気な子が、俺以外の人に目移りだなんて、万が一にもあろうはずがない。
よって、今の心変わりの件は、完全に俺の勇み足であり、蛇足でもあったということになる。
「ごめん、そうだったね。俺もミオの事を信じてるから、さっきのは無しで」
「うん」
とは言ったものの、俺は何かにつけ、この子に浮気を疑われてきているから、いささか不平等な気がするんだよな。
もっともミオの場合、彼氏の事を信用していないというよりは、俺が仕事で家を留守にしている間、誰と出会っているか分からないから、心配で仕方がないのだろう。たぶん。
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